やめろよこの触手やろう!!
いきなりですが、触手プレイっぽいのが出てきます、苦手な人はご注意ください。
夕焼けに染まる教室に、不気味な笑い声が木霊す。それは自分で聞いても不気味だったが、それでも僕の心の中を占めている感情は歓喜だった。偶然手に入れた力、しかしそれは必然だったのかも知れない。今まで学校のやつらにいじめられてきた、けれどこの力さえあれば簡単に復讐できる!! いや、復讐どころかそれ以上のことだって……
「ふふふふっ、あーはっはっはっはっ!! なんて素晴らしい力なんだ!!」
「……ちょっと、うるさい上にキモイんだけど?」
「うわっ!? げほっ、げほっ!!」
「えぇっ!? ……盛大にむせてるけど大丈夫?」
突然人の声が聞こえて思わず驚いてしまい、思わずむせてしまった。なんとか呼吸を整ええて声がした方を向くと、そこには僕を同じクラスの女子学生がいた。美しい黒曜石のような黒髪に宝石のように美しい蒼色の瞳、目つきは鋭く人が寄り難いような印象を与える。3年2組、出席番号は僕の前の10番、名前は確か……
「杜若よ、花柳 紫蓮。クラスメイトの名前くらい覚えておきなさい」
「そ、そんなことどうだっていいだろう!! それよりいつから居たんだよ!?」
「あなたが不気味に笑っているところからよ、ほんと何考えてるのやら……」
やっ、やばい、あの高笑い見られてた……なんかすっごい恥ずかしい!! こんな気持ち妹に黒歴史ノートを見られた時以来だよ。
「べべべっ、別にそれくらいいいだろう!! それより僕の名前を口に出すな!!」
「はいはい、わかったわゴミ虫。それよりさっさとそこどいて、忘れ物取れないじゃない」
「なっ!?」
なんて生意気な女なんだ!? くそっ……そうだ!! コイツをさっきの仕返し程度にこの力の実験台になってもらおう!! ……ついでにさっき見られたことも忘れてもらうか。うん、それがいい。
「おっ、おい杜若!!」
「はぁ?」
「……すいません、杜若さん。僕の目を見てくれませんか?」
力を手に入れていたおかげで随分といい気になっていたが、そう簡単に人間の本質は変わらないらしい。というか杜若さんの眼光が怖すぎる、やっぱりガチ百合で男のことを毛嫌いしているって本当だったのか? しかしここで引いたら男が廃る!! ちょっと弱腰になっちゃったけど負けないぞ!!
「嫌よ」
「えぇっ、なんで!? ……なんでですか?」
「ゴミ虫となんか目を合わせたくないし、それにあなたの方が目を合わせないようにしてるじゃない?」
「うっ……」
たっ、たしかに普段人と話したりしないせいでちょっと挙動不審になって目が泳いでいたりするけど……って、こんなことじゃダメじゃないか!! これから僕は僕のことをいじめてきた主犯格、金剛 姫子に復讐するんだぞ!! ここでちゃんと力を発揮できないと意味ないじゃないか!! 自分のかけているメガネを外す、すると俺の目を見た杜若が目を見開いて驚いている。
「かっ、杜若!!」
「きゃっ!?」
だから、覚悟を決めて杜若の肩を掴んで無理やりこちらを向かせ、強制的に目を合わせる。彼女の翡翠色をした目は嫌悪感よりも恐怖に支配されており、掴んだ肩が震えていた。そのことに罪悪感を覚えながらも、どうせ後戻りなんてできない、それにこれからもっと非道い事をするんだからと自分に言い聞かせた。
「僕の目を見ろ!! そして、『僕の言うことを聞け』……」
彼女と目を合わせながら力を放出する。すると彼女の瞳から光彩がなくなり、先程まで強張っていた体から力が抜けて少し倒れそうになった。僕は慌てて彼女を支えて近くにあった机の椅子を引き、そこに座らせた。
「やった、成功だ……!!」
