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24/7 - Twenty Four/Seven -  作者:
第八章
69/245

双頭の鷲が羽ばたく時 012

 この日、〈ドラゴン・ハート〉にエドはいなかった。休みの日もあるものだ。

 ロメオとファウストは少し残念そうにしていたが、内外の組織関係者の集団を目の前にしたら彼も少し困るだろう。ある意味、各方角の関係者が揃っているのだから。

「エドお兄さんがどういう反応するか見たかったのにな」

「どうせ、女装するよりド派手な頭をどうにかすることの方が効率的だってことに気付いたのかって思うだけよ。あれがなきゃ、ただの人じゃない」

 ロメオとファウストは一卵性の双子だ。

 その二人が揃って黒髪になっている。こうなると服の趣味の違いがなければ見分けが付かないものである。

 彼らはこの店に来る度に派手なルックスがネックになるため、女装をしていたらしいが、今、気付く者はいない。

「その、髪の毛だけで判断してます的なの何なの?」

 ロメオはひどく不満げだったが、エルザは更に言ってやった。

「メイクとったら大してイケメンでもないでしょ」

「うっわ、ムカつく。ちょー暴言。何か言ってやってよ、イシュタル」

 話を振られたイシュタルはひどく戸惑った表情をして、それから、エルザを見た。

「いえ、あの……俺もいいんですか?」

 なぜ、自分が打ち上げに呼ばれたのか。イシュタルはずっと聞きたかったようだ。

「俺と一緒に来てくれたでしょ? 全部これの奢りだし、気にしない気にしない」

「申し訳ないですよ」

 イシュタルは気にする質のようだった。尤も、ロメオはかなり図太い類の人間である。

「じゃあ、いつかの服のお礼」

「あれはカーマインさんが悪いんですし」

 エルザもイシュタルには多少借りがあるが、この双子の悪魔と関わるには細かいことを気にしない方が良い。彼もいずれ悟るだろうか。

「自分も理由がない」

「遠慮しないでよ、これぐらいじゃあ破産しないし」

 星海も半ば強引にエルザが連れて来たが、この場所に似合っているとは言えない。

 そして、トールが続く。

「俺も、何もしてないと思うんだが」

「やだなぁ、トール兄さん。こういうのは人数が多い方が楽しいし、心の支えになってくれたよ」

 ロメオは妙にニコニコしている。よほどトールのことが気に入ったようだったが、エルザは落ち着かない気分でいた。

「しかし、凄い作戦を考えたな」

 トールは言う。北方への背信のために随分と手が込んだことをしたものだ、と。

「愚弟の頭の回転が妙に早いところは尊敬すらしちゃうよ。すっごくムカつくけど」

 今回、最初に動いたのはファウストなのだろう。

「兄様は知性が足りないよね、知性が」

「運動音痴は黙ってろよ、どうせ、トールお兄さんの後ろでガッタガタ震えてたんじゃないの?」

「兄さんこそ、イシュタル連れてったりして、一人じゃできないんだよね」

「保険だよ、保険。お前だって、勝手にメンバー連れてったじゃん。おかげで俺はちょー困ったの。俺のフリするなら言えっての。迂闊に外には出れないし、髪は染めなきゃいけないし、携帯も交換されてるし」

