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三国志ー乱世の華ー  作者: 翠乃李妃
桃園の誓い
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桃園の誓い2

ーこの国も終わりを告げるかな。ー

白い布に身を包んだ民が、川辺で思いを馳せていた。

「この川のように、いつまでも黄金色とはいかないようね。」

目の前の川は、ただただ静かに大地を削りながら流れる。

悠々と黄金色で流れる川、黄河は民の問いに答えることなくただただ大地を削り数多くの舟を運んでいく。

商人は、渡舟わたしのつく場所でないところに佇む民を訝しげに見ていた。

「そろそろ行かねば。」

今のご時世らどこへ行っても不安・不信・争いの匂いが漂い居心地の悪い気がしてならない。

「いずれこの不吉な匂いは、国中に広がり国を覆い尽くすのだろうか。」

民の表情は固く、ふわりとした風が頬を撫で夏の香りを運んでいることに気づかないほどであった。

「おい、そこの者。何をしているっ。」

後ろの方から、鋭い声がかかり無意識に肩がピクリと動いた。

ーこの話し方からして、間違いなく役人だろうね。

面倒なことにならないように済ませなければならないわね。ー

ひきつり気味の顔を、微笑みに変え振り返る。

「土と水水を調べていたのです。

私、薬草園を営んでおりまして…。

役人様、こちらの茶は入りませんか?」

民は、布の中から麻の袋を取り出し役人へと見せる。

この時代の茶は、とても貴重なものでありそこらの民では手に入れることすら困難なほどのものであった。

「薬草園の者か。なるほど、どおりで茶など持っているわけだ。どれ、一つ貰おうか。」

「どうぞ役人様、代金はいりませんので。

どうぞお国のため力を尽くしてください。

それでは。」

「これは有難い。

薬師どの、この辺りでは暗くなると賊が出るので気をつけるのだぞ。」

役人は貴重な茶を手に入れ、上機嫌で帰っていく。

ー欲に取り憑かれた役人など、糞としかいいがないな。ー

民は、白い布を揺らしながらゆっくりとその場を離れた。


「一晩、宿に泊めてもらえないか。」

「この宿でよければ、どうぞ。」

宿の主人は、白い布に包まれた民を快く迎えてくれた。

穏やかで温厚そうな主人は、代金を受け取ると部屋へと案内する。

「有難い。ここから、私の村までは遠くてね。」

「あんたは、旅人なのかい。」

「いいえ、薬草園を営んでいてね。」

「ほぅ、それそれは。

薬学を学んだ者とは。

図々しいのだが、薬草を少し売ってはくれないか。

なにぶん、このご時世だ。

切った張ったのため、傷が絶えなくてなぁ…。」

「そんなに荒れているのかい?」

「えぇ、黄巾賊が暴れまわっておりますからなぁ。」

主人の顔に、影が落ちるのを民は見逃さなかった。

話を聞けば、息子が黄巾賊に襲われ深手を負ったのだと。

「では、診てみましょう。

私は、そのような人を救いたいのです。

部屋まで連れて行ってくれ。」

主人は驚きのあまり固まって動くことすらできなかった。

「よろしいのですか?」

「えぇ、それが私の使命ですから。」

主人は、民を息子の元へと案内した。

扉の前に着いただけで、部屋の中の人の荒い息遣いが聞こえてくる。

早速部屋の中へ入ると、血の匂いが鼻腔一杯に広がり横たわる男の顔は青白く唇は紫色であった。

指先に触れるととても冷たくなっており、まるで夜中の砂漠の中に長時間いたかのようであった。

ーこのままでは、この人は間違いなく死ぬ。

血を失いすぎたのだな。ー

腹部からは、未だに血が流れる十分に止血されていないことを示していた。

民は、服の裾から真っ白な手を伸ばした。

それは、雪の如く白く蝋燭の灯りのかな妖しいほど艶やかであった。

てのひらを傷口へあてる。

「まだ死ぬな若いものよ。私が助けるから。」

民は、傷口へ顔を近づけふぅと息を吹きかけ薬湯を口に含ませゆっくり飲ませた。

足を頭より少し高くしてやると、荒い息遣いが少し穏やかになった。

「これでいいだろう。

主人よ、この薬をしばらく煎じて飲ませるといい。

一週間ほどはかかるだろうが良くなるだろう。」

「有難うございます。失礼ですが、まだ名前を伺っておりませんでした。伺ってもよろしいでしょうか。」

民はゆっくりと、白い布から顔を出した

刹那、主人は目を見張った。

そこにいたのは、白き髪に紅の瞳を持つ女人にょにんであった。

「私は、劉備というのだ。

このような姿のため、顔を隠したままで申し訳なかった。」

「なんと…、女の人だったのか。

なるほど、布を被ったままで何か事情があるのだろうとは思っていたが…。

しかし、人間誰にだって様々な事情があるものだからわしは気にせんよ。

息子を救っていただいたのに、大したもてなしもできずに心苦しいがゆっくりしていってください。」

「十分貰ったよ。その感謝をするという、清い心を受け取ったので。」

劉備は主人とその息子を慈しむように、紅の瞳を細め見つめていた。

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