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ついてないお嬢さん

見切り発車です。

 フィニアは自分をつくづくツイてない人間だと思う。まずは生まれだが、生まれてすぐに実の両親に捨てられたらしい。

 捨てられたといっても豊かな商人に里子に出されたのだから行く末は心配してもらっていたのだろう。

 もっとも物心つく前から「お前はお情けで拾われたのだから恩返しをしなければならない。分かったか捨て子」と義父に言われ続けて育ったのだから、実の両親は人を見る目がなかった。

 義父母は一言で言えば業突張り。フィニアが八歳のころ弟──実の子が産まれた後は養女であるフィニアは下働きであるかのように扱われた。

 義弟は小さい頃、フィニアを家で働く侍女か何かだと思っていた節がある。その弟が七歳のとき隣国と戦争になったことがある。しかし、ラゼリア大公家のローズ姫が瞬く間に両国の王を諌め戦争を終わらせた。彼の姫は救国の姫と謳われたものだ。けれど、これが引き金となりフィニアの養家は没落した。

 戦争を見込んで投資し、見事に失敗したわけだ。

 家屋敷店舗、ほとんどすべてを売り払い、田舎に引っ込むはめになった。

 わずかな手持ちを元に小さな雑貨屋を始められたのは幸いだったが、引っ越してすぐ養母が病死した。破産が心身ともに弱らせていたのだろう。そのおかげでフィニアは家から追い出されずにすんだのだろうが。

 戦争から三年、フィニアは十八になっていた。うずを巻く蜜色の髪と大きな翡翠の瞳。評判の美少女となったフィニアには新たな不幸が迫っていたのだ。

「結婚しろ」

「嫌です。あそこに嫁ぐぐらいなら、神殿に入ります」

 養父の言葉を一刀両断。無視して店の品物を整える。

「グラトニーのどこが不服だ?」

 ぴきっ。フィニアの額に青筋が浮いた。

「なにが悲しくて、六十間近の老人の後妻にならなきゃいけないの! 十八のわたしが!」

「金持ちだぞ!」

「ええ、お金持ちで、愛人がいて、跡継ぎとわたしと同じぐらいの孫もいる人よね! ごめんだわ!」

「父さん、いくらなんでもフィニアが可哀相だよ。それに、フィニアがいなくなったら誰が家のことするんだよ」

 義弟のグランがかばっているのか、自分達の都合しか考えてないのか、わからない発言をする。

「大丈夫だ。グラトニーはフィニアの代わりに大金を──」

「わたしを売るつもり!」

 義父はフィニアを売り払うつもりなのだ。グラトニーの愛人もそろそろとうの立つ年頃だ。代わりが欲しくなったのだろう。外面を取り繕うための後妻とは名ばかりの性奴隷。娘一人に金をかけすぎだ、と跡取りに文句を言われたグラトニーが「共有」しようと持ちかけ、息子も了承したという。

 こっそりそれを聞いていた顔見知りの下働きのおばさんが真っ青な顔で教えてくれた。雇い主の情報は口外しないのがマナーだが、あまりにも酷いと憤っていた。元は気のいいおばさんなのだ。

 情報が広まればそのおばさんに迷惑をかけるのであえて口にしないが――老人の後妻、義息子『共有』つき――など、断じて拒否!

「売るなんて人聞きの悪い……」

「お金目当てでしょ! いくらでわたしを売るつもりなの! 何度も言うけど、あそこに嫁ぐぐらいなら神殿に入るわ! それか家を出させてもらいます!」

「この恩知らず! 今まで誰のおかげで生きてこられたと思ってる!」

 フィニアと義父が言い争いをしている間に、店の前には人だかりができていた。それをかきわけるようにして店になだれ込んできた一団があった。

「え?」

 それは兵士の格好をしていた。

「な、なんですか? わしは悪いことをした覚えは……」

 何かやましいことがあるのか義父があたふたしている。

 なにをした?

「蜂蜜色の髪に翡翠のような瞳……アッテンハイムの養女に間違いないな?」

 アッテンハイムは義父の名だ。

「は、はい。そうですけど……」

「来てもらうぞ。お前はお尋ね者になっている」

「そんな馬鹿な! わたしはなにもしていません!」

「なにもしていなくて、王宮から急の手配が回るものか! なにをしてもかまわんから、大至急捕らえて王都につれて来いとの沙汰だ!」

 あまりのことにフィニアは頭の中が真っ白になった。

「わ、わしはなにも知りませんぞ! この娘が勝手にやったことで! 血も繋がっとらん小娘ですぞ! わしに責任はない!」

 それが義父のいうことかっっ!

 義父のあまりといえばあまりの言葉にフィニアは頭に血が上った。

「なにかの間違いです! わたしは今までやましいことなんかしてません!」

「言い訳は王都でしろ」

 フィニアは縄で縛られ引っ張られた。

「待ってください! なにかの間違いです! フィニアちゃんはそんな子じゃない!」

「そうだ! フィニアちゃんはいい子だ!」

「親父さんの方の間違いじゃないんですか?」

 店先に来ていた近所の小父さんや小母さんが口々にフィニアを弁護しようとしていた。

「おじさん、おばさん」

 フィニアは泣きそうになった。

 ああ、世の中にはこんなにいい人がたくさんいるのに、よりによってなんでこんな男に預けたんだ、と見知らぬ両親を問い詰めたくなる。

「どけ、どけ! どかんと貴様らも牢に放り込むぞ!」

「道をあけろ! 邪魔をすればただではおかんぞ!」

 兵士達は長い棒で民衆を追い払った。

「やめて! おじさん達に酷いことしないで!」

「うるさい! この罪人が!」

 フィニアの頬を兵士が殴った。倒れそうになるところを縄を引っ張られて引き立てられる。

(わたし、これからどうなるの!)

 フィニアは泣きながら連れて行かれた。

フィニア不幸。しかし、これからが……がんばります。

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