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遺魂-ユイタマ-   作者: 好々爺
1/1

プロローグ

 私は周りから「できた子」という固定概念で見られていた。


 小さい頃から親の言う事をちゃんと聞き、勉強した。それ自身間違いだと思った事は一度もないし、うそを言ったこともない。


 近所にはいつも挨拶をしていた。すれ違う人に対しても。だからこそ私は「できた子」に形作られたに違いない。


 中・高に進んでも私は「できた子」だった。ずっとひたすら机に向かって勉強、勉強の毎日。苦痛に思った事など一度もない。昔のように両親が言ってこなくなったとしても私にはそれがあたりまえの行動だと思っていた。


 大学入試にもすんなり通り、私は今第一志望の大学に通っている。もちろんこの大学で心理学の講義をしている教授の本を読んで感銘を受けた事が志望動機だ。


 ここでも私はずっと勉強して、自分のやりたい事だけを研究して卒業する。そんなあまりにも平凡すぎる人間の人生プランを私は想像していた。


 その日も何でもない日常が始まった。別に靴紐が切れたとか動物の死骸を見たという縁起が悪い事など一つもなかったし、単なるモチベーションの為に見ているテレビの占いも特別良いとも悪いとも言えない結果だった。


 ただその日の私はついていなかった。いつもの講義で私が座っている座席に座れなかった。いつも空席が目立つのに今日に限って聴講する学生が多くいた為である。仕方なく、私は一番後ろの離れた席に座った。


 定刻通り教授が教室に入り、講義を開始する。黒板に次々書かれていく事とマイクからの情報を整理し、私はノートを作っていく・・・・はずだった。


 何故かいつも通りの事が私にはできなかった。やろうという意思はあるけれど実行に移せない。何か障害となるものが私の席近くにいた。


 それはとても同じ学生とは言えないいわば「はぐれ者」、「不良」達で、講義が始まっても彼らはずっと喋り続けていた。その声量が私の行動を邪魔していた。


 うるさすぎてマイクの声が聞き取れない。その為にノートが取れない。今まであまり人と触れ合った経験がない私の心に憎たらしい何かが蠢き始めた。


 やがてその感情が普段の私を塗りつぶしていく。手に持っているペンを握る力がいつも以上に強く感じる。歯ぎしりの音も聞こえ始め、それが自分が出している音だと言う事も気づく。


 このままじゃ何もできない。教室を退室しようかとも考えたが、真面目な私にそんな事はできない。頼みの綱は教授が彼らに注意する事だ。私はそればかりを祈っていた。


 しかし、時間が半分以上に経っても教授は注意しない。そぶりすらも見せない。私は絶望した。もはや教授の視覚には喋り続けている彼らとそれに困っている私の姿など映っていないのだろう。


 教授だけではない。周りの私と同じように講義を聴いている学生も彼らの迷惑さに気付かない。いや、気づかないふりをしているだけなのだろう。ノートの一点に置いたペンが力を増して穴を開けた。持っていた右手は震えている。


 とりあえず今日は授業にならない。次からはもっと早く来るようにしよう。今日の講義をただ聞くだけにしようと切り替えた私。しかし事態はそれを許さない。


 ポコッという鈍い音が頭で響くと、頭から下へ何かの液体が流れてきた。その液体は私の顔、服だけではなく机上に置いていたノート、筆箱を濡らしていった。今までの講義をメモしていたノートはただの紙くずとなった。


 私を濡らした液体はジュースだった。私の頭に用器が当たり、中の液体がこぼれた。液体をふかず、ただ呆然とする私の耳にひそひそと声が聞こえた。


 それは今まで私の邪魔になっていた彼らの声だ。「やばい」や「どうする?」といった声の後に誰が謝りにいくかでもめていた。あまりにも喋る事に夢中になりすぎて手にしていた飲み物を私に向かって落としてしまったのだ。だけども彼らはまだ謝りに来ない。誰が行くのか責任の押し付け合いを未だにしているのだ。やがてそこから何故か笑う声が交ってくる。


 (ふざけないで)


 私の心が叫ぶ。口をつぐんで黙っている私は下をうつむいている。


 (誰も・・・・彼らを注意しない。もう大人と同じなのに注意する事もしない、できない)


 だんだんと叫びが大きくなる。


 (彼らも彼らよ。なんで喋っているの。それが邪魔になっていると思わないの!先生も先生、皆も皆よ・・・・なんで注意しないの)


 ふさぎこんだ私ははっと何かに気付き顔を挙げた。私は暗闇の空間にいた。


 周りで聞いている学生が、教授が皆私に視線を向けていた。振り返るとジュースをこぼした彼らも私を見ていた。哀れみや同情の視線ではない。満面の笑みを誰もが浮かべていた。


 (皆・・・・笑っている。何も悪くない私を・・・・笑っている)


