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顧みること

「あまりこちらの国には迷惑かけたくはないのだがな……」

 クロスが溜息をついた。

「あら、あなたのお国のためだけではありませんわ。我が国の者が絡んでいますから、もう我が国の揉め事ですわ。むしろ――」

「俺がおまけか」

 ふっと苦笑いをこぼした。

「大臣は伯父上の陣営だが――まあ、いざというときは切り捨てられるな。そちらに責任を取らせるのは無理だろう。証拠は残していないだろうからな。せいぜい言質くらいしか与えていないだろう。しかし、うまくやったとしても、伯父上は開戦派だったのだが――それを分かっていて、手を組んだのだろうか?」

 クロスがシグラトで急死したとなれば死因の如何にかかわらず戦争をふっかけてくるぐらいはする――と覚悟しなければならない。

「……なるほど、なりふりかまわないのか、それが分からない馬鹿なのか……判断に困るね」

 大公が眉をひそめた。

「どちらにしろ、売国奴だな」

 きつく追求しなければとレオンハルトが顔をしかめた。

 一人話しについていけないフィニアは溜息をついた。

「どうした?」

「殺されないでください。どう考えてもクロスさまが生き残らないと戦争がおきそうです」

「たやすく殺されるつもりはない」

「そう願います。だってその伯父さんとか従兄弟の人が跡を継いだらうちに戦争ふっかけてきそうで……」

 ソーサーにカップが戻される大きな音がした。

「……それはない」

 なにを思い出したのか、クロスが小刻みに震えていた。

「どうしました?」

「……いや……そのときにはとっくにいなくなっているはずだが……少しな……」

「? なにか過去にあったのですか?」

「……聞いてくれるな」

 レオンハルトがクロスの肩を慰めるように叩いた。シーリスはそっと目頭を押さえる。

 なにか過去にトラウマになるようなものを見たらしい。

 いったいナニを見た?

「おそらく、我が国は何があろうとシグラトに戦争は仕掛けない。三年前にそう誓っている」

「そうお約束してくださいましたわね。現国王陛下が。でも、代替わりした方が守ってくださるかしら?」

 ローズが視線で問いかけ、ノールが笑う。クロスが顔色を変えた。

「わたくし、もう一度同じお願いをするべきかしら?」

「……その必要はない」

 蒼白な顔でそれでもクロスは言い切った。

「あなたが跡を継ぐべきですわね。そうすればその必要はなさそうですわ」

「俺が王か……父上も考えていなかっただろうな」

 クロスは皇太子である。次代の王となるべきものなのに――それを考えていないということは、それだけ冷遇されているということなのだろうか。

「殺されるつもりはないって、言いましたよね?」

「ああ」

「だったら、王になるってことでしょう?」

 フィニアの言葉にクロスが眼を見張った。

「……結果的にそうなるか……」

 生き延びることは考えていても、それが王になることに結びついていなかったようだ。いったいどれだけ顧みられなかったのだろう。自身が次への繋ぎ程度にしか感じられないという孤独な皇太子は。

「だったら、いい王様になってください。あなたを選ばなかった人達が悔しがるぐらいの名君に」

 クロスは言葉がなかった。

「派閥がないって事は柵もないということでしょう? ならいい人材引き抜いて、国を良くしてください。あなたを顧みなかった人達はきっと自分の見る目の無さを悔しがりますわ」

「……そういう発想はなかったな……」

 クロスの眼が和んだ。

「期待にそえるよう努力しよう」

「きっとですよ」

 フィニアは華やかに笑った。

「そういえば、あの魔法はどういうものだ?」

 ふいにクロスがたずねた。

「え?」

「あの、魔法を無効化した魔法だ。ああいうものは見た事がなかった。シグラト特有の魔法なのだろうか?」

「ええと……」

 厳密に言えば魔法ではない。あれはフィニアの体質のようなものだ。魔法からその根源をなす魔力を引き剥がし吸収する。それで魔法はなかったことになる。

「あれはフィニアにしか使えないものですわ。興味がありまして?」

「あそこまで完全に魔法を無効化できるというのは珍しい」

 ふつう魔法防御は魔法を砕くもので、その砕かれた力が回りに影響をおよぼす。奇麗に消してしまったフィニアの魔法は稀有といっていい。

「フィニア特有の力あってこその魔法ですから、広めるのは無理ですわね」

「なるほど」

 ウィンダリアの皇太子は納得してくれた。

実はかなり冷遇されているクロスリートでした。

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