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砕かれた自信と謙遜

 クロスリートとレオンハルトの仲は悪くはないようだった。いずれ両国を背負う皇太子の関係が良好なのはなによりだ。

 ロゼリア大公家にクロスリートが訪れる隠れ蓑にレオンハルトがなったのはそれもある。

「お国では立場が弱いのですか?」

 シーリスが聞くとクロスリートは顔をしかめてこたえた。

「後ろ盾の問題でしてね。神輿を失った兄達の取り巻きの中には擦り寄ってくるものもいますが、それでも叔父や従兄弟についた者達の方が強い。それでも継承順位は俺のほうが上で――さぞ目障りだろうな」

 クロスリートさえいなければ甘い汁が吸えるのだ。目の仇にして命を狙う。

「その方々はどのような?」

「なぜそんなことを?」

「なぜあなた様を排除しようという気になるか理解できません。ウィンダリアの武功のいくつかは確実にあなた様の功績ですし、いなくなればその損失は計り知れないのでは?」

「……そこまでは考えてないでしょう。中身などどうでもいい。自分達が利益を得られる相手であれば誰が王になっても同じだと。俺がいるのが分かっていて同母兄を始末したのも、すぐに排除できると判断してのこと」

 どこにでも腐った亡者がいるものだ。

「俺など、凡庸だからな」

 クロスリートがぼやくとレオンハルトが唸るように言った。

「……殴っていいか?」

「なんだ、いきなり!」

「お前が凡庸だと? 世の中の全ての武人に謝れ! 今すぐ!」

 なにか許せないものがあったようだ。

「世の中にお前の域に達することのできない武人がどれほどいることか! お前が自分を卑下すればそれらを侮辱したことになるのだぞ!」

 隣国ウィンダリアの皇太子は皇太子となる前は武人として名声を得ていた。

 レオンハルトは遊学に来たクロスリートに乞うて何度か模擬戦を挑んでいるのだという。

「少なくとも余は一度も勝ててない!」

 個人的感情だった。

「俺など、凡庸だ! 上には上がいるというが、どうあがいてもあれに勝てる気がせん!」

 かつてウィンダリアの若き将として活躍していたクロスリートに挫折を味あわせた相手がいるらしい。

「……あれか」

「あれだ」

 二人の皇太子はしばし見詰め合い、シーリスが顔を背けそっと目頭を押さえた。

 誰のことなのかフィニアは分からなかった。

 レオンハルトがクロスリートを慰めるように肩に手をおいた。

「……あれはもう、別格で。というか、世の中には比べてはいけないものがあるんだ! あれのことは考えるな! お前は弱くない!」

「くっ、確かに……あれはもうとても人間とは……」

 だから誰?

 分かっていないのはフィニアだけのようだった。

「お茶のおかわりはいかがでしょうか?」

 忠実な家宰が沸かしなおした湯と追加の茶菓子をのせたワゴンを引いて部屋に入ってきた。

 二人の皇太子は飛び上がった。

「どうかなさいましたか?」

 不思議そうにノールが問う。

「い、いや」

「なんでもない」

 なぜそこで目をそらす。

「いただきます」

「お願いするわ、ノール」

 にこやかにロゼリア大公家の人々は入れなおした紅茶を楽しむ。

「そういえば、姉のところから婚姻の申し込みがあったね」

「まあ、あの方わたくしにも求婚していませんでした?」

 反応したのはノールだった。

「あの方は出入り禁止にしたはずですが? まだ当家に入らぬ手出しをするつもりなのですか?」

「そういうものではないよ、ノール。彼もね、その気はないのにあそこの当主に勝手に申し込みをされて困っているんだよ。以前自分が承知しているものではないから、ラークス公爵家からの話は絶対に承知しないでくれと頼まれたことがあるんだ」

「従兄弟の方ですよね?」

 フィニアは家系を思い出した。

 王家の姫がラークス大公家に降嫁しているはずだ。あそこはまだ従兄弟の祖父に当たる人が現役で、男の従兄弟は一人。

「セドリス君だよ。この話は承諾しないが、従兄として顔を合わす機会があるかもしれないが、嫌わないでやってくれたまえ」

「旦那様、それでは示しがつきません。お嬢様にあのようなことをした者を――」

「あら、酬いは受けたし、あの方の本意ではなかったことでしょう? もう出入り禁止も解いてあげればいいのに」

 ナニカがあったらしい。

 この場合のお嬢様はローズのことなのだろうが――ノールがなにかをしたのだろうか。

 なぜかフィニアはノールがロゼリア大公家の人間に害を与えたもの、あるいは与えようとしたものに対して物凄く厳しい――ような気がする。

 なぜかそういう確信があった。

「ノールさんって強いの?」

 空気が凍った。

 フィニアの何気ない質問に二人の皇太子は凍りつき、大公は苦笑した。魔術師の長は遠い眼をし、その妻は朗らかに笑った。

「まあ、フィニアったら」

 家宰はにこやかに微笑みながら答えた。

「旦那様やお嬢様になにかあった場合お守りするために護身術くらいは嗜んでおります」

 ノールの言葉に二人の皇太子は激昂した。立ち上がって吠える。

「あれが護身術か! 護身術の域を超えているわ!」

「謝れ! この世の武人の全てに今すぐ謝れ!」

「は?」

 高貴なる二人の糾弾に、忠実なる家宰はわけが分からなかった。

護身術……ウィンダリア自慢の装甲騎兵をなぎ倒したのは護身術なのだろうか?否。んな護身術あってたまるかぁぁぁぁ!!という二人の心の声が聞こえる。


不憫……

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