悪夢のような日々
久々の投稿、受験の息抜き程度に書いていきます。
ついでに三人称の練習、正直一人称で戦闘書けない……
年が明けてしばらく経ち、もうすぐリア充だけの特別な一日が近づこうとしていた。まだまだ春は遠く、息を吐けば白い吐息が出てくる。そんな肌寒い学校の廊下を一人の不健康そうな少年が歩いていた。紫がかった黒髪は目元を隠すほど長く、髪の先が白い変わった髪の色。目元には隈ができており顔はやつれ、肌は幽鬼のように白い。服装は校則により定められた冬用の制服と靴下を身に付けている。しかしいくら長袖を着ていようとさすがにこの寒さに耐え切れないのか、少年こと花柳 紫蓮は学校の校舎を歩きながら思わず独り言を呟いた。
「はぁ、心も体も寒い……」
そう言うと紫蓮は、外の景色を見ながら足を止めて、思わず大きくため息をついた。ここにそのまま立っていても、そんなに大きなため息をついてたら幸せが逃げていくよ? なんて言ってくれる女の子がくるわけでもなく、さらにそんなことを一瞬でも考えてしまった自分が悲しくなって紫蓮は再び歩みを始めた。しかしため息の理由はそれだけではない。紫蓮はこれからのことを考えて憂鬱になりながらも頑張って重い足取りで教室に向かっていた。というのももう既に紫蓮たちの学年は最高学年の三年生であり、高校受験も間近に控えているからである。さらにほかにも理由があるのがかれの辛いところだ。気がつけば紫蓮は、自分の教室の扉の目の前に来ていた。紫蓮にとって今からの時間が最も苦痛であり、紫蓮のため息の最後の理由である。
なかにいる人たちの視線を浴びないようにゆっくりと音を鳴らさないように教室の扉を開けて中を見ると、クラスメイトたちはほとんど全員揃っていた。紫蓮が学校に来るのが遅い理由は、学校にあまり居たくないから学校のホームルームにギリギリ間に合うように家を出ているからである。それでも遅刻して紫蓮より遅く学校にくる輩はいるもので、こんな時期に大丈夫かと思わないでもない。誰もこちらを見ていないことの確認してから教室の中に入る。この時あまり挙動不審にならないようにするのがポイントである、なぜならそうすることで逆に目立ってしまうのだ。なんとか無事に教室の中に入ることができたが、彼にとって教室に入ったここからが本番である。なぜなら紫蓮の席は教室のいちばんうしろであり、この教室は教卓側にしか扉がないためほかの人の席のとなりを通らなければいけないからである。
「……はぁ、行くか」
諦めと疲労の入り混じったため息をついて、紫蓮は机と机の間の通路の中でもなるべく人が少ないところを選んで通ることにした。紫蓮が選んだ通路の中間あたりには、二人の男子が道を挟むようにして笑って話し合っていた。正直に言うと楽しそうに話しているところに水を差すのは本意ではないが、このまま立っているとさらに面倒なことになるのでこの際仕方がないので通してもらうことにした。
足元に注意しながら周りと目を合わさないように歩く。その際に前髪が彼の目にかかるが本人は気にしていないようだ。そのまま少し早足で進み二人の前まで来ると、先程まで楽しそうに話していた二人が会話を止めて、試練のことを咎めるかのような目で見てきた。試練はその目線に少し怯みそうになるが、そのまま二人を無視して通り過ぎようとしたその時、二人組の片割れがその足を伸ばしてきた。普通の人間ならここで引っかかりそうなものだが、今まで何度も同じ目にあってきた紫蓮にはその行動が読めていた。しかしそんな紫蓮でももう一人が足を伸ばしていることには気がつかなかったようで、片方の足を避けるために少し大股になっていた足を無理やり動かして避けようとしたのでバランスを失い、そのまま倒れそうになった。
「うっ、うわぁぁ!?」
情けない声を出しながらもなんとか倒れまいと、机に手をつけようとする紫蓮だが、そこで待ってましたと言わんばかりに周りにいたほかの男子が紫蓮が手をつけようとしていた机を引いた。もちろんそうなれば紫蓮の手は空を切ることとなり、彼はそのまま勢いよく教室の床にぶつかった。
「ぐっ!? うぅ……」
なんとか床に手をつけて多少は衝撃を和らげたが、勢いを殺しきれずに胸を床にぶつけてしまい、腕と胸の痛みで呻き声を上げてしまった。するとうつぶせに倒れている紫蓮の下に一人の少女が歩み寄ってきた。少女はその金色の髪を頭の横で二つにまとめ、前髪は可愛らしい猫のヘアピンで止めている。その目は空のような青色で紫蓮を睨み、お嬢様のような見た目と裏腹に大股で紫蓮の方に向かってくる。