 ファウストは徹底的に下準備をしたのだろうが、ロメオだけには言わなかった。

「二人で考えたんじゃないのか……?」

 トールは眉を顰める。彼にとっては信じ難いことが彼らの口から放たれている。

「愚弟の独断」

「敵を欺くには味方からってね。兄様のことなんて味方だと思ってないけど」

 ロメオとファウストはさらりと言うが、トールの方はあっさりと受け止めるわけにはいかないようだった。

 頭が痛いところだろう。エルザにしてもロメオにしてもファウストにしても常識外のことをしている。一緒に何かを成し遂げようとするメンバーが互いにプランを知らない。

「三つ子か、あんたらは」

 彼には理解できないからこそ、そう結論付けたか。確かに互いの呼吸がわかるようなところはある。

「これから、どうする?」

 その問いにはロメオもファウストも顔を見合せて、気まずい表情になる。

「あー……今まで通り気ままに、って言いたいところだけど、逃亡生活かな?」

「母様が怖いからね……あと、アルフレード」

 二人とも考えたくなかったのだろう。だから、酒を飲みたかったのかもしれない。

「無茶するからよ。フォーマルハウト継ぐなんて嘘、あのクソババアが許してくれるはずないじゃない」

 アルテアには野心があり、アルフレードには悲願がある。たとえ、彼らの魂胆をわかっていても認めてはくれないだろう。

「結果には満足してるでしょ? っていうか、本当に誰のためだと思ってるんだろうね。もっと感謝してほしいくらいだよ」

「そうそう、誠意ってものを見せてほしいよね」

 悪いことは全部自分のせいか。エルザとしてはそれでも構わないが、何も聞いていなかったのだから知らないと言うこともできる。

 けれど、エルザにはそれができない。彼らはわかっている。

「誠意なんてアナタ達から一番言われたくない言葉だわ」

 呆れる気にもなれないほど彼らには似合わない言葉だ。

 けれど、ロメオとファウストはにっこりと笑う。揃ってろくなことを考えていないことは明白だ。最悪なところだけ気が合う双子である。

「大丈夫。要求は簡単だよ。ヤろ?」

「ふふっ、そろそろ今までの利子を体で払ってもらおうかな?」

「散々、はぐらかされてきたからね。お金だけじゃあ満足できないし」

 二人はすっかりいつもの調子に戻ったようだった。否、これは調子に乗っているというものだ。

「じゃあ、アタシも今までの利子を体で払ってもらうことにしようかしら? 帳消しっていうか、マイナスになると思うけど、いい?」

「うげっ……」

「うっ……」

 エルザが氷の微笑を浮かべれば、二人は完全に失言だったことに気付いたようだった。

 けれど、エルザはそのまま続ける。

「払い方はなんでもいいわよ? アタシの奴隷になるか、体切り売りするか……まあ、どっちにしても心身の健康は保障できないけど」

 エルザも本気で言っているわけではないが、利子の話を持ち出すならば彼らのものなど、あってないようなものだ。

「やだなぁ、冗談だって、冗談。だよな? いつもの俺らアピール、って奴?」

「そうそう、本当に勘弁してほしいよね。冗談、真に受けるの。もっと軽く流してよね」

 二人は揃って乾いた笑い声を漏らした。

「なら、いいけど」

 本気だったくせに、とは思うもののエルザは口にはしなかった。

「エルザさんって怖いですね……」

「金髪の小悪魔だし。いや、小いらないよ」

「世界一危険な、とか言われてるしね」

 しみじみと呟くイシュタルに続いてロメオとファウストは小さな声で言うが、エルザの耳にはしっかりと届いていた。しかし、多数の人間に散々言われていることを今更咎めようとは思わない。

「あ、でも、逃亡生活ってことはバンドはどうするんですか?」

 ファンとして気になったのだろう。イシュタルは問う。

「休止かな?」

「どこかの誰かみたいに無期限休止かもね。母様はやめるものだと思ってるはずだし」

 イシュタルはかつてデッドリー・シンズというバンドをやっていた。二人が言うには人気があったらしい。メンバー全員がリブラとバンドを両立することに限界を感じ、リブラに絞ることにしたのだと言う。事実上解散のようなものだが、リブラとしての仲間の繋がりが切れるわけではないからこそ、敢えて無期限の休止にしたのだとエルザは先日彼から聞いた。

「あ、良かったら隠れるのに良い場所ありますよ? 部屋はいっぱい余ってて、なかなか快適ですし、働きアリが頑張って美味しい料理出してくれますし、北方も容易く介入できません。僕達もしょっちゅうホテル代わりにしているので良かったらどうです?」

「それがいいんじゃないの? 多少うるさい男がいるけど、無視しておけばいいんだし」

 エルザはイシュタルが提案する場所がすぐにわかった。スコルピウス邸だ。働きアリとはレサトのことだろう。

「ふふっ、あなたの隠れ家に匿ってくれたりしないのかな?」

「今、メインのところしかないから無理」

 ファウストは問うが、その期待には応えられない。前のようにいくつも隠れ家を持っているわけではない。

「そこでいいよ、同棲しよ? 俺、家事は何にもできないけど、夜は無敵だから」

 ロメオは笑う。懲りない男だ。

 時と場所と言うものは一応、弁えているが、絶対にふざけてはいけない時には少しばかり大人しくするという程度だ。

「凄く物騒なお客さん来るわよ? それに、メンバー全員で固まってた方がいいんじゃないの?」

「確かにそうかもしれない」

 ロメオは頭の軽い男のように振る舞うが、本当はわかっているのだ。レッド・デビル・ライのメンバーであり、自分達の仲間を側に置いておくことの重要性を。

「じゃあ、やっぱりカーマインさんのところですよ」

「トールお兄様、遊びに来てくれる?」

 ファウストに問われ、トールは困り顔だ。

「俺が行ったら絶対に嫌がられるところだからな……」

 カーマインとトールは仲が悪い。否、一方的にカーマインが敵視しているのだが、相性が良くないのは確かだった。

「じゃあ、トールお兄さんのところは?」

「うちは物凄くうるさいファンとやたら厳しいのがいるからな……やめた方が賢明だ」

 トールのところには彼らの曲を一日中聴いているような変わり者がいるらしい。そして、もう一人はトールを〈顔だけ外交官〉などと言うような気の強い女だと。

 トールが良くても、後になって彼らの方から出て行くことになるだろう。

 そして、彼らは結局イシュタルについていくことを決めたようだった。


「これで北方は完全に綻びた。奴等が攻めてくるのも時間の問題じゃないのか?」

 話が纏まり、トールは真剣な表情で切り出した。頷く星海も同感のようである。

「ヘルクレス本体は絶対に攻めてこない。本来の目的は全くの別物であって、そうすることはフェアじゃないってわかってる。悪さしてる下の方も迂闊なことはできない。上の意に沿わない以上、勝手なことをすれば必ず粛清されると思う。だから、やり方を変えてくる」

 外には〈砂漠の鷲〉アルテア・アクイラがいる。その状況ではヘルクレスも手を出してこないだろうとエルザは確信していた。

 幹部であるジュガやデュオ・ルピの狙いは〈掃き溜めの街〉ではない。少なくとも、ジュガは一度部下を手にかけている。カニス・マイヨールに押し掛けてきた男もおそらくはどちらかの手によって死んだからこそ、二度目がないのだとエルザは考えていた。

「奴らの次のプランが見えてるのか?」

「アナタはアタシが外に繋がりを持ってると思ってるけど、外には敵がいっぱいいる。レグルスが本気を出せば、ぷちっと潰せちゃうようなレベルだけど、虫もいっぱいいるとうざい。きっと、ヘルクレスはそういうのを焚き付けてくる。もう始まったのかもしれない」

「あの話か」

 そこで、フォーマルハウトの屋敷でした話と繋がることにトールも星海も気付いたようだった。


 それから、それぞれの意思を確認して、解散した。星海はこれからのフォーマルハウトに不安を感じているようだったが、「大丈夫だろう」と言ったのはトールだった。

 そして、この時はエルザにもその意味はわからなかった。

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