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特異点

「特性ですか?」

「そう。君はどうやら器が並外れて大きいらしい」

 姉の婿であるシーリスはそう断言した。

「うつわ?」

「魔術師や魔法を使える人間というのは魔力を作り出し、自らのうちに溜めて魔法として放出しているんだが、君はこのうち溜められる魔力量というのが桁外れなんだよ」

「そうなんですか」

 なんでもフィニアが怪我をしたときローズとシーリスの二人が治癒魔法を使ったらしいのだが、あまり効果がなかった。シグラトにおいておそらく魔法に関してはトップクラスの二人の魔法が、だ。

 そこでシーリスがなぜそうなったかを調査したらしい。

「そう。君は魔力を術から分離させて吸収してしまったんだな。無意識だろうが」

「え~と、それってわたしが魔法の恩恵に与れないということですか?」

「いや。そうとも限らない。分離吸収するのをやめればいいんだ」

 訓練次第で可能だとシーリスは断言した。

「今は舞踏会に向けてマナーやダンスの訓練が忙しいだろうから、その後訓練を始めよう」

「はい。よろしくお願いします」

 庶民だったフィニアには魔法は縁遠いものだったがこれからはそうはいかないらしい。

「君は丁度ローズの逆だね」

「お姉さまの?」

「ローズは魔力を作り出す力が器に比べて大きすぎるんだ。だから、魔力を消費していないと暴発させる可能性がある。君は器に比べて魔力を作り出す力が並か、それより少し強いぐらいなんだ。だからだから器の容量が空きすぎて魔力を求めてしまう。ローズの魔力の生産量と君の器でつりあうぐらいだね」

「暴発って……」

 聞き流すにはあまりに危険な単語が含まれていた。

「大丈夫、今ではコントロールできるから。ローズの魔力は器に収まりきらなくて、小さい頃からそれを消費するため魔術師に師事していたんだよ」

「……」

 あれで色々苦労していたらしい。

 ラゼリア大公家のローズ姫といえば、美しく賢く魔術師でもある大輪の花。身分の高さ、救国のエピソードもあいまって憧れの姫君である。

 しかし、影での本人の努力あってのことだろう。

「苦労したんですね、お姉さま」

「そうだね。それでも物覚えがよくて魔法の習得は早かったね」

「詳しいですね」

「わたしが師匠だったからね」

「そうだったんですか」

「そう。初めての弟子でもあったなぁ」

 ローズとシーリスは師弟だったらしい。

「あれ?」

 何かが引っかかった。

「義兄さまとお姉さまって、いつからお付き合いしていたんですか?」

「……いつからだろうね? 気がついたら押しきら…………女性として意識していた」

 今なんか言った!

 不自然に間があった!

 言い直した!

 遠い目をした!

 ナニがあった?

「……最初は本当に子供だったからねえ……まさか十二も年下のお嬢さんと結婚することになるとは思っていなかったよ」

「十二? 義兄さまっていくつ!」

「三十だけど?」

「若く見えますわね。てっきり二十代半ばかと」

 五つは若く見える人である。

「ノール君ほどじゃないよ」

「えっっ!」

「彼はわたしよりひとつ上だよ」

 ノールは二十代前半に見える。


「まあっ、わたし達の馴れ初めを聞きたいの?」

 頬を染めてうつむく様は初々しいといえた。

 ドレスの仮縫いをするというのでおとなしく付き合っていた。フィニアのドレスは白でふんわりとした柔らかい印象のデザインだ。

 姉のドレスは既婚者らしい落ち着いたシャープなラインのもので、色も深い紫。

 着る者でかなり印象が変わる。

 手持ち無沙汰な時間にフィニアはローズに馴れ初めを聞いてみたのだった。

 せっせと手を動かしているお針子さんも興味津々だった。

「最初はわたしが一方的に夢中だったわ。一目惚れだったのよ。初めて出あったときにわたしがまいってしまったのね。あの人は本当に素敵だったもの」

 そのときいくつですか? お姉さま。

「わたしはまだ子供だったから、全然振り向いてもらえなくって――あの人に相応しいレディになろうって努力したのよ。ええ、どうしても振り向いて欲しくて」

 言っていることは真っ当です。恋する乙女です、お姉さま。

「魔法も勉強したし、ダンスも歌も刺繍も淑女の嗜みはなんでもがんばったわ。何度も想いを伝えて――やっと女性としてみてもらえたときはどんなに嬉しかったことか」

 いい話です。素敵な恋愛です。

 でも、どうしてでしょう? 言葉以上のナニカがあったに違いないと思ってしまうのはわたしの先入観のせいでしょうか?

「わたしはどうしてもあの人がよかったの。あの人以外は目に入らなかったわ。だから、どうしてもあの人と結婚したかったのよ」

 きゃあ、とお針子さんから小さな歓声がもれる。ぽうっと恥らうような表情のお針子さんもいた。

「それで戦争を止めたんですか、お姉さま」

 ローズが満面の笑みで言った。

「愛の力よ」

 その当時、ローズは十五、シーリスは二十七のはずだ。ゆえに結婚を前提として付き合っていたときは――義兄さま、偉大だわ。

 幼女趣味(ロリコン)のそしりは避けられなかったはずである。それをおして結婚までたどり着いたのだから。

 義兄への尊敬を深めたフィニアであった。

「フィニアもそういうことはわたしを頼って頂戴。なんでも相談にのるし協力するわ」

「頼もしいですわ、お姉さま」

コイバナです。こいばななんですが……わたしはいったいなにを間違えたのでしょう?


ローズお姉さまの恋愛相談はきっと「押して押して押しまくれ。自分磨きも忘れずに」といったところでしょうか?


十二も年下の女の子に追い掛け回されたんでしょうね、シーリス。お姉さまの粘り勝ちです。

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