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めざめれば……

 気がつくと柔らかな寝台に寝ていた。体中のあちこちが痛い。目を開くと誰かが傍らにいる。渦をまく蜂蜜色の髪に翡翠の瞳。愛らしさと美しさをともに持つその顔は――

「わたし?」

 フィニアによく似ていた。

「ああ、フィニア! 気がついたのね。よかった。心配したのよ」

「え?」

 顔や体には包帯が巻かれていた。軟膏のような感触もある。手当てしてくれたのだろう。

「ここはどこ? あなたは……」

「ここは屋敷よ。もう心配いらないわ。わたしはローズ。あなたの双子の姉よ」

 ローズと名乗る女性の顔立ちは双子だと言われても納得できるほどフィニアと似ている。

「お姉さん?」

「そうよ。ごめんなさいね。わたしも双子の妹がいるなんて知らなかったのよ。そうと知っていれば、あなたをこんな目にあわせなかったわ」

 その人はぽろぽろと大粒の涙を流した。

「わたし達のお母様の国の風習では、双子は引き離して育てなければならないのですって。この国ではそんな風習はないのに。だから今まで知らなかったのよ。それを知ってお父様は慌てて迎えに行ったのに、預けた家がなくなっていて――あなたがどこに行ってしまったのか分からなかったのよ」

 自分が預けられたのが家族の総意ではなかったとフィニアははじめて知った。

 それにしても皮肉な話だった。

 アッテンハイムの商家が没落したのは投機に失敗したからだが、そのきっかけは起こりそうだった隣国との戦争が起きなかったためだ。戦争を見込んで投機したアッテンハイムはものの見事に大金を失った。もし開戦していたらそうはならなかっただろう。

 両国の王を諌め戦争を回避したのはラゼリア大公の息女ローズ姫。

 姉と同じ名前だ。

「わたしは……間違いで……里子にだされたの?」

「そうよ! お父様が知っていれば、あなたをよそになんかやらなかったわ。でももうこうして見つかったのだから、これからはずっと一緒よ、可愛いわたしの妹」

 フィニアは胸がいっぱいになって涙が出てきた。

「傷が痛むの? かわいそうに。ごめんなさいね。あなたは魔法が効きにくい体質なの。そうでなければすぐに治すのに」

「――そうだ! わたし」

 罪人として王都に連れてこられたのだ。血の繋がった家族もどんな目にあわせられるか分からない。

「失礼いたします。お嬢様が目覚められたと聞きしましたので」

 ブラウンの髪のにこやかな男性が部屋に入ってきた。

「あなたは?」

 男は恭しく頭を下げた。

「お初にお目にかかります、フィニアお嬢様。わたくしはノールと申します。あなた様のお父上ラゼリア大公リチャード様にお仕えするものです。これよりは何なりとお申し付けくださいませ」

「――ラゼリア大公?」

「はい」

「お父様?」

「はい。ラゼリア大公リチャード様があなた様のお父様です」

「―――ええぇぇえええええ!」

 ラゼリア大公リチャードといえば王弟である。そして姉であるローズは間違いなく救国の姫と謳われるローズ姫。

「聞いてないわっっ!」

「そうね、まだそこまでは話していないわ」

「どこまで聞かれましたか?」

「わ、わたしが間違いで里子に出されたことと、魔法が効きにくいってこと」

「では、僭越ながら、わたくしから説明を。その間に少しでもお召し上がりください」

 ワゴンを引いた少し年配の女性が部屋に入ってきた。

「お嬢様……申し訳ございませんでした!」

 その人はフィニアを見るなり泣き崩れた。

「え? え?」

「お嬢様、このものはアリアと申しまして、お嬢様を商人に預けたものでございます」

「わ、わたくしがうかつでございました! 少しでも裕福なものに預けようと……まさかあんなに性根の腐ったものだったとは……申し訳ございません!」

 この人かっっ! あの家に預けたのは!

「……」

「あの家での暮らしぶりは調べさせていただきました。没落してからは足取りが途絶えておりますが――分かっただけでもあまりに冷遇されておいでで、このものはそれを悔い、お嬢様に誠心誠意尽くしたいともうしております」

「おいたわしい……わたくしの責任です。わたくしがあんな家に預けたばかりに……」

 アリアが号泣する。

「傷ですが、魔法が効きませんので、普通に治療するより他はないそうです。数日絶食させられたとか。胃に優しいものを用意させました。少しでも召し上がりください。薬もありますので、お飲みください」

「そうでしたわ。粥ですがお召し上がりください」

 アリアがワゴンから白い深皿を手に取った。中には粥が入っている。

 食べ物!

 なにも食べていなかったフィニアはすぐ手を出そうとして、痛みにうめいた。腕も傷だらけで持ち上がらない。

「さあどうぞ」

 アリアが匙ですくった粥を口元に持ってくる。

 恥ずかしかった。恥ずかしかったが――空腹には勝てなかった。仕方なく口をあけて食べさせてもらう。

 粥は涙が出るほど美味しかった。

「ではラゼリア大公リチャード様がお父上であることはすでに述べましたので省略させていただきますが、旦那様はあなた様のことを知り、すぐに引き取るために探されました。そのことを国の上層部が嗅ぎつけまして、ラゼリア大公家の姫君のことですのでことは大事になり、独自に探させたのです。ところが、手配書の内容が書き写すとき省略されてしまい、大いなる誤解を招き、功をあせったものがお嬢様に狼藉を働いたのです」

「じゃあ……間違いだったのね……」

 フィニアはほっとした。

「はい。ご安心ください。このような事態を招いたものは、処罰されました」

「え? で、でも、誤解だったのでしょう? 誤解ははれたのでしょう?」

 罰せられたと聞いて、フィニアは胸を痛めた。確かにこんな酷い目にあわせられて恨まないはずはない。

 しかし――だからといって酷い目にあえばいいと思ったわけでもない。

「フィニア、これはれっきとした違反なのよ。違反には罰を与えないといけないわ」

「お姉さま?」

「手配書などの公文は一言一句正確に書き写さないといけないのよ。今回のような誤解を招かないようにね。職務怠慢は大罪なのよ。また、抵抗しない虜囚を虐待するのも禁じられているのよ。彼らはそれを犯した。罰を与えないと示しがつかないのよ」

 ローズが毅然として言った。

 確かに公式文書が改竄されては大変なことになる。また理不尽な虐待などあってはならないことだ。

「ご安心ください。彼らは罪の重さに相応しい罰を受けただけです」

 にっこりと笑いながらノールがいうので、そんなに酷い罰ではないのだろうとフィニアは思った。

(お給料へらされるとか、叱られるとか、かなぁ)

 ノールは穏やかそうな人だが頼りになりそうだとフィニアは思った。

 粥を一皿食べると眠気が襲ってきた。

「お薬をお飲みください。たくさん召し上がられてお薬を飲んで、ゆっくり休まれれば早く治るそうです」

「ありがとう」

 フィニアは礼を言ってから薬を飲み下し、眠った。

フィニアァァァアアアア!!騙されてる!!騙されてるからっっ!!


ちなみに、文官は免職されてます。将来を嘱望されていた若者たちだったのに……


兵士は……前話をご覧ください。兵隊さんたちの後日談いる?

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