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転生猫の御伽噺  作者: 海月野
第一章 犯罪者になるまで
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1-6 旅立ちは唐突に


 俺が目を覚まして最初に見たのは、青空だった。

 起き上がり辺りを見回すと地面には草花が咲き、木立に囲まれている場所に倒れていたことに気づく。

 古井戸を探してみるも見当たらず、倒れているシルヴィアだけが側に居た。

 一応、息があるか確認し、異常がないことを確かめる。

 己の身体に視線を落としてみるも、いまだ女性のままで、戻る気配は一向にない。


 「何だったんだ?」


 突然、消えた魔王には違和感を持ったが、もういなくなったものは仕方ない。


 「それにしても、可愛かったなぁ・・・」


 あんな可愛い魔王なら、部下も嬉しいことだろう。

 

 「・・・というか、親父の病気はどうなったんだ?」


 魔王は、そのことについては何も言わなかったな。

 俺は首を傾げつつ、シルヴィアを横抱きにすると森の中を歩き出した。

 

 皆には心配をかけてしまったかもしれない。

 どう言い訳をしたものか。

  

 そんなことを考えながら、森を抜け、麦畑へと出た。

 黄金色の穂が揺れる畑を見て、いつもどおりの光景に思わず、ほっと息をつく。

 農夫はいないか、と辺りを見回して首を傾げる。

 先ほどまで刈り入れをしていたはずなのに、誰一人としていない。

 何故だろうか。

 遠くの畑へと目を向けて、そして街の方にも視線を向けて。

 ・・・・・・俺は絶句した。


 「なんだ、あれ・・・?」


 セリャエの街全体は巨大な蔦のようなもので覆われて緑一色になっていた。

 門も建物も、何もかもが太い植物の蔦に覆われている。

 誰かに事情を聞かなくては・・・と思うも、農夫が誰一人として働いていない。

 

 そうだ、親父に聞けば・・・!


 そこまで考えて、俺は家に向かって駆け出した。

 麦畑の合間を抜けて、街の外れにある家に向かう。

 街から離れていたために家には被害がないようだった。


 「親父・・・!」


 勢いよく、扉を開けると家の中で、驚いた顔をしたロウドがこちらを見つめていた。

 一瞬、どうしてそんな顔をされるのか判らなかったが、胸部の嬉しくない膨らみを見て気づいた。

 ああ、そうだ。

 今の俺は女の姿だった!

 

 「俺だ、レオナルドだよ!」


 まぁ、声も微妙に女っぽいし、わかるかどうかは怪しい。

 俺のことをしばらく見つめた親父は腕の中にいるシルヴィアと俺の顔を交互に見比べて、ハッとした。

 何かに気づいた様子で、椅子から立ち上がると駆けて来る。


 「レオナルドか・・・!?」

 

 俺がああ、と肯定する前に親父は素早く、俺の首根っこを掴んで家の中に引き入れた。

 警戒するように辺りを窺ってから扉を閉め、窓のカーテンも閉める。

 親父は改めて、俺の姿を見て不思議そうな顔をしていた。

 

 「なんで人間の姿に・・・しかも、女か?」

 「ああ、うん。色々あって」


 もう説明するのも億劫だ。

 俺は誤魔化しながら「どうして判ったんだ?」と聞いて話を逸らした。

 自分が女になっている理由なんて、誰が喋りたいだろうか。

 俺の気持ちを知ってから知らずか、親父は俺を見つめて答えた。


 「勘だ、勘」


 あっさりと答えた親父にずっこけそうになった。

 勘って何だよ。

 脱力して、俺は思わず苦笑しながら腕の中のシルヴィアを示した。


 「寝てるだけだから、多分、すぐ起きるよ」

 

 そういいながら、奥の部屋に俺は向かう。

 ベッドの上に、シルヴィアを寝かせた俺はリビングへと戻った。


 「レオナルド、ちょっとこっち来い」


 いつになく、真剣な様子で親父に呼ばれて、俺はリビングの椅子に腰を下ろした。

 まず、街のことを聞こうと口を開こうとするも、その前に親父が喋りだす。


 「お前にも言いたいことがあるのはわかるが・・・その前に、俺の質問に答えてくれ。

  この3週間、どこで何をしていたんだ?」


 は?


 「3週間・・・?」


 どういうことだ?

