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レイヴン戦記  作者: 一弧
第三章 新世代
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水面下での戦い

 開戦前に行われた会議と同じ場所で会議は開かれた、違っている点と言えば、フリートヘルムの近侍が一人入れ替わっているくらいである。

 食事会と言う名目ではあるが、その実態が論功行賞の下準備であることは明白であった。


「此度の戦功第一は誰がどう見てもフリートヘルム殿であるのは明白であるな」


「いえ、閣下の下準備と、ゲルトラウデ殿の作戦立案あったればこそです」


 ヴァレンティンの称賛をフリートヘルムは謙遜にてかわすが、半分以上は本心であった、特にゲルトラウデの作戦がなければ城塞都市の陥落など絶対にできなかったと思っていた。


「ふむ、陛下も作戦立案に関してはいたく感心しておられてな、カディス攻略で多大な戦果を挙げたアストリッド共々を騎士叙勲して側近くに仕えてはどうか?という意向を示しておられたのだ」


 この提案を聞いた両者の反応は対象的であった。

 アストリッドは功績が認められ正規の騎士としての登用という、従騎士の娘にとってはありえないような出世に目を輝かせ「是非に!」と即答していた

 そんなアストリッドの喜びようを醒めた目で見ていたゲルトラウデはかなり冷静な声で質問を発した。


「それは側室に入れとのご意向でしょうか?」


 そのゲルトラウデの回答する様子を含めてヒルデガルドもテオドールもかなり無表情に聞いていた、側近そばちかくに仕えよという事が愛人となれという意味を持つ可能性の方が近衛騎士として登用と考えるよりはるかに自然であった、そしてこれが軍師として自慢した人物に対しての引き抜き工作である事も理解できた。

 単純に考えるのであれば、地方領主の侍女から国王の側室であれば大出世である、たいていの者であれば手放しで喜んだであろう。


「いやいや、陛下との雑談の中でな、儂がそなたの事を褒め過ぎたのだ、そうしたら興味を持たれてしまってな」


 まだこの段階なら雑談の延長であり、断っても角は立たない、暗にそう言っていた。


「力ずくでも奪うって言われたら困ったんですが、主人の愛妾なので、それは少しお断りさせていただきますわ、この子がいないと不機嫌になってしょうがないものですから」


 予期せぬ所から助け舟が出た、ヒルデガルドが出鱈目を言い出したのだ。彼女なりの計算はあった、テオドールに迷惑がかからないように人身御供のような気分でフェルディナントの元に行ったら、絶対にテオドールとフェルディナントの間に溝ができる、女として妻としては、ゲルトラウデの存在は若干気にかかるものがあるが、家の今後を考えれば王家に差し出す方が今後により大きな禍根を残すと判断したのだった。

 ついでに言えばもし二人の関係が深まっても容認したということでゲルトラウデは恩義に感じ、自分に対して取って代わるような野心までは抱かないだろう、テオドールにしても容認してあげたという精神的優位さをより強固なものにできるだろうという、かなり腹黒い計算が部分的にはあった。


 彼女の言葉にテオドールとゲルトラウデはついて行けず、芝居としては統一感に欠けたが、ヴァレンティンはあえてその芝居に乗る事とした。


「左様か、馬に蹴られたくはないので、それは控えておくよう進言しておくか」


 愉快そうに笑って流そうとするヴァレンティンだが、ヒルデガルドは内容の若干の変更を示唆しつつ、提案を開始する。


「騎士叙勲に関してはいいかもしれませんわね、寄騎として留まるのであれば問題ないでしょうし、そして彼女の作戦立案能力を高く買っていただいているのであれば、もう一つ披露したい案が彼女にはあるのようです」


 「ほう」と興味深そうなヴァレンティンに対し、急に話を振られ一瞬戸惑ったが、山に道を通す新ルートの一件である事を理解すると、持ち出された地図の上をなぞるように説明を開始した。

 時間、予算ともにかなり無理のある計画に苦笑いを浮かべながらも、「一応検討しておこう」と言いその議題は終了する運びとなった。


「しかし、今度得た地の分配はいささか厄介だな、卿はどう思う?希望はあるかね?」


 地図を見ながら思案するように眺めていたヴァレンティンは急に話題をフリートヘルムに振った、フリートヘルムとしてもこの話題はいずれ避けて通れないものである事は理解していたので、回答に澱みはなかった。


「はっ!此度は我が戦績を残せたことで十分満足しております、新たなる獲得地は王家直轄とするがよろしいかと」


 領地に組み込んだばかりでは統治にかなりの手間を要する上に最前線となるだけに維持、管理にも神経を使う、厄介な土地を押し付けようという魂胆が隠すまでもなく見え見えであった。


「欲がないな、若い者はもっとギラギラとした野心があっていいものじゃないかね?」


「いえ、私より若いにもかかわらず、野心の極めて薄い方もいらっしゃいますから」


 そういうと二人の視線はテオドールに集まった、『俺かよ!振るなよ!』テオドールは心中でそう思ったが、あえてその視線を無視することとした。

 そんなやり取りの最中、予期せぬ所から発言があった。


「あの~、私はやはり騎士叙勲の後、近衛騎士ということでよろしいのでしょうか?」


 アストリッドが何を思ったのか急に質問を発した、ヴァレンティンとしては、基本的に彼女の処遇はほぼ決まっていることであり、本人もそれを望むであろうと思っていたので少し意外に感じながらも、質問に回答を始めた。


「いや、奥方の警護が主任務となると思う、女性故側近くを守る腕の立つ女騎士が欲しいところだしな」


「あの~私もゲルトラウデと一緒で寄騎としてレイヴン卿のところでお世話になってもよろしいでしょうか?」


 皆が唖然とした、意外だったからである、絶対に王都に栄転というこの案を受け入れるものだと思っていた、退屈な田舎村での生活に辟易としているのは誰の目にも明らかだったからである。


「お前も愛妾の一人なのか?」


 エッケハルトが声を荒げて質問するが、そこは素っ気なく返答する。


「それはありません、ただ今の話を聞いて、山を越えて攻め入るといった壮大な計画を聞き、ついていけば新しい戦場に連れて行ってもらえそうだと考えたからです、王城の警護はたぶん剣を振るう機会もほとんどなさそうですしね」


 心底嫌そうな顔をしていたテオドールの顔を見ると少しかわいそうな気もしたが、一応確認を取る。


「卿はそれでよいかな?」


 『イヤです』そう答えたかった、その思いは一人以外には全員に伝わっていたと思う、それでも言えなかった、「はい」彼の口から出たのは本心の真逆の回答であった。

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