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闇に踊る

「あの一件はなかったことにされそうです」

 穏やかに微笑む青年の瞳は笑っていなかった。

「ふん、傷ひとつ負わせられんとは情けない。苦労して手引きさせたというのに、成果もなしか」

 壮年の男は嘲るように言う。

「そうおっしゃいますが、そもそも今手を出す必要がありましたか? こちらの動きを警戒されては元も子もありません」

「セドリス、そのようなことを言うでない。少しでも相手の力を削いでおこうとしてくださったのではないか」

 ですからその目的は少しもかなっておりません、という言葉をセドリスと呼ばれた青年は飲み込んだ。

 祖父に促されセドリスは謝罪する。

「過ぎたことを言いました。けれど、これからは手出しを控えてください。思わぬところから計画が露見しないともかぎりません」

 そんなことも分からないのか、この老害どもが、と心の中でだけ罵りセドリスは紅茶を口にした。

 日当たりのよいサロンだというのに、なにが悲しくて年寄りどもと茶を飲まねばならんのか。さっさと若い者に後を任せて引退しやがれ、と思わないでもない。

 相手も若造に大きな顔をされたくないだろうことは承知の上だが。

 明るいサロンとは裏腹に腹の中は真っ黒だった。

「あれは進んでおるのか?」

「はい。魔術師が順調に魔力を込めております。数日のちには発動可能とのことです」

 報告しながらもセドリスは胸が悪くなるのを感じた。

「まだかかりますか」

「仕方ありませんな、あれは大掛かりなものです」

「しかし、よろしいのですか? シグラトの民にも被害が出ましょう」

「仕方ありませんな。尊い犠牲です」

 ウィンダリアの高官とシグラトの大貴族は笑いあった。

 自国の皇太子を謀殺することに躊躇いを覚えない臣と、それに組し、自国の民に害が及ぶことを容認する貴族――腐っている。

 どちらも人の上に立つ人間ではないな、とセドリスは心の中で吐き捨てた。

 セドリスの知らぬ間に警備の一部を懐柔して賊を舞踏会に忍び込ませたと聞いたときは肝を冷やしたものだ。

 転移魔法はあらかじめ陣を置いておいたところにしか跳べない。痕跡を調べられればどこに跳んだいずれ分かる。

 その日の護衛から外れたものに警備の計画表を盗ませるとは大胆なことをしたものだ。そこから手繰られるとまずいことになる。

 まだ発覚してないようだが、そうそう幸運ばかりには頼れない。

 早く済ましてしまうべきだろうとセドリスは庭に目を移した。

「しかし、人が来たときを見計らうように言いつけておったのですが、それでもなかったことにされますのか?」

「……普通のご令嬢なら騒いだでしょうな。相手が悪かったようです」

「それは?」

「ローズ姫の妹君ですよ。騒ぐどころか魔法を無効化して騒ぎの隠蔽に一役買ったようです」

 祖父が顔をしかめた。

「本物の『王となるものの伴侶』か。我々の邪魔をするとはな」

「その姫のことですが――お爺様勝手に婚姻を申し込まれたでしょう?」

「当然だ。まとまればお前が次の王だ」

 どうしてそういう結論になるのかセドリスには理解不能だった。

「困ります。もうやらないでくださいね」

「不満か? なかなか可憐な容姿だったが」

「……ローズ姫とそっくりじゃないですか。ローズ姫にも縁談を申し込んでおられましたよね。そうそう節操のないまねはしないでいただきたいのです」

 ローズ姫の妹――フィニアという名前だったか――姉と同じ顔をしているという時点でセドリスには敬遠する相手になった。

(あれと同じって勘弁して欲しいんだよな。性格もまんまだったら裸足でも逃げるぞ、僕は)

 前に祖父はローズ姫が『王となるものの伴侶』だと思い込んでいたときに、様々な裏工作でセドリスとくっつけようとした。

 もちろんローズ姫は当時からシーリス一筋でありとあらゆる妨害を排除してきた。心ならずも排除されるものの中に組み込まれたセドリスは――あの家の姫は勘弁、『忠実なる狂犬』とも関わりたくない――というトラウマを抱え込まされることとなった。

 なにをされたのかは――恥になるので墓まで持っていくつもりだ。

「魔法を無効とは?」

 ウィンダリアの高官が不思議そうに言う。

「言葉の通りです。なにをやったのかはわかりませんが、弾かれた魔法を綺麗になかったものにした。おかげで芝生ひとつ傷つけもしなかったそうです」

 ロゼリア大公家の歴史は浅いが、王弟であるリチャード叔父も魔法の資質はあった。あのローズ姫の妹なのだから魔術師の資質があって当たり前だろう。

「魔術師の才があるとは、さすがシグラトの姫君ですな。我が国には魔法の資質を持つものは少なく王族にはいません」

「我が国の初代国王が魔術師だったのですよ。おかげで王族は資質だけなら誰でもあります」

 資質だけならね、とセドリスは心の中で思った。

 セドリスにも資質はあるらしいのだが発現はしなかった。祖父もそうだったらしい。魔力はあっても使えない。器は大きいらしいのでそれを使うことができればかなり強力な魔術師になれただろう。

(余計な面倒起こすなよ、尻拭いさせられる身にもなれや。とっととくたばれ老害ども)

 にこやかに微笑みながらセドリスは紅茶をすすった。

黒幕一同様です。


腹黒な新キャラ登場。

セドリスっっなにをされたんだ!!

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