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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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攻略戦・三夜目

 どこかで予感のようなものはあった、初日、二日目と変化をつけ攻撃をより強力にしていっていた、あまり長引かせれば当然のように援軍がやって来て挟み撃ちにあう、短期決戦で陥落させ防備を固める、そのためにも敵には時間が残されてはいない、仕掛けるとしたら今夜か明日あたりであろう。そんなエレーナの予感は的中した、


「裏門に敵多数襲撃!投石器もあり櫓からの狙撃もままなりません!」


 来たか、彼女は心中で予想がほぼ当たっていた事を予感しつつ指示を出す、


「現状維持!裏門防衛は表同様対処せよ!」


 裏門にも多数の襲撃がある事を想定し、戦力の多くを割き防衛にあたらせていた、しかしそれすらも陽動であり、本命はやはり正門突破であろうと読んでいた、しかし脇道からも同時に来る可能性もあり、予断は許されない、内部への侵入を許せばたとえ少数でもかなりの被害が予想される、


「裏に注目させ他からの攻撃も十分ありえる、気を引き締めろ!」


 檄を飛ばす彼女の声に村人も答える、士気はいまだ落ちていない、村の陥落が自分達に及ぼす事を考えれば、死守という選択肢以外はありえなかった。

 日が出ているうちの攻撃は投石器のみで行われ、投石攻撃から身を守れる場所で門の防衛、それ以外の場所でも敵の侵入に備えての工作、修復を行っておりまさに不眠不休の戦が続いていたが、誰の口からも愚痴は出なかった。

 『さぁ、どこから来る?本命はどこだ?』彼女は敵がどこに本命戦力を持ってくるのか、敵が動くのをひたすら待っていた。


「敵襲!南東より多数!」


「敵襲!西北より多数!」


「敵襲!北より多数!」


「敵襲!西より多数!」


「敵襲!東北より多数!」


 侵入可能な脇道全てから突撃をかけてきた、どのようにしても侵入不可能な場所を除き5か所だけはなんとか侵入可能な場所がある。村の者達も周知しており高い塀を設置し簡単には突破できないよう備えていた、しかも狭い脇道であるがゆえに大軍が一気に押し寄せる事は物理的に不可能な地形のはずであった、


「多数とはどういうことか?」


 エレーナは声を荒げて質問するが、伝令達は一様に、


「わらわらと多数が所狭しと塀へ押し寄せてきています!」


 人海戦術で突破口を開くつもりなのか?間道にそれだけ人員を割けるとなると、総勢でどのくらいになるのか?考えると血の気が引き青くなったが、気丈に次の指示を出した、


「各々3名づつ増員、片っ端から撃て!」


 全ケ所が一斉に突破されたらもはや打つ手もない、防ぎ切ってくれる事を祈りつつ、次の伝令を待っているが、どうしても落ち着かず近くにいた者に尋ねる、


「裏門の戦況はどうか?」


「特に報告のないところを見ると、現状防げているものかと」


 そうか、と返答しながらも6ケ所で同時に戦闘がおこり状況が完全には把握できていない事がこれほど歯痒いものとは思ってもいなかった。

 元々レギナントと共に戦った戦歴はあるが、それでも指揮官を彼に任せ駒に徹していただけであり、実際に総指揮官の重責を担う苦痛を体験するのは初めての事と言ってよかった、


「きついものだな・・・」


 彼女の誰にも聞こえないような呟きは、次の伝令で吹き飛んだ、


「正門に敵多数、丸太での門破壊に加え、梯子を使って突破しようとしています!」


 やはり本命は正面か、しかしそれさえ凌ぎ切れば勝てる、そう思うと矢継ぎ早に指示を出した、


「対処方はいつも通り、熱湯、弓、登ってくる敵は槍で串刺しにしてやれ!」


 暗闇に紛れて正確な数は分からずとも、正門、裏門ともに間道よりは広い道とはいえ、平野部にある大きな村や町などとは比べるべきもない小さな道であり、大軍が一斉に来たとしても、渋滞してしまうためなんとか持ちこたえられる、門の破損状況もまだかなり維持できる状況であろう、そんな事を考えていると、さらなる追撃とも言うべき伝令が来た、


「正門、敵味方問わず投石器の集中攻撃を受け、反撃ままならぬ状況です!」


 敵味方入り乱れての乱戦になれば当然のように投石器のような広範囲を攻撃するような兵器は使用できない、ピンポイントで狙いを定めて攻撃できるような兵器でもないのだから、ただし味方の犠牲を厭わず相討ち覚悟でなら使用する事も問題なくできるのである、このケースのように。

 完全に今夜のうちに勝負を決する覚悟であろう事は予想がついた、門の被害がそれほどでもなかったのも、今後の防衛で自分達が使うためであろう事が予想できた、チっと舌打ちをすると、次の指示を出した、


「正門を捨てい!防衛ラインを下げる!」


 援軍の到着までなんとしても保たせなければ、そんな悲壮な思いで唇を噛み締めながらの後退命令であった。




「正門突破!」


 伝令の報告にその場にいる男達は小声で「おお!」と歓声を上げた、ただ指揮官らしき男だけは静かに尋ねた、


「被害状況は?」


 一瞬の沈黙の後伝令が答える、


「現場から報告は上がっておりません」


「そうか」


 現場はあえて被害状況を報告に上げなかった、指揮官が心を痛めるのが目に見えていたから、伝令も理解していたからこそ聞かなかった、ただ全員の思いはこの時一致していた『あと少しで悲願が成就する』と、しかし続いての伝令でその想いは崩壊した、


「先鋒部隊壊滅!」


 ガヤガヤとした声が上がる、どういう事だ?と伝令に詰め寄る者も出てきていた、


「詳しく申せ」


 指揮官は努めて冷静に、よく通る声で尋ねた、


「はっ!正門を制圧した後内側から門を開け部隊を導き入れ突入、制圧へと移行予定でした、重装歩兵を前面に出し突撃をかけたところ、門を少し入った所が沼地のようになっており、足を取られ身動きできないところへ矢の集中砲火により壊滅状態となりました」


「どういうことだ!敵は奥へ撤退したのであろう?なぜ急に沼地が出現すると言うのだ?」


 聞いていた他のものが声を荒げて詰問する、しかし伝令も臆しながらも状況の説明を続ける、


「それが、膝ほどの深さのぬかるみで、人為的に地面を掘り水を引き、泥状にしていたようでした、ただ、何か所か人ひとり通れる道が確保されており、それを知っていた敵はそこを通り撤退して行ったようです」


 一同は説明を聞き静まり返ってしまった、内部にも多少の備えはあると思っていたが、入り口の側にまでここまで大掛かりな細工が施されているとは思っていなかったのである。

 門の構造的に防衛の要として機能させる必要があり、その近辺にさらなる罠を設置するのは構造的にまずありえない設計であると考えられていたからである、もし敵を殲滅する構造を作るとしたら、門の前で集中砲火を浴びせられるように角度を考えて複数の櫓を設置して行うはずであろうという常識を逆手にとった配置であり、盲点を突かれた罠であった。


「門は確保できたのだな?」


 沈黙を破るかのように、指揮官らしき男はつとめて冷静に尋ねた、


「はっ!奪還されぬように確保しております」


「ならよい、明日日の出とともに総攻撃で落とせる、全部隊を正門に集中させ一気に落とす」


 暗闇の中、顔色までは読めなかったが、付き合いの長い者であったならその声に諦観の色が浮かんでいる事に気づいていただろう。




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