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転生猫の御伽噺  作者: 海月野
第一章 犯罪者になるまで
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1-1 鼠が食えるわけがない


 にゃー


 猫の鳴き声が耳に届く。

 まだいたのか、随分と心優しい猫だな。

 今度、生まれ変わったら猫と仲良くなりたいものだ。

 いや、猫アレルギーでなければだが。

 

 にゃ、にゃにゃにゃーにゃにゃにゃ


 うーん、ちょっと待ってくれ。

 少し五月蝿いぞ。


 にゃーん、にゃにゃにゃにゃ。

 にゃにゃにゃ。


 あれ、俺の言葉に沿って鳴き声が聞こえる?

 まるで、俺が喋っているみたいだな。

 そこまで思って、身体が自由に動くことに気が付いた。

 指の先や、足の先には力は入れにくいが、腕は動くし、どうやら立ち上がれそうだ。

 足で立ち上がろうともがくが、どうにもバランスが取れない。

 仕方がないので四つん這いになって、身体を起こした。

 

 おお、立てた!


 ここは病院だろうか。

 状況を確認すべく、俺は顔を上げて辺りを見回した。

 俺を刺した子は、どうなった。

 捕まってしまったのだろうか。

 そんなことを思いながら、周囲をみて・・・俺は目を丸くした。

 目の前に広がるのは己より何倍も大きい植物だった。

 いくら四つん這いになっているといえ、空を見上げても木の頂点が見えない。

 枝や幹も太く、記憶のなかにある木々とは桁違いだ。


 「ん、猫か?」


 そんなとき、不意に男の声が聞こえて俺は振り返った。

 見ると、遠くのほうからマントを羽織り、腰にRPGでドロップしそうな剣を差した男が歩いてくる。

 纏う服装はまるで中世ヨーロッパのもので。

 コスプレか? と俺は首を傾げる。

 しかし、不思議に男を見ていられたのは束の間だった。

 男が近づいてくるとその大きさが理解でき、俺は思わず固まった。

 男は、俺を目線よりはるか上に頭がある巨人だったのだ。

 

 「にゃ゛あああああ(ぎゃああああ)!?」

 

 思わず、悲鳴を上げてから俺は目を丸くした。

 今、俺はなんと言った?

 まさか・・・。

 

 「にゃにゃにゃー(こんにちはー)」


 男に向かって言ってみると、口から出たのは猫の鳴き声。

 嘘だろ、と思う暇もなく男が俺を抱き上げた。

 軽々と俺を抱き上げた男は厳ついおっさん顔を緩めて、呟いた。


 「魔物が出ない森とはいえ、このままでは危ないな。

  お前の親は・・・・・・いないようだし、うちで預かってやろう」


 男は辺りを見回した後、俺を抱えて歩き出した。

 

 「うちの娘は、猫好きだからな。

  大丈夫だぞ」


 俺は抱えられた状態で、自身の腕をみやった。

 そこには灰色のふわふわとした毛で覆われ、爪がちょっぴり出て、肉球が見える前足があった。

 改めて、自分の身体を見るとどこもかしこも灰色の毛に包まれ、あろうことか尻尾までが揺れている。

 まさか。

 本当に・・・。


 「にゃにゃにゃにゃー!?(猫になってるのかー!?)」

 





 俺を拾った男の名はロウド・オニクスというらしい。

 カルタス王国?というところの元近衛騎士で、今は引退して田舎で隠居生活を送っている。

 病に罹っているそうだが、それを感じさせないほど生命力に満ち溢れた瞳をしている。

 

 何故、そんなことが判るかって?

 それは、男が色んな人に話しかけられたときに盗み聞きしたからに決まっている。

 どうやら男は、この周辺では人気者らしく、人に会うたびに話かけられている。

 その為に、多くの情報がこの短時間で得られたのだ。

 ちなみに、生命力に溢れた瞳という部分は、俺の独自の見解によるものなのだ。

 

 そんなこんなしているうちに、男は俺を抱えたまま森を抜け、麦畑を越え、とある一軒の建物に近づく。

 木で作られた、少しだけ古そうな家。

 家というより小屋に近いんじゃないか?

