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手繰る糸

お久しぶりです。

 魔法で転移したものなら空間に歪が残る。シーリスが丁寧に痕跡を追ったところ、それは街外れの廃屋へと繋がった。これを回りの人間に根気よく聞いて回るという地道な作業を続け、現在の持ち主を割り出した。

「コンラートという貴族が金をもらって名前だけを貸しているようです。実際には別人が握っているようですが、それが誰かまでは分かっていません」

 シーリスのあとにクロスが報告した。

「うちの高官が三名ほどシグラトに滞在している。そのうち二人がシグラトの人間と親しくしているようだが、一人は色恋沙汰のようだから除外していいと思う。残るのは大臣ウェアルトというものだが、とある大貴族と懇意にしているらしい。それが誰だかはまだ調査中だ」

 レオンハルトが苦りきった口調でいう。

「警備兵のなかに急に金回りのよくなったものがいたので監視させようとしていたら――川に浮かんだ」

 先手を打たれて始末されたという事だ。

「当日の警備からは外れていたようだが、その気になれば警備状況をあらかじめいくらでも調べられた位置にいたものだ。どこから金が出ていたのかは――でてこないだろうな」

 死人に口なし。

 出揃った情報にリチャードはにっこり笑う。

「ウィンダリア方面はその大臣で決まりだろうね。廃屋の持ち主はコンラート殿から手繰っていきたまえ。たぶん、大叔父か従兄弟殿ぐらいには行き当たるだろう。今度は口封じされないようにね。警備兵はもう無理かな。そっちは諦めよう。大臣には監視をつけるべきだとは思うのだけど――うちが動くと知られてしまうだろうねえ」

 少し考えてノールを振り返った。

「どう考えても手が足りない。ノール、君の伝であの家に動いてもらえないか?」

 そのときのノールの反応は意外なものだった。

「あの家に、でございますか?」

 顔をこわばらせて引き気味になる。

「頼むよ」

「……承知いたしました。手段は選んでいられません……」

 あの、忠実な家宰が、あきらかに気が進まないようすだった。

「どこに助力を頼むつもりか? 秘密を守れるものでなければ」

「彼女なら我が家との繋がりはないし、ノールの頼みなら喜んで聞いてくれるよ」

 にっこりと大公は微笑み――忠実な家宰は顔を赤らめ横を向いた。

 二人の皇太子と大公の婿とフィニアは目を見張った。まさか、『忠実なる狂犬』のそんなところが見られるとは思っても見なかったのである。

 ローズはにこにこしていた。

「しばらく休日あげるから会っておいで」

「……かしこまりました……」

「だから、どこだ?」

 レオンハルトは重ねてきいた。

「アルンハイト侯爵家ですよ」

 大公の返事にシグラトの皇太子は眉をひそめた。

「あの家と縁があるのか?」

「まあ――直接家とは関係ないけど、色々とね」

 シグラトの貴族についてあまり知らないフィニアとクロスにはぴんとこなかったが、レオンハルトには心当たりがあるようだった。

「どういう家だ?」

「侯爵の位にあるが――不名誉な噂の絶えない家だ」

 家宰は無言で給仕を続けた。

「不名誉?」

「醜聞だな。最初は三十年ぐらい前か――当時の領主が戦争のさなか行方不明になり三年間捕虜として捕らえられていた。手違いで解放されなかったのだが、それが分かって解放された。領地に帰り着いた彼を待っていたのは、生まれたばかりの赤子を抱いた妻だったそうだ」

「それって――」

 フィニアは青ざめた。三年間捉えられていた夫。生まれたばかりの赤ん坊。それは――

「当主が殺されたと思い込んだ前当主が、生ませた子供だったらしい」

 息子の妻に父親が子供を産ませたということだ。

「逆上した当主は妻を殺し自害した。前当主は再び領主として立ち、跡継ぎを産ませるため若い妻を次々と取り替えたらしい。子供は生まれず――最後には自分の孫のような歳の妻を迎えたが、数年で寝たきりになった。不思議なことにこの領主が死んだときには若い妻は妊娠していてな、この最後の妻が今の領主だ。男子を産んでいる。この子が前当主の子ではないという噂がたってな、彼女は『神聖なる誓い』の魔法で「この子はアルンハイト侯爵家の血を受け継いでいる」と誓い、無事だった。子供アルンハイトの血を受け継いでいると証明されたが――本当に領主の子だったのかは疑問が残る。そんな噂だ」

 『神聖なる誓い』で偽りを口にすればたちまち命を落とす。だからその男子がアルンハイトの血筋であることは確かなのだろうが、領主ではなく親族だったのかもしれないと陰口を叩くものがいるが、親族は全員自分はその子の父親ではないと潔白を訴えている。

「うう、どろどろ……」

「そういう家だ」

「……まあ、ない事じゃない……」

「そうなんですか?」

 クロスが零した呟きにフィニアが反応した。

「貴族は血筋の継承にこだわるからな。公になっていないだけで――もっと凄まじい話もある……」

「そうでございますね」

 ぽつりとノールがこぼした。

「噂はあるけど、信用できる人だよ」

 にこにこと大公が請け負った。

「あの方でしたら、信用できますわ」

 ローズもにこやかに言う。

「信用なさってますのね?」

「ええ、わたくし、あの方に人生で大事な事を教えていただきましたのよ」

 本当に欲しいものは諦めない。なりふりかまわず己の持つ全力でもって欲しいものを手に入れる。それはローズの生きる指針だった。

「わたくしの人生が実り多いものだとしたらあの方の教えのおかげですわ」

 そうしてローズは欲しいものを手に入れたのだ。

「まあ、そんなに」

「わたくしの人生の師といっても過言ではありませんのよ」

 ほほほほ、と上品に笑うローズにシーリスとノールは深い溜息をついたのだった。

色々と気づくこともあるかと思います。

しばらく別の物語書いていたんですみません。

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