今の彼女はまるで人形のように反応を示さない、夢心地のようにうつらうつらとしているその姿は、まるで『催眠術』にかかった人間のようだ。いや、これこそが実際によくあるエロゲーに出てくるような力を持つ『催眠術』なのだ!! この力に気がついたのはつい先日、メガネをとった時に何故か怪しくひかる目に気がつき、偶然見られた妹に忘れろというと、実際に忘れた時に気がついた。それから人間だけじゃなく動物でも試してみたが、どれも成功。しかしいくつか条件がある、まず一つは目を合わせること。これは絶対というわけではないが、こうすれば成功確率が非常に上がる。
「よし、まずは『さっきのことをすべて忘れろ』!!」
「はい……」
次に命令は相手に出来る範囲でしかできない、これは当たり前だ。それは先ほどの命令のようなことでも可能だ、だからこれを利用すれば証拠を消すことだってできる。その命令を聞くと素直に頷く杜若、本人が嫌なことならたまに嫌がる素振りをしたり催眠術が解ける事があるけど、彼女にとってはそこまでさっきの出来事は大切なことではなかったらしい。そして最後なんだが……
(いくら記憶を消さるからって、えっ、エッチなことは流石にダメだしな……)
「よし、それじゃあ『立ち上がって三回回ってワンッ!! って言え』!!」
「……」
そうは言うが彼女は無言のままだ、それどころかふるふると震えている。
「どっ、どうした、できないのか?」
この時俺は油断していた、俺の催眠術は完璧ではなくいくつかの条件があるということを。最後の条件、連続で使用する、または最初の催眠から時間が経っていると効果が減少する。ちなみに僕はこのうちの二つともの条件を満たしている。つまり……
「誰がそんなことするかこのド変態!!」
「ぐはっ!!!!」
つまりは彼女の催眠は解け、自分の意志で動き放題だということだ。強烈な右ストレートがボディに入る、きっと彼女なら世界を狙えるだろう。彼女の黒色の髪が乱れて、女の子独特の香りがこっちまで漂ってくるけどちっとも嬉しくない。というかもうダメかもしれない……
「ぐふっ、いいパンチだ……」
「えっ、ちょっとそれはないでしょ!! って嘘!! 気絶しちゃったの!?」
薄れゆく意識の中で最後に聞こえた言葉はそんな動揺の声だった。それを聞いて僕は意識を手放した……
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「……あれ、ここどこ?」
目を覚ますと、そこは見知らぬ天井だった……じゃなくて!! とりあえず上半身を起こして周りを見回す、白い清潔感にあふれた壁紙や仕切りのカーテン、ついでに今までベッドに眠らされていたようだ。ここって確か学校の保健室だよな? なんでこんなところに……あっ!! そういえば僕は、杜若に強烈な一撃をくらって倒れたんだ!! ってことは杜若が運んでくれたのか? でもいくら僕がひ弱だからって女の子がここまで僕を連れてこれるか? それに相手はあの杜若だ、僕にそこまでしてくれるとは考えにくい。
とりあえずこのまま考えても仕方ないので、目を覚ますためにベッドから立ち上がり、近くにある洗面所まで歩いていく。どうやら今は養護教諭も患者もいないらしく、すっからかんとして静まり返っている。ついでに外はもう日が落ちていた、結構寝ていたらしい。眠気覚ましに保健室の中にある洗面器で顔を洗おうとかけていた伊達メガネを外す、どうやらメガネをかけることで力の発動のオンオフができるらしく、能力に目覚めてから視力はよくなったが未だに伊達メガネという形で付けている。顔を洗い終わって顔を上げると、目の前にある鏡が目に入った。
少し紫がかった黒色の髪には白いメッシュが入っており、前髪で目が隠れるほど長い。いかにも不健康そうな顔は今にも倒れそうで、目の下のクマがより一層気持ち悪さを出している。さらに顔はゲッソリとしていて肌は白く、あまり外に出ていないようにも見えてしまう。これでも絡まれた時に逃げれるように毎日ランニングをしているんだけどなぁ……