 男はそれに近づくと、ノックもせずに扉を開けた。


 「ただいま、シルヴィア」


 男が家に入ると、奥から10歳くらいの一人の少女が駆けてきた。

 栗色の髪に青い瞳を持つ可愛らしい少女で、青いワンピースの上に白いエプロンを身に纏っていた。

 

 「おかえりなさい、お父さん!」


 少女は満面の笑みを浮かべて父親を出迎えた後、腕の中に抱えられる俺を見て感嘆の声をあげた。

 

 「お父さん、この猫どうしたの!?」

 「森で拾ったんだ。親猫がいないみたいだからな、うちで飼おうかと思ってな」

 「やった!ずっと猫を飼いたいなって思ってたの!」

 

 父親の言葉に少女は嬉しそうに笑う。

 それに対し、父親も嬉しそうに笑い返した。

 なんとも幸せそうな家族の団欒だ。

 俺にとって、家族の団欒とは縁遠いものだったから、見ているだけで心が温かくなる。


 「名前はどうするの、お父さん?」

 「そうだなぁ・・・レオナルド、にしようか」

 

 おいいい!

 よりによって、またレオから始まるのかよ。

 しかも、猫にレオナルドって・・・ちょっと、不相応すぎないか。

 だが、少女は楽しそうだし、父親も楽しそうなので文句を言うことはできない。

 俺の猫としての名前はレオナルドになった。

 そして、少女はしばらくの間、俺の名を繰り返していたのだが、ふと困ったように呟いた。


 「でも、ミルクを切らしているの。猫のご飯は何にしたらいいのかな?」

 「はは、そんなことか」

 

 ロウドは笑うと、懐からタガーナイフのようなものを取り出して、流れるように床に投げた。

 瞬間、家具の合間から飛び出した鼠にナイフが突き刺さる。

 死んだ経緯を思い出してしまい、俺は思わず、腹を押さえた。

 

 「鼠でも食わせておけば大丈夫だろ」


 ははは、と笑ってロウドはタガーナイフを引き抜く。

 ・・・恐ろしい男の家に俺は拾われたのではないか。 

 その予測は夕飯時に、確かなものとなった。

 テーブルの上で少女と、父親はおいしそうにスープとパンを食べる。

 そして、俺の目の前におかれたのは先ほど、ロウドが殺した鼠。

 いくら猫に生まれ変わったからといって、鼠はさすがに食えん。

 

 「ん、どうした。食わんのか?」


 いや、だから無理だって。

 腹は減ってるが、さすがに鼠は。

 俺がにゃーにゃー、鳴いているとロウドは何を思ったのか。

 近くから金槌を持ってくると、鼠を叩いた。 

 目の前で鼠が、ぐちゃりと潰れる。

 

 「ほら、食いやすくなったぞ」


 そういう問題じゃねェよ!

 俺は違うという意味を説明すべく、猫語を駆使してロウドに語りかけた。

 しかし、ロウドは意味を判っていないのか。

 今度は、匙を持ってくると鼠の肉を掬って俺の首根っこを掴んだ。

 そして、口をこじ開けると、匙を近づけてくる。


 「食わないと死ぬぞ?

  ほら、頑張って食え」

 

 ゆっくりと匙が近づいてくる。

 郷に入っては郷に従え。

 意味は少し違うが、猫になった以上、猫として鼠を食うべきなのか。

 俺は意を決して・・・口を開け・・・。


 「鼠なんか、食えるかボケええええ!!」


 叫ぶと同時に、前足で必殺の猫パンチを放った。 

 それはちょうどよく匙に当たり、男は匙を取り落とした。

 

 「猫が・・・喋った・・・」


 シルヴィアが、口元を押さえて俺を見る。



 その日、俺は鼠を食いたくない一心で、人間の言葉を喋る猫となった。  

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