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幸せな呪い
煙羅と紗々が呪いについて語り合います。
『幸せな呪い』
「貴女が好きよ」
縁側で紗々に膝枕をしながら、煙羅は呟いた。
「そりゃどうも」
紗々は軽く返すと笑った。
「何を、期待したの?」
「何も。貴女から何かが帰ってくるだなんて、考えていないわ」
「一方的な好意ってことで、片付けていいのかな?」
紗々は寝返りを打って庭から煙羅へ顔を向ける。
「恋もまた、呪いだよ」
「そうかしら?」
「ああ、深く心に突き刺さった棘。時に痛み、最悪の場合死に至る。間違いなく呪いだ」
煙羅の白い頬に、紗々の細く長い指が触れる。
「それは愛に昇華すると更に厄介な呪いになる。自分の全てを、相手に捧げてしまうんだから」
「貴女は、誰かを愛したことがあるの?」
射抜くような煙羅の視線を、紗々は笑って躱した。
「ないよ」
そしてまた体勢を変え、桜の咲く庭に目をやる。
「他人を愛せる人間は、幸せだ」
「そう」
「厄介かつ幸せな呪いだよ、愛ってのは」
紗々の脳裏に浮かんだ大柄な男は、間違いなく呪われていた。