「きゃぁぁぁぁ!!」
「えっ……」
そんなくだらないことを考えていると、女子生徒のものと思われる悲鳴が聞こえた。結構近くだが、何やらまずそうだ。とはいえ、僕ひとりで何か出来ることはないし、こんなに大きな声だったんだから誰か先生が気づくだろう。でも、ちょっとした野次馬精神が出てきてしまった。ここから近いようだし、それにもしも先生が間に合わなかったり気づかなかったりしてたら大変だもんね、と自分に言い訳して現場に行こうとすると足になにか当たった。
足元を見てみると、そこには僕のカバンがあった。カバンの中には教科書類やからの弁当箱、それと金剛 姫子を襲うときに使おうとしていた脅し用の普通のよりも大きいカッターと、念のために顔を隠すために演劇部から拝借した人の輪郭をした少々リアルな真っ白な仮面が入っていた。僕はカバンの中からその二つを取り出して仮面を付け、右手でカッターを握って部屋を出て悲鳴のした方へ向かう。声の方向からして一番近くの二階へ続く階段の踊り場あたりだろう、ここは一階だから場所は上しかありえない。
途中までは急ぎ足で、階段の近くからは忍び足で近寄っていく。ゆっくりと近づいていくが、聞こえるのは女の子の助けを求める声だけだ。そこでやっと自分たちが置かれている状況に気がついた、よく周りと見てみると誰も人がいないのだ。今は冬だから外が暗くなるのが早いけど、それでも野球部なんかはもう少しやっているはずだし警備員のおじさんやまだ仕事をしている先生だっているはずだ。それに今思ったらここから職員室まで近い、それなのに誰も気がつかないはずがない。そう、今この場所に、僕たち以外の人間はいないのだ。はっきり言ってこの状況はおかしい、生徒どころか人っこひとりいないなんて。そのことに気がついて一気に恐怖が押し寄せてきた。手に持つカッターは震え、それを持つ手が汗ばみ、さっきまで歩んでいた足が止まって小刻みに震えている。もうやだ、早く帰りたいと思っても、足は言う事を聞かない。
そうして恐怖に縛られていると、どんどん周りの声が聞こえてきた、少女の助けを求める声とグジュリグジュリとなにか得体のしれないものが動く音が。まるでそれは地を這うナメクジのように、湿った、いやヌルヌルした何かがうごめいているような音。こんな音をゲームで聞いたことがある、しかも本来自分の年齢ではやっていはいけないようなゲームでだ。嫌な予感がする、そう思っていると少女の声がうめき声に変わった。それはまるで、口に何かを入れられて塞がれているかのように……
「は、ははっ……もしかしてそんなわけがないよな……?」
そうすると、感じる恐怖が別のものに変わった。未知への恐怖から、目に見える恐怖へと。信じたくない、見たくなんてない、そう思いながらも自分の足は声のする方へと足を向ける。階段までもう少し、そこまでついて一旦止まり、壁に隠れてこっそりと覗いてみる。するとそこで見た光景は、ある意味予想通りで、ある意味一番信じられない光景だった。
「お、おい……嘘だろ……」
「うっ、うぷっ……んんん~!! ふぁれふぁ、ふぁれふぁふぁふふぇふぇ……」
黒曜石のような、美しい黒髪が月明かりに照らされて見えた。エメラルドのような綺麗な翡翠色の目から、溢れるように涙が流れ落ちるのを見た。その可愛らしいぷっくらとした唇が、赤黒くてグロテスクな肉の棒で塞がれているのが見えた。制服は無残にも破られ、その下から中学生とは思えないほど発達したモノが露出しているのを見てしまった。そして、スカートのたくし上げて、今にも行為を行おうとしているそれを見た。それは、肉塊だった。中央にある赤い球体のようなところから無数に伸びるいくつもの肉の棒、それらは地につき足となり、残りは手となっていた。それらはうねうねと動き、彼女の腕を、足を縛って宙吊りにして自由を奪っていた。それは正しく、よくあるエロゲで出てくるような触手だった。それは、よく自分がゲームで見る光景だったが、それで興奮なんてできるはずがない。なんせ襲われている少女は……