 俺たちが森に入ったのは、今日の昼前の時間だ。

 あれから、数時間も経っていないはずではないのか。


 「3週間前、お前は畑の肥料を作るため、森に入った。

  それから、夜になっても帰ってこず、次の日に農夫や俺たちで捜索したが持ち物一つ見つからない。

  そして、5日前に、街が茨で覆われた。

  原因は不明で、住民はすでに避難して、この近くに住んでいるのは俺だけだ」


 親父の言葉に、俺は驚きを隠せなかった。

 動揺したまま、俺とシルヴィアが森に入った経緯と古井戸の魔王と対面したことを話した。

 シルヴィアが病の治癒を願い、魔王は何処かに消えたと告げると、親父は考え込むように腕を組むんだ。


 「確かに一週間前に医者に診せたら、奇跡的に快方に向かっていると言われた」

 「じゃあ、魔王が治してくれたんだな・・・!」


 ちゃんと治してくれるなんて、いい奴だな。

 俺は思わず、笑みを浮かべたが、親父の顔は険しいままだった。

 

 「・・・だがな。2日前に創聖教会(そうせいきょうかい)から連絡が届いた」

 「そうせいきょうかい?」


 聞きなれない単語に首をかしげると、親父は困ったような顔をして説明を始めた。

 創聖教会とは、この大陸を治める神を信仰する者たちによって作られた機関で、伝説にある大戦が再び起きることを防ぐことを使命としているらしい。

 魔王や魔物に関しては教会が危険かどうか判断し、時には駆除まで行なう。

 その決定は一国の国主が発言する以上の力を有し、内政にまで干渉できることだってある。

 自分たちが暮らしているカルタスにも、創聖教会は幅広い地域に支部をおき、人々に頼られている。


 「で、その教会の奴等が言うにはな。

  森に封印していた魔王を解き放ち、街を呪いで滅ぼした猫がいる。

  その猫を特級犯罪者と認定し、捕縛または殺して教会に差し出せ、と」


 ん? 

 ちょっと待て。

 それって・・・。


 「俺のことなのか!?」

 「多分な」


 嘘だろ、街がああなった理由なんて、知らないぞ!?

 それがどうして犯罪者扱いなんだよ!?

 混乱していると、親父は険しい顔のまま告げた。

 

 「・・・恐らく、ここにいても捕まるだけだ。

  お前はいますぐ、ここを出ろ。 

  他国に行くなりして身を隠せ。

  今は人間の姿だし、出て行っても教会の奴等には判らないはずだ」


 「え、あ・・・は!?」


 混乱する俺を置き去りにして、親父はローゼットから皮袋などを取り出して用意を始める。

 食料や金貨などを詰めた袋を渡されて、俺は不安になった。

 

 「ここを出ろって言われても・・・。

  事情を説明するとか・・・どうにかして・・・」


 親父はそれに苦虫を噛み潰したような顔をして首を横に振った。

 

 「近衛兵だった頃に教会の奴等と顔を合わせたことがあるが、あれは狂信的な一団だ。

  よく鼻が効く上に、容赦がない。

  特級犯罪者となれば、お前の言い分なんて聞かずにすぐさま処刑されるだけだ」 


 親父がそう言ったときだった。

 どんどん、と扉を叩く音が聞こえた。


 「ロウド・オニクス殿。 

  創聖教会のものです。少々よろしいでしょうか」


 噂をすれば何とやら。

 俺が固まっていると、親父が裏口の方を指した。

 そして少しだけ寂しそうな笑みを浮かべる。

 それで、もう腹を括るしかないのだと悟った。


 「元気に生きろよ。レオナルド。

  どんなに辛くても笑うことを忘れるな」


 いつもの親父の笑みに、俺はもうどうしていいのか判らず。

 ああ、とも、うんとも言えぬようは返事を返して裏口に回った。

 

 しかし、そこで変化が起きる。

 ゆっくりと通路を歩いて行ったところで・・・俺は自身の身体の変化に気づいた。

 身体が人間のものから縮み、再び体毛に覆われ始めたのだ。

 耳と尻尾は生えてくるし、顔にも猫の髭が伸びてくる。

 それに合わせて、再びローブとブーツ、短剣が縮み始める。

 親父の用意した荷袋も大きすぎて、持てない。

 慌てて、小さな袋に必要なものだけを移し変えていると親父と創聖教会の人物らしき話し声が聞こえた。


 「こちらの家を捜査します。そこをどいて貰えますかな」

 「教会の聖職者ともあろう者が勝手に人の家に入ろうってのか」

 「すでに、許可はいただいております」

 

 紙を開くような音と共に親父が息を呑んだのが聞こえた。

 恐らく警察の令状みたいなものなのだろう。

 そして、玄関の方から大勢の人の足音が聞こえた。

 もうなりふり構っていられない。

 俺は急いで荷物を纏めなおすと、こっそりと裏口から飛び出した。

 

 しかし、その瞬間。


 「いたぞ、灰色の猫だ!」


 裏口の方に隠れていたローブを来た集団に鉢合わせした。

 教会のメンバーなのだろう。

 問答無用で、魔法による攻撃やら、弓矢による攻撃が飛んでくる。

 

 本当に話を聞く気ないのかよ!?


 それを避けながら、俺は森の方へと駆け出し、茂みへと飛び込むのであった。

展開がはやすぎるような・・・?

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