 目をそらしたくても逸らす事ができない。思わず凝視してしまう。


 (何で。何で皆して私を笑うの!私・・・・ワタシ何も悪くない)


 この時から私の表情も感情も消え去った。


 (悪いのは皆・・・・ワタシワルクない。悪いの・・・皆・・・・ワタシ・・・・ミンナ・・・・悪い・・・・・にくい・・・・ニクイ・・・・憎い・・・・)


 その時私は決心した。皆を「憎む」と言う事に。


 気づくと風景は暗闇から元に戻っていた。隣を見ると彼らから一人謝りに来たのだろうと思われる男性がいた。


 その学生は私に謝る。けれどもその声は私に入ってこない。話す口元は笑みを浮かべていた。彼は謝ってなどいない。形だけだ。彼はウソをついている。私は許せなかった。


 「顔・・・・下に向けて」


 彼は不思議そうに顔を下に向けた。私はバッグから一つの真新しいハサミを取り出す。そして、彼の頭を掴んで勢いよく彼の眼に開く事のないそれをつき刺した。彼の悲鳴が空間に響き渡る。一斉にこちらを見てきた。


 彼の顔を挙げると、右目から血が噴き出していた。誰か知らない所から女性の叫び声が聞こえた。


 事態を見てか教授がマイクを持ったまま私に近づいてくる。彼はまだ私に掴まれたまま痛みにもがいている。不思議とこの時私の力は彼に勝っていた事と彼のズボンにサバイバルナイフが2本チェーンで付けられていた事に私は驚いた。劇場型の支配人は全て偶然の如く用意周到なのである。


 私は彼のナイフを奪う。そしてそのうち1本で彼の喉笛を勢いよく切った。さらなる悲鳴が聞こえた。鮮血が吹き出て私にもかかる。その血を舌で味わっていた。


 教授もそれを見て進まなくなった。一瞬で動かなくなった彼を投げ捨てる。机に当たって床に倒れる人形の音と、また悲鳴が聞こえたが誰も逃げられない。この空間が全員の行動を麻痺させていた。


 私はもう一本のナイフを教授めがけて投げた。そのナイフは初めて投げた割に直線に飛んでいき、教授の首に突き刺さった。また赤い血が吹き出て教授は倒れた。私はその光景を見て笑っていた。そしてナイフを全員に見せて叫んだ。


 「殺してやる・・・・ミンナ・・・・・コロシテヤル!」


 大声で叫び、行動に移った私は「できた子」から「ヒトゴロシ」に変わっていた。






 俺自身、まだ悪夢と言うものを見た事がない。


 周りの話でたまにうなされたという単語が出てくるが、それが悪夢と言う事だろうか。


 悪夢というのだから悪い夢である事は間違いない。


 しかし、今の俺を悩ませているのは現実世界で味わう一味違った『悪夢』の事である。


 「どうした順。そんなに眉間にしわを寄せると、周りから君は老けて見える。まだまだ若く見られたいのなら今すぐその行動は止めるべきだと思うが?」


 ずずーっと食堂で一番安いかけうどんの汁を飲みながら、俺にこう助言してくる小っこい女性、というより女の子が俺にとっての現実悪夢の対象だ。


 別にかけうどんの値段、80円を自腹で奢らされた事でも周りから老けて見られる事を言われたからではない。分かりやすく言うならば・・・・この子が大学一変人と噂されている奴だからだ。そんな奴に気にいられたのかずっと俺のそばにいる。それが悪夢の内容だ。


 「あのな美夜みよ、俺だって忙しいんだ。この後だって講義が立て続けに入ってる。少しはこっちの予定というものも考えてほしいんだが・・・・」


 俺は名前に沿わない悪魔に遠まわしに契約解除を持ちかけてみた。だが、結局彼女は何も言わずまたせっかく奢ったかけうどんも残したまま急に席を立つ。


 「おい!まだ話が・・・・」


 引き留めようとする俺に美夜は携帯画面を見せる。


 「行くぞ順。依頼人からのSavationだ。」


 彼女はそそくさと食堂から出ていく。それを見守る民衆ならぬ学生は残された俺にも視線を浴びせてくる。


 「あーいつになったら終わるんだよぉぉぉぉ!!!」


 言い忘れてたことがある。俺にはもう一つ悪夢が憑きまとっている。


 それは大学一の変人が実は魂を救済する為に次元を超えられる救済師であって、俺はどさくさまぎれにそいつの助手として仕事を手伝わなければならない事なのだ。


 この悪夢はいつ覚めるのか・・・・それは美夜も、そして俺も誰にも分からない。

初めまして!つーりすとのメンバーで好々爺と言います

まずは読んでいただき有難うございます!


元々この作品はずいぶん前から書いたまま放置していたものをつ~りすと結成がきっかけで新たに書き直したものです


まだ途中ですが、これからより面白いものにするために頑張りますのでよろしくお願いします!

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