「うっ、嘘だろ……杜若……」
「ふぁ、んんん~!! ふぁふふぇふぇー!!」
「やめろ……やめてくれ……」
自分の知る少女で、さっき自分が実験台にした少女で、久しぶりにちゃんと話した少女だったから。そのことを知り、呆然としていると、杜若がこちらに気がついて暴れ始めた。すると触手は彼女を止めようとしたのか、先端が注射針のように尖った触手を一本取り出した。それで何をしようとしているのかなんてすぐにわかった。そして僕は、気がついたら走っていた。彼女を助けるために……
「『やめろよこの触手やろう!!』」
走り出した足音で僕の存在にやっと気がついたのか、触手はこちらの方を振り向いた。しかし、それはやつにとって間違いだった。何故か僕の発した言葉とともに奴は動かなくなり、僕はそのまま手に持つカッターの刃を出してやつの弱点であろう中心の赤い球体に思いっきり突き刺した。なぜやつが急に動かなくなったのかと思ったが、よくよく考えれば洗面所に伊達メガネを忘れていたらしい。
「くっ、この……」
「グギッ、グゲゲ……ギュロッ!!」
僕はカッターをやつに突き刺したまま、二三歩後ずさりして尻餅をついてしまった。すると奴は少しフラフラと左右に揺れて、その各部の触手から力が抜けて倒れると同時に杜若を落とした。
「あっ、危ない杜若!!」
震える足になんとか力を入れて、やつの触手から滑り落ちた杜若をなんとかダイビングキャッチした。少し、いやかなり痛いけどそれを我慢して杜若に声をかける。
「おい、おい大丈夫か杜若!!」
「う、うん……あなたが、助けてくれたの?」
その問に、少し戸惑う。別に助けたわけじゃない、それでも彼女を安心させるにはそういった方がいいのだろうか?
「……うん、そうだよ」
「うっ、ふぇっ、遅いのよ……もうちょっと遅れてたらどうする気だったのよバカァァァァ!!」
そういうと、彼女はダムが決壊したかのように泣き始めた。涙が頬をつたり、その可愛らしい唇が濡れる。そして今までそれどころじゃなかったから気がつかなかったけど彼女は半裸だった。その事実にどぎまぎしながらも、流石に彼女に失礼だと思ってなんとか意識しないようにしていた。ついでに抱きしめられてその豊満な胸が当たる、それでなんとか起立しようとしているマイサンをなだめながら理性を総動員させた。この天国と地獄は、彼女が泣き終わるまで続いた。
「……もう、大丈夫なのか?」
「ぐすっ…… うん、一応落ち着いた……」
しばらく自分の理性と戦っていると、彼女がやっと離れてくれた。すると彼女の姿が丸見えになってしまい思わず慌てて自分の制服の上着を脱いで彼女に渡した。
「ととと、とりあえずこれ着て!! その格好は危ない!!」
「えっ……? って、きゃぁぁ!!」
彼女はそうやって叫ぶと同時に僕の手から制服の上着を奪って体を隠すようにそれを羽織った。彼女を顔は朱色に染まっており、その普段は見ないような表情に思わずドキっとしてしまった。その後すぐに後ろを向いてしまったのでもうその表情は見えないけど、しっかりと僕の脳裏に焼きついてしまった。それからしばらく沈黙が続き、その沈黙を破ったのは彼女だった。
「……なんで、こんなことになっちゃったんだろう?」
「……えっ?」
それは、どういう思いが含まれているのだろうか? なぜこんなことに巻き込まれたのか、なぜ自分なのか、なぜあんな気味の悪い生物がいるのか、きっとほかにもあるのだろう。それを聞いて、どうすればいいのかわからなかった僕は、そんな思いと相反して自然と口が開いてしまった。
