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レイヴン戦記  作者: 一弧
第一章 急転
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領主死去

 食事がグレードアップしたのと、自分で作らなく済むのはいいのだが、やはり領主屋敷に住むのは慣れない、何より軽口を聞けるのが一応侍女長ということになっているアルマしかいないことがストレスになっていた、他にも覚えなくてはならない事が大量にありきついが、何よりきつかったのは、奥様との面談だった、息子を亡くし、今まさに夫を亡くそうとしている時にもかかわらず、かなり気丈にふるまわれていた、


「慣れないとは思いますが、これからは母と思って接してください」


今まで領主夫人として、碌に話したこともない相手に『それ無理』と思ったけれど、かろうじて返事をするのが精いっぱいであり


「かしこまりました」


「そこは、単に『はい』でいいのよ、あまりかしこまられても不自然ですからね」


「はい」


 本当に簡単な会話に終始するのみであった。

 領主夫人であるエレーナは元々は貧乏な宮廷騎士の家の出身であった、一日一食食べられるかどうかとい貧しい暮らしであったが、いくつかの偶然が重なり領主夫人となり、実家への仕送りさえできるようになっていた。

 子供にも恵まれ、極めて順調であると思っていたのに、息子を亡くし夫もそう長くない、そんな状況が急転直下やってきた、悪夢なら醒めて欲しい、息子を失った時には半狂乱でそんな事も考えたが、現実がいかに酷であるかは彼女のこれまでの人生で嫌と言うほど理解していた、もしもっと若く、この世に夢を見られる年頃であったなら耐えられなかったかもしれない、年月の積み重ねが彼女を強くしていた点と、地位に相応する義務感によって辛うじて気丈に振舞う事が出来ていた、そんな状態であったが、テオにはそんな彼女の内面まで見通すだけの洞察力は備わっていなかった。

 しかし、テオを見る時に、亡くなった息子のラファエルと似ていなくて良かったかもしれない、そんな事も考えてしまっていた、従兄弟にあたるはずだが、まったく似ていなかった。もし瓜二つというほど似ていたら、亡きラファエルを思い出し本当に耐えられなくなっていたかもしれない、そんな事を考えていた。


 書庫で領主家の来歴、戦歴、を読んでいる時間がわりと一人でいられて楽ではあったが、それでも長時間書物とただ向かい合っているのは非常に飽きを感じ、乗馬の訓練がかなり息抜きとなっていた。

 ご領主の体調がよい時に一回だけ面会が行われた。医学の心得がない者でも、衰えは顕著にわかり、先が長くないことを予見させる状態であった。昔からのんびりとした領主様と思ってみていたが、戦歴は脅威的で、3度の大規模戦闘で少数の遊撃兵を率いて3度にわたって敵の総大将を生け捕りにする武勲をたて、一介の領主騎士から準男爵の爵位を得て吟遊詩人の英雄譚に謳われるほどの人物だとは、大規模戦闘を知らずに育ったテオにはイメージしずらいものであった。

 面会では病と息子に先立たれた気落ちから、かなり弱り果てた様子ではあったが、静かに穏やかな様子で語りかけてきた。


「面倒な事に巻き込んでしまってすまなかったね」


 いきなり謝意を含んだ内容から入ってくるとは、まったく予想していなかったために、完全に面食らってしまった、テオにはかろうじて不明瞭に「ああ、いえ・・・・」などと答えるくらいしか答えようがなかった。


「そんなにかしこまらなくていいよ、今後来歴を見てくれれば分るが、傭兵をやっていた私の父が手柄を立てて領地をもらったのが来歴であり、そんなたいした家でもないからね、それに私と君は正確には叔父と甥にあたる、そこまでかしこまる必要はないさ」


それだけ言うと一息つき、ゆっくりと続けた


「いざという時は君に継いでもらわなくてはいけないと思っていたから、それとなく様子を見させてもらっていたが、たぶん大丈夫だと思う、カイやエレーナと相談してうまくやってくれ。まぁ失敗したら、運がなかったくらいに思ってそんなに気負わずにがんばってくれ」


 死を目前に控え、ある種の達観なのかもしれないが、そこまで言い切れるのはある意味すごいのかも?ただ、自分もこんな感じに達観していると言うか、いい加減な感じに見られていたのかと思うとなんとも気恥ずかしい気もした。それが最初で最後の面会になったが、戦場で『死神』の異名で恐れられた人物とはどうしても結びつかないものであった。


「あっそうそう、テオって名前だとちょっと貴族連中にはったりがきかないからテオドールなんてどうかな?」


 思い出したように最後に付け加えるように出した提案にしても、テオとしては「仰せのままに」としか答えようがなく、「だから、かしこまらなくてもいいんだけどね・・・・」と力なくではあるが微笑まれていた。

 それから間もなくして、領主の死去は村中に告げられ、シナリオ通りの発表がなされた、疑問に感じた村人もいたかもしれないが、特に騒ぎ立てるような人物は出ることもなく、領主と戦場をともにした村人達はより一層の悲しみにくれていた。テオはというと、悲しむよりも葬儀の主催という名目で侍従長のカイ、領主夫人のエレーナ、侍女長のアルマと共に目が回るような忙しさで、悲しみを感じる余裕などまったくなかった。

 葬儀が一段落すると、王都にのぼり王より継承の認可を受ける旅への出発となる。事前に通過予定の領主には事前に使者を出すが、その手配はカイがやってくれており、テオとしては不安感もあったが、生まれて初めて出かける村の外への旅行に不謹慎にも少し楽しささえ感じていた。後に思うことになる、できれば言い訳を考えて王都になんて行かなきゃよかった、と。

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