「あら、何もないところでコケるなんて情けないわね? もっとちゃんとしたらどうなの?」
これこそが彼を憂鬱とさせる最大の理由、彼に降りかかる理不尽、所謂いじめというやつである。そして目の前にいる少女、金剛 姫子こそが、彼をいじめているの者たちの首謀者なのだ。大手企業の社長令嬢でクォーター、さらに高飛車な性格と絵に書いたかのようなお嬢様である。
「それにずいぶんと辛気臭い顔してるわね? もうちょっと笑ったりできないのかしら?」
姫子が紫蓮を見下しながらそう言うと、紫蓮は姫子にばれないようにこっそりとため息をついた。彼女はいつも理不尽だ。紫蓮はそう心の中で悪態をつきながら立ち上がって服を払うと、姫子に向かって出来の悪い作り笑顔を向けた。
「お、おはようございます、金剛さん……」
結局作り笑いをしてもコミュニケーションが苦手な紫蓮は姫子から視線を外し、言葉も尻すぼみしてしまった。そんな態度が気に食わなかったのか、姫子は眉をしかめて不機嫌そうになった。
「何よそれ? そんな気色悪い笑顔で話しかけないでくれないかしら?」
あんたがそうしろって言ったんだろうが!! などと紫蓮が言えるわけもなく、紫蓮は苦い顔をするが周りの人間は気付くはずもなく、大声で笑っていた。
「おいおいこんな時期にこけてて大丈夫かよ?」
「いやいや、お前が机引いたからっしょ?」
「だってこいつが机に触っちゃったら卯月ちゃん泣いちゃうだろ? 女泣かせる男なんて最低だろ? つまり花柳くんがそういう男にならないように頑張ってあげた俺マジ友達思い(笑)」
「わ、私それくらいで泣かないよぉ?」
さらにたちの悪いことに、彼らはこれをいじめではなく、いじりだと思っていることでいるところがある。自覚なき悪意ほど面倒なものはなく、それが紫蓮を苦しめる。
「大丈夫、紫蓮くん?」
ウェーブがかった茶髪を肩まで伸ばした少女、卯月みどりが紫蓮を心配してティッシュを渡してきてくれた。紫蓮が自分の鼻の下を触って自分の手を見ると、指に血がついていた。この状況でも紫蓮を心配してくれる彼女は、金剛姫子の親友でありながらこのクラスで紫蓮にとっての唯一の味方である優しい少女だ。
これが三日前の出来事だった。その日彼女は行方不明になり、多くの人たちが彼女を探したが、その手がかりすら見つからなかった。
気が付けば場面は暗転し、紫蓮は薄暗い六畳ほどの部屋に立っていた。そこにはぼろぼろになった服を着た一人の少女が震える体を両手で抱きながら何かにおびえていた。紫蓮はその少女に見覚えがあった。首を横に振るたびに、ウェーブがかった髪の先から何らかの液体が飛び散る。何かがおかしい、異常におびえる少女に疑問を感じた紫蓮は、彼女の視線の先に目を向け、目を見開いた。気持ち悪いテカテカと光った粘液をまとった、肉色の細長いいくつもの触手が奇妙にうごめき、その中心に球状の肉の塊に赤い半球が埋め込まれていた。そう、それは昨日紫蓮は戦った謎の触手生物であった。それは徐々に彼女に近づき、気味の悪い触手で彼女を四肢を拘束する。彼女は必死に抵抗するがその甲斐なく、宙に吊り上げられてしまった。紫蓮は必死に止めにかかろうとするが体がいうことを聞かず、足が地面に張り付いたかのように動かない。そうこうしているうちに触手生物からほかの触手より二回りほど大きな触手が彼女に伸びていく。そしてそれは……
「やめろ!!」
その瞬間、紫蓮は己の叫び声で目が覚めた。紫蓮は息を荒げ、額ににじんだ汗を手の甲で拭く。その時自分の左腕に巻かれた包帯が目に入り、それが昨日のことが夢でないことを証明していた。そのせいで最悪の気分になって目が覚めた紫蓮は、とりあえず顔を洗おうとベッドから立ち上がる。この家は二階建ての一軒家で、彼の部屋は二階の階段の目の前に位置している。その階段から転げ落ちないように壁に手を付けて降りながら、先ほどの夢の内容について考える。あれは確実に昨日であった謎の触手生物だった。三日前の夢と奴の夢、この二つを同時に見たのは偶然ではないのではないか。そう思った瞬間、紫蓮は悪寒を感じた。何か大変なことに巻き込まれている、そんな気がした。気が付けば洗面所の前に立っていた。洗面所で顔を洗って多少さっぱりして鏡を見る、メガネをはずしているせいでその瞳が赤く光る。そして不健康に見えるその顔は、いつもよりやつれているように見えた。
誤字脱字報告、感想まってます。