「……じゃあ、忘れたい?」
「……えっ?」
気がついたらそんなことを言っていた。どうやってそんなことを、そんな表情で彼女は僕の顔を見ていた。すると僕は彼女の返事を待たずに彼女の頬を手で包み、目を合わせた。きっと彼女もこんなこと忘れた方がいい、そう言って自分に言い聞かせた。すべて勢いだったけど、今まであまり人と喋らなかった僕に慰めの言葉なんて思いつかず、こんな荒唐無稽な話なんて誰も信じなだろうし、それをひとりで抱え込むよりは全て忘れてしまったほうかマシだと考えたのだ。幸い被害は少ない、だからやるなら今しかない。彼女の目はあの時と同じく虚ろな目をしている、今からしようとしていることに罪悪感を覚えるが、それを頭から振り払う。
「『今まで君が見たものは全て悪い夢だったんだ。ほら、意識がはっきりしないだろう? 君はもうすぐ目を覚ますだろう、その時君は保健室のベッドで目が覚めるはずだ。その時服は体操服を着ているはずだよ、保健室に戻ったらまずその制服を脱いで予備の体操服に着替えるんだ。制服はもう古くなったから処分して、今度新しい制服を買うんだよね? そしてお口はゆすいでおこう、それが終わったらベッドに戻って目を覚ますんだ。目が覚めたらどんな夢を見たかなんて覚えていない、よくあることだ。このことについては違和感を覚えちゃダメだよ、わかったら早く保健室に行くんだ』」
そういうと、彼女はこくっと頷いて立ち上がり、保健室に向かって歩き出した。彼女が見えなくなると、安心したのかどっと疲れが押し寄せて、力を使いすぎたのか激しい頭痛に見舞われた。
「いっ、痛い痛い痛いぃぃぃぃ!!!!」
頭が割るかのような痛みに耐え切れず、しばらく地面にのたうち回る。それからすぐに痛みは引いたが、まだ頭がガンガンする。そこでいまさら気がついたんだが、ここからどうやってでればいいんだ? そんな当たり前の疑問を胸に周りを見渡すと、あの触手の死体があった。
(そっか、僕が殺したのか……)
いくら危険な生物だからといって動物を殺したのは初めてだった、そう考えると少し悲しくなり、また罪悪感を覚えた。そうやって感傷に浸っていると、その触手がぴくっと動いた。そしてそれは驚いて動けない僕に向かって勢いよく飛びかかってきた。
「キシャァァァァ!!!!」
「えっ、ちょっ、うわっ!?」
触手は中央の赤い球体みたいなのの下から口みたいなものを開いて、カッターが刺さったまんま噛み付いてきた。僕は反射的に腕でガードすると、左腕を噛まれた。噛まれたといってもそこまで鋭い歯ではなく、もともとも弱っていたものあって噛みちぎられはしないもののすごく痛い。手負いの獣ほど怖いものはないと聞くけどどうやらそれは本当だったらしい。
「痛いっ!! くっ、離れろ、離れろよ!!」
「グギッ、グゲッ、グゲゲッ!!」
痛みに耐えながら腕に噛み付いてきた赤黒い肉塊を振り落とそうと左腕を降る、しかし触手は全く離れる気配がなく、逆に腕により歯が食い込んできている気がした。噛まれたところが焼けるように熱く、鉄の匂いが子の場に漂ってきた。よく見ると噛まれたところから、暗くてよく見えないが何やら液体が流れてきた。それがやつの体液なのかそれとも自分のものなのか、考えることが怖くなってしまった。
「ひぃっ!? 離れろ、離れろよぉ!!」
怖くなって、思わず情けない声で触手あいてに懇願していた。だけど相手はこっちなんてお構いなしに噛み続けている、僕はそれを振り落とそうと腕を振りまくるけどやっぱり離れそうにない。涙が出てきた、なんで僕がこんなことに、もしかしたらこいつに食べられるんじゃないのかって。今なら少し彼女の気持ちもわかる、怖いのに、悲しい気分だ。どうしようもないので、なんとか離そうとやつの噛み付いている腕を、壁に地面にと叩きつける。
