男女比1:100の世界に転生したのに、レジスタンス拠点で始まって詰んだ。
真っ白な空間で、まばゆい光を放つ女神が、慈愛に満ちた笑みを浮かべて俺に告げる。
『おめでとうございます。前世で社畜として働き不幸にも事故で亡くなられた貴方に、新たな人生を用意しました』
「あ、新たな人生……?」
『ええ。次の世界は、あなたのいた世界と文明レベルは殆ど変わりません。ただ男女比が1対100という世の男性にとって夢のような場所です。男性は極端に希少で、ただ存在するだけで国宝。貴方は一生、数多の美女たちに囲まれ、愛でられ、何不自由なく暮らすことになるでしょう』
俺は歓喜に震えた。
ついに、ついに俺の時代が来た。
生まれついての不幸体質だった俺にとうとう運が巡ってきた。
男女比1対100。その数字が脳内でピンク色となって踊り狂う。
一度もモテたことも、ましてや彼女など出来たことのない前世に未練などない。
俺は女神の手を握りしめ、食い気味に叫んだ。
「行きます! 今すぐその世界に連れて行ってください!」
『ふふ、良い返事です。それでは、健やかなる第二の人生を……』
まばゆい光に包まれ、視界がゆっくりとホワイトアウトする。
さようなら、前世の俺。
こんにちは、新たな人生。
新世界で、ハーレム王に、俺はなる!
・ ・ ・
次に目を開けた瞬間。
鼻を突いたのは、花の香りでも、美女の香水の匂いでもなかった。
「……あう?」
(なんだ、この、むせ返るような汗の臭いは)
視界に飛び込んできたのは、レースのカーテンでも天蓋付きのベッドでもない。
湿ったコンクリートの壁と、裸電球。
そして、俺をとり囲む――サイドチェストのポーズを決めた、全身筋肉だるまの巨漢たちだった。
「おお……立ったぞ! 坊主が立った! これぞ男の自立だッ!!」
地響きのような咆哮。
思わず倒れこみそうになる俺を抱き上げたのは、前世のプロレスラーより二回りデカい、強面のおっさんだった。
「いいか、坊主。外の世界は地獄だ。女どもは法という名の鎖で、俺たち男から自由を奪った。奴らは男を『観賞用のペット』か『高性能な種馬』だと思っている。そんな屈辱に耐えられるか!?」
丸太のような太い首をもつ男が、恐らくまだ1歳前後であろう俺に熱弁を振るう。
(……耐えられる。むしろペットとして一生甘やかされたい。お姉様方に種馬として可愛がられたい……!)
しかし、俺の心の叫びは、まだ発達していない声帯では「あうー」という無力な音にしかならなかった。
「そうだ! その怒りに満ちた声こそが男の誇りだ! さあ、今日の離乳食はササミとブロッコリーのペーストだ! 食ってデカくなれ!!」
口元に押し付けられる、ペースト状の飲むプロテインをいやいやしながら、ふと冷静になる。
待て、なんだこの状況は。
なぜ男しかいない。
母親は?
母はどこだ! ママをだせ!
「うぅ、こんなに立派になって。あの時、危険を冒してでも『男性保護施設』から救い出した甲斐がありましたね、ボス」
「ああ、俺はこいつの養父として、必ずや一人前の漢として育て上げるッ!」
ボスと呼ばれた俺を抱き上げた男がそう宣誓し、ゴツい男たちが感極まったかのようにうんうんと頷きあっている。
……いや、それ誘拐じゃねーか!?
返して!? 俺、おうち帰る!
