エピローグ
ミルクティーが入ったウエッジウッドが、カチャリと机の隅に置かれた。
「ありがとう」
PCの画面から目を逸らさずに、ベニコンゴウインコのタカが助手の高橋に礼を言った。
タカの指は、インコとは思えない速度でキーボードを叩いている。
「所長。先ほど届いた荷物ですが」
高橋が、両腕に抱えてきた大きな瓶をタカの前に置いた。
「うん?」
「先日依頼を受けた、森口由良様からの荷物でした」
「あぁ、由良から?」
タカの手が止まった。
遅れて視線がその瓶へと下りる。
プッッ
噴き出すようにタカは笑った。
「あいつ、真に受けたのか?」
「さぁ? でも、お手紙が一緒に」
森口由良が送ってきたという小包には、便箋三枚にも渡って書かれた手紙が同封されていた。それをタカに差し出す。
「なになに」
器用に便箋を開いて、彼女の几帳面な字に視線を這わせる。
「『……記憶を無くしてタンポポのママに保護されていた彼を見つけてくれてありがとうございます。一晩入院して、すぐに彼は良くなりました。記憶を無くした原因は未だにわからないのですが、医者の話では、酔っ払ってどこかで頭を打ったのだろうということでした。そういう一時的な健忘症状は、比較的よくあると言うことです。私もそれを聞いて安心しました』、か。『タカさんが好物だと言っていた物をお送りします。お礼と言うには申し訳ないくらいのものですが』ねぇ。なかなかよくできた娘だな」
ニマニマと笑いながら手紙を読み上げるタカは、なんだか少し誇らしげだ。
「残金も、ちゃんと振り込んで下さっています」
「うん」
満足そうに頷く。
「すぐ、お召し上がりになりますか?」
「もちろんだ」
「はい、所長」
高橋は、微笑みながら瓶の蓋を開ける。
春の穏やかな日が差し込んで、タカの深紅の羽と、緑から翡翠色へと移り変わる美しい背中を照らし出していた。
ベニコンゴウインコのタカは、森口由良が贈ってくれたクルミの入った大きな瓶に、思い切り嘴を突っ込んだのだった。
長らく放置してたのを完結させました。
(わ……忘れていたわけでは、ないんだからね!)