ザムザム狩り
久しぶりの外の臭い。
あえて言うなら重苦しい、肉の腐った様な臭いだった。
灰色一色と思われた瓦礫の山は近づいてみると実際は薄く赤色を帯びていた。
荒れ果てた街並みの向こうにはまた同じように寂れた街が広がっている。
半ば雲に隠れた太陽と瓦礫と廃ビルと、私の視界に入るのはそれぐらいしかない。
「酷いもんだよね」
先程から歩いても歩いても景色が変わらない。
本当にここはあの東京なのだろうか、と疑問に思う。
勿論分かっている、ここはあの東京だ。 私が生まれて、そして育てられたクソッタレな街だ、忘れない。
だが体面は出来損ないのディストピアだ。
灰色に煤けたスカイツリーが間抜けなアイコンの様に立っていて哀れだった。
『To 未結』と書かれた書類を取り出す。
いつもインフォメイションと書かれた欄のスペシャルの文字に口角が緩む。
退屈な子供の時間は終わりだ。
地下鉄への階段を降りると数人の男達が私の進行を妨げた。
服は雑巾を継ぎ合わせたよう、髪は乱れていて白が混じっている。
見かけこそ浮浪者だが、それは虚無を押し固めた人形の群れだった。
――ザムザムだ。
下松(私を二番目に拾った男)は彼らをそう命名した。
彼らに私の話は通じない。
比喩的ではない、彼らは既に人間としては理性を飛ばした状態にあるらしい。
小難しい説明は聞かなかった。 要するにゾンビ映画のゾンビの様なものなのだ。
だから私は脛骨を鳴らすと腕を振った。
ここに下松は居ない。
私を押さえ付ける蓋は存在しない。
振り下ろされた金槌を避け、同時に足を掛けて転倒させた。
首のうなじの辺りから腰までがざっくりと欠け、男は血を吹き出した。
最後の一人が動かなくなった。
下松は「いくら理性を失おうと人は人だ。 戦闘はするな、いなせ」と耳をタコにする頻度に私に言い聞かせていた。
クソだそんなもの。
血をある程度拭うと私は地下鉄に乗り込んだ。
目的地は巣鴨駅らしい。
私はザムザムという名前についてもう一度考えてみた。
やはり致命的にダサかった。