夏祭りの言い訳
花火とか出店とか、着物とか、
少年少女の思い出にある。
町の、村の、団地の、大きくたって、小さくたって、夏祭りだもの。
「祭りは良いねー。いつの年になってもさ」
「そうねー」
子供じゃなければいけない気がした夏祭り、大人になってもそこに堂々と行けるのは自分に楽しい友達がいっぱいいるとか、好きな人がいるとか、子供ができたとか。
浴衣姿の友人達に、婦警姿の私。
「あー!もー!灯達、ずるいよ!浴衣を新調しているなんて!私なんて仕事で夏祭りに潜入してるんだよ!」
「仕方ないでしょ。鯉川は警察で、不審者のチェックなんでしょ?」
「かき氷でも買ってあげるわよ」
「そんなんじゃないよ!私もみんなと見回りしたいよー!」
「あたし達は遊び。鯉川は仕事。頑張りなさいよ」
「迷子だって声をかけてくるでしょ」
眩しい浴衣姿の友人達が、きゃきゃわいわいと楽しんでくる顔を向けて、祭りの中に消えていくとショックだ。そりゃ、誘導員とかは必要だけどさ。こんなのちっとも楽しくない、蒸し暑い人込みの中で仕事するなんて、酷い。なんか事件でも起きて、楽しくならないかな?
「はぁ~、みんなずるいよ」
ため息をつきながら、人達の誘導をしたり、案内をしたりとしていた。
パシャパシャ
夏祭りが始まってから1時間ほどしてから、とある苦情が警察に届けられた。
「男の人が写真を撮っているんですけど、女性や子供ばかり撮っている感じなんですよ」
「カメラを持って撮影ばかりしてる変な奴がいるだけど、なんとかしてくんね?」
周囲に盗撮をしているという男の通報が2件、3件、……そして、7件と、この夏祭りに盗撮男がいると分かり、
「じゃあ、とっ捕まえてボコボコにしてあげよう!女の敵!」
鯉川は憂さ晴らしのため、その男を調査するため向かったのであった。
◇ ◇
「盗撮をしてる?何を寝ぼけた事を言っているんですか?」
最近の技術は凄い。
「僕は写真を撮っているだけですよ、盗撮っていうのだったら写真全てが罪じゃないですか!」
綺麗にハッキリと映り、素早く自宅のPCに転送でき、完了したらデータを処分。隠滅が容易くなっている。撮った中身を無理矢理見られても、すぐには気付けない。
「それでは僕はこれで」
夏祭りは良い。海での水着は高値で取引されるから遣り甲斐だが、こちらは生き甲斐だ。
パシャパシャ
男は盗撮の常習犯であり、副業的にもなってしまい、自身の盗撮写真をネット内で売り捌いていた。しかし、もともと彼が盗撮を始めるきっかけとなったのは夏祭り、もとい、女性達が首筋と髪が作り上げる。
”うなじ”に惹かれたからであった。
「ふふふふ」
気色悪い笑みをこぼしながら、女性達の背後に回って”うなじ”を撮影していく。色々と、女性には隠したい個所というのが多く、だからこそ盗撮の価値があるんだろう。
夏の暑さに対抗できる”うなじ”にかける熱意をこの男は持っていた。
「何を撮っているのですか!?」
「およ?」
そこへやってきたのは婦警の鯉川。警官が来たことにやや冷や汗が出たが、すぐに写真のデータは自宅のPCに転送。チェックされる頃には消える。
「なにって、夏祭りの風景を撮っているだけですよ」
「嘘おっしゃい!色々な方から盗撮の容疑を疑われています!」
男に臆することなく詰め寄る鯉川。しかし、データはもう消去された。証拠は見つからない。
「カメラをよこしなさい!」
「別にいいですけど」
警官相手に抵抗することなどせず、あっさりとカメラを渡す。強気の犯人だ。しかし、
バギイイィッ
「よし!これで盗撮できないわね!!」
「なにしてんだテメェ!?」
鯉川はカメラをもらったと同時に破壊するのであった。
「私、こーいうの弱くて。まぁいいじゃない。これで盗撮なんて疑いもされずに、夏祭りを楽しめるでしょ?」
「良くないよ!せっかく僕が楽しんでいた夏祭り、浴衣、女性達の”うなじ”写真集が台無しになっちゃうじゃないか!!まだ夏祭りは始まったばかりなんだよ!!」
あまりの出来事に怒り狂って、これからの楽しみがどれだけのものか熱弁をするのであった。だが、
「え?写真集?」
「…………あ、なーんて、してるわけないでしょ。婦警さん。アルバムです。思い出のアルバムみたいな」
「わー、可愛い言い方ですね」
写真集などという単語を的確に捉えて、証拠なしでも自白によって、本当に盗撮をしていたと確信する鯉川は先手必勝。
「話は署で聞くわねー」
男の両手に手錠をかける。事情聴取で夏祭りの邪魔をしたくない。
「いや、待ってくれ!」
「うるさい!!」
バギイィィッ
男の腹を強打して気絶させる。抵抗されると面倒だからという理由。
盗撮の男はこの夏祭りを警察署の中で過ごす事になってしまい、さらには各地の盗撮犯情報と一致し、さらに罪が降りかかったのであった。自宅のPCから水着姿やパンチラ画像が出てきた。
一方で、鯉川は盗撮犯を捕まえて事情聴取しているせいで花火は音しか楽しめなかった。しょんぼりな夏祭りになってしまった。
◇ ◇
その後、
「ねぇ」
鯉川は盗撮犯を捕まえた貢献を得た。だが、そんな彼女はある疑問があり、友人に聞いてみる。
夏祭り中に捕まえたのだが、その男の趣味がいまいち理解できなかった。
「”うなじ”って、撮られて恥ずかしいと思う?下着の方が嫌よね?」
盗撮のラインが分からないのか、友人は当たり前のことを伝える。
どんな姿であれ、盗撮されたという被害で腹立たしいことは
「どこを撮られても、変な男のオナニーに自分の写真が使われていたら嫌でしょ?知ったら余計に」
あっ、そっか。
「それはそうだね」
「鯉川、よく警官やってるわね」
盗撮が犯罪だって理由を、ようやく知った鯉川だった。