「ギャヒッ、ギュヘッ!!」
「いい加減くたばれよ!! 頼むからくたばってくれ……」
「ギュッ、ギョヘッ!!」
「くそっ、痛いっ!! 痛いんだよ!!」
何度叩きつけても離れず、逆に腕の傷口がえぐれて痛い。それでも痛さのあまり触手を地面に叩きつける、そしてそれで痛みがます、まさに悪循環だ。それでも早くこの肉塊を引き剥がすためにはやらなくちゃいけない、コイツがくたばるのが先か、僕が食われるのが先か。正直前者であってほしい。そこであるものが目に入った、今の僕にとってそれは救世主にも近い存在で、なんで今まで忘れていたのかもわからないものだった。
「くそっ、これでも喰らえ!!」
「ギュフィッ!?」
僕はやつの胸?に刺さっているカッターを勢いよく引き抜き、もう一度やつの赤色の球体めがけて突き刺した。すると奴は僕の腕からやっと離れたが、まだ生きているようだ。とは言っても既にフラフラとしており、すべての触手もだらんと地面に落ちているのでもう虫の息だろう。……と思って油断していた僕がバカだったよ、奴は僕が油断したその隙に触手を伸ばして僕に攻撃してきたのだ。
「ギシャァァァァ!!!!」
「うっ、うわぁぁぁぁ!!!!」
僕はカッターを握っていた腕を捕まれ、それを振り払おうとして体制を崩して階段から触手ごと落ちていった。頭をかばおうとするが触手に掴まれているせいでそれもできない、もう終わりかと思って目をつぶると、もう逃げられないようにと思ったのか触手が僕に絡みついてきて、そのままゴロゴロと階段を転げ落ちていった。
「いったぁ~、何がどうなったんだよ……」
フラフラする頭を抑えながら、なんとか立ち上がり目を開ける。触手が絡まってきたおかげでなんとか衝撃をまともに受けずに済んだ、やつが馬鹿でよかった。それはそうと、触手が自分から離れていることに気がつき、自分のしたを見る。するとそこには息絶え絶えの触手と、中央の赤い球体の部分に深々と突き刺さったカッターがあった。刃は全部出していたから、おそらく貫通しているだろう。触手がゆっくりと僕に向かって触手を伸ばしてきたが、途中で落ちてしまった。すると触手の体はどんどん灰となり、あるはずのない風に流されて消え去ってしまった。
「……これで、本当に終わったんだな」
そう呟くと安心したのかふっと意識が遠くなった。ふらっと体が揺れ、倒れそうになったところで誰かに抱きかかえられる。
「おい、どうした紫蓮!? おい大丈夫か!!」
抱きかかえてくれたのは僕のクラスの担任である、蝎野だった。紫色の瞳に赤毛の少し日焼けた熱血の男の先生だ。優しくて、生徒思いで、僕にも気にかけてくれるけど、いじめのことなんて知らなくて……
「しっかりしろ紫蓮!! いま救急車を呼ぶからな!!」
「……よ、呼ばなくていいです」
「!? おい紫蓮、大丈夫なのか!?」
「はい、ちょっと野良犬に噛まれただけなんで。帰りにちゃんと病院に寄って行きます、『僕を信じてください』」
流石に救急車はまずいと思って咄嗟に嘘をつく、すると先生も納得したのか頷いてくれた。
「わかった、それなら俺が送ってやる。すぐに車を出すぞ!!」
それでも先生はついてきてくれるらしい、やっぱり優しくて、お人好しな先生だ。先生にお姫様だっこをされる、正直全く嬉しくない、逆に寒気がする。でも、なんだかとっても安心する。きっと僕に父がいたなら、こんな感じだったのだろう。
「……ありがとう」
ぼそっと、聞こえないくらい小さな声で僕の本心をつぶやいてしまった。すると先生は、どこか少し上機嫌になった気がした。その今にもスキップをしそうな振動を受けて、僕はその広い背中に体を預けて意識を手放した。
――こうして僕は、後に激動の一年と呼ばれる数多の事件に巻き込まれることとなる――
誤字脱字、感想待ってます。