ここは現代日本と殆ど違わぬ文明を持ちながら、男女比の狂いによって男性を国家の共有資産として管理し、至れり尽くせりの環境で保護動物かのように扱う女尊男卑社会。
その支配に反旗を翻し、北関東の地下深くに潜伏する反女対抗組織拠点『独立男児の志』――それが、俺の新しい実家だった。
・ ・ ・
それから十五年。
俺の日常は、親父たちの歪んだ信念を筋力で体現させられる地獄と化していた。
同年代の女子たちが最新のスマホでSNSを楽しみ、スイーツを囲んでいるであろう頃、俺は地下壕でドラム缶を抱えてスクワットをしていた。
もちろん何度か脱走も企てたが、さすがは世界を相手にする反抗組織。
狩人たちの侵入を許さないその凄まじいセキュリティは、内側からも出ることが叶わない鉄壁の檻と化していた。
(……女神。話が違うぞ、女神。これじゃ男女比100対0じゃねーか!)
この世界では、これまで母親はおろか生身の女性すら見たことがない。
他の男連中から聞いた話と紙面や映像でしか確認できないそれは、もはや伝説上の生き物である。
にもかかわらず、繰り返される対女用避難訓練と称してのトレーニング漬けの日々。
「いいか、我々は常に狙われている! 女に捕まったら最後。『男性保護施設』で社会的に去勢されたも同然の徹底したおもてなしを叩き込まれ、一生自由を奪われるぞ!」
教官たちの指導は徹底していた。
「よーく聞け!奴らに見つかった時の対処法だ!」
其の一、目を合わせるな。『運命の相手』と勘違いされ、拉致される。
其の二、物理(筋力)で距離を取れ。
其の三、とにかく視界に入るな。全速力で死角へ飛び込め。
「頭に叩き込んで、鍛錬に励め!」
「「押忍!」」
(……こういう世界の男って、ひ弱で引っ込み思案と相場は決まってるはずだろ……)
指導が終われば、食事の時間だ。
守りたくなる存在の要素がなにひとつない暑苦しい筋肉の塊たちと食卓を囲む。
目の前に出されているメニューは、地下壕の隅で密かに飼育されている軍鶏のササミと薄暗いLED光で育てられたゴボウだ。
「……なぁ、親父。外の世界って、そんなに怖いのか?」
たまらず聞くと、親父は遠い目で、かつて渋谷のスクランブル交差点で逆ナンに遭いかけた時のトラウマを語り始めた。
「ああ。奴らは恐ろしいぞ。捕まったら最後、清潔な個室に閉じ込められ、毎日高級エステを受けさせられ、栄養管理された和牛を与えられ、一日中……一日中、『なんて素敵なの、私の旦那様になって』と拝み倒される。 まさに地獄だッ!!」
(……圧倒的に天国だ。女性のみなさん、今すぐ俺を保護してください……)
1対100。
男が極端に少ないからこそ、男性には一切の労働や責任が課されないパラレル現代日本。
その全てをドブに捨てて、俺は今日も薄暗い地下壕で『男の尊厳を維持するための腕立て伏せ』をこなしている。
地獄の特訓の結果、俺の身体は現代社会には不必要なほどにバキバキに仕上がってしまった。
もし外に出れば、この野性味あふれる希少な男は、飢えた女性たちの格好の獲物だろう。
だというのに……。
外に出られない(号泣)。
「「「漢を磨けぇぇぇ!!」」」
地下壕に響き渡る野郎どもの咆哮を聞きながら、俺は涙を拭った。
叶わないのか、俺が思い描いていた、女の子にチヤホヤされる現代ハーレムライフ。
「……親父。俺、やっぱり『保護』されてぇよ……。お姉さんに『かわいいわねぇ』って、甘やかされてぇんだよぉぉ……!」
「なんだと? 弱音を吐くな! その『保護』こそが男の尊厳の死だと教えただろうが! 気合を入れろ、あと腕立て百回追加だ!」
俺の戦いは、終わらない。
いつかこの筋肉で、レジスタンスの鉄鎖をブチ破り、『男性保護施設』に自首するその日まで。
男性なら一度は憧れますよね。
シックスパック。ムキムキの肉体。 ん~、力こぶ!
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※この作品はaiちゃんとの共同執筆となります。




