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レイヴン戦記  作者: 一弧
第二章 もう一つの鴉旗
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笑顔の行軍

 『色々おかしいのではないだろうか?』ゲルトラウデは行軍中、少し酸素供給の追いつかなくなりつつある頭で考えていた。

 彼女は指揮官代行を任命された時、以前の苦い経験が頭をよぎった、諦めにも似た心境から受け入れる覚悟さえしていた、しかし村への行軍が始まってみればそれがいかに供に戦う者達を馬鹿にした考えであったのかを思い知らされた。夜を徹しての行軍にも文句を言わず、彼女の荷物さえ若く体力のあるものが分散して持ち、小隊長に任命されている青年団の者達も協力的であった。

 それでも不安は頭をよぎる、こんな小娘が指揮官で不満はないのであろうか?そんな考えも頭をよぎるが、とりあえずついて行くのが精いっぱいであった、ペースが格段に速い、そして周りをみても皆息がほとんどあがっておらず、最初に倒れるとしたら自分だろうと思い知らされる、以前の戦いでは自分のような小娘に体力負けする男達が兵士としていかほどの役に立つのか?と常々軽蔑の感情と共に見ていたが、この村の住人は練兵を終えた兵士の風格をしっかりと持っていた『名将の元に弱卒なし』とはよく言ったものだと改めて感心した。

 呼吸がかなりきつくなる頃に中継地点の村へ到達した、彼女はやっと休めると思ったが兵団のまとめ役のマルティンが近寄ってくると一言尋ねた、


「どうしますか?」


 彼女は一瞬なにを尋ねているのか理解できなかったが、その質問が村を通過してさらに進むか、それとも休憩を入れるかの選択を尋ねたのだと気づくと、自分の甘さが嫌になった。


「急ごう、村が心配だ、戦闘もありうるので休憩は村手前でまとめて取ろう」


 彼女は休みたかったが、指揮官代行が一番怠惰であるなど恥ずべき行動以外のなにものでもない、そのことは自分が痛いほど痛感していた、それゆえに気丈にもさらなる進軍を指示した、それを聞くとマルティンは、側にいたかなり体格のいい男に「おい」と軽く目配せを送る、それを受けてその男は「失礼しますよ」

と言いつつ彼女を抱え上げた、


「え?なにを・・・?」


 マルティンは笑いながら答える、


「無理しなさんな、倒れられたら困りまさぁ」


「え?いやだが・・・」


「到着してから作戦指揮と領主の影をしっかりこなしていただくためにも、ここでは体力温存ですよ、なぁに猪や熊かついで村へ帰るのに比べりゃ軽いもんでさぁ」


「いや、いい勝負かもしれませんよ」


 彼女を背負った男の言葉にその場にいた者達の笑いがこぼれるが、彼女は顔を真っ赤にしながら男の首を絞めていた『やばい甘い物とかちょっと食べすぎてたかもしれない』等と考えながら。

 体格のいい者が背負い行軍はさらに続いた、猪や熊と比較されるのは乙女的にかなり微妙であったが、『この村の住人はどこかおかしい』と自然と笑みがこぼれていた。



 行軍の初期、場の空気は剣呑なものを含んでいた。特に確証もなく憶測で自らの軍を帰したうえで、手薄だから若干の被害覚悟で奪還もしくは包囲するべし、そんな進言を行ってきたテオドールに向ける伯爵旗下の目はかなり冷ややかな物があった。

 しかも当の本人は鎧も纏わず極めて軽装で行軍に参加している、伝説のように語られる先代もふざけたところがあったが、この若造も似た空気を纏っている、そう考え反感をいだく人間も少なくなった。 

 当の本人はどこ吹く風とばかりに、オルトヴィーン、ヒルデガルドと、まるでピクニックにでも行くかのようにくつろいだ行軍を行っていた、さすがに見かねて注意とも嫌味ともつかない発言をする者もでてきた、


「レイヴン卿におかれましては、ずいぶんと軽装ですがそれで戦闘に耐えられるのですかな?」


 その言葉を受けると、嫌味の類だとしても一応の回答を出さないとまずいとの思いから答える、


「まぁ戦闘に関しては、ほぼ戦力外ですからねぇ」


「へ?」


 予想外の回答に虚を突かれている所に、さらにヒルデガルドの追撃ともフォローともとれる援護が入る、


「ああ~無理無理、お義母様に稽古つけてもらっても、毎回毎回半泣きにされて一本も取れないんだからね」


 バツの悪そうな顔をしながら答える、


「いや、ここでバラさなくてもいいんじゃ・・・」


 『肯定しやがった!』そこにいた一同全員が心中で同じ事を叫んでいた、さらにヒルデガルドの攻撃は続く、


「だいたい乗馬も私の方が上手いくらいなんじゃないの?」


「人間のじゃじゃ馬は乗りこなせるんだけどね」


 彼なりの精いっぱいの反撃であったが、鼻で笑って返される、


「あれで、乗りこなしてるつもり?」


 あっさりと沈黙させられてしまう、その様子をあっけにとられて眺めていた一同も、どこか気の抜けたような、それでいて仲睦まじい二人の様子に思わず、苦笑いとも微笑みともいえない笑いが洩れる。

 そんなやり取りの中で、テオドールは彼女の洞察の深さを改めて感じていた、当初この行軍に彼女は同行する予定はなかったのだが、彼女が志願して同行する運びとなった、彼女に言わせれば自軍を帰したテオドールに対する風向きがかなり厳しいものになる事が予想される中、自分が側にいて上手く立ち回る事によって風向きは大きく変わる、というものであった。

 予想があたっているならば村がかなりの危機的状況に陥っているであろう事を想像し、不安な行軍を続ける中で、彼女の存在は強い支えとなっていた。





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