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この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

隣の席の君が距離近すぎる

作者: Uki
掲載日:2026/03/23

 席替えの日は嫌いだ。黒板に貼られた座席表を見た瞬間、ため息が出た。——隣じゃない。それだけで、教室が少し遠くなった気がする。


「やった、後ろだ」


 君は嬉しそうに笑っている。僕の席は窓側の一番前、君は教室の真ん中。たった数メートルなのに、こんなに遠い。


「じゃあな」


 軽く手を振られる。


「……うん」


 それだけで、距離が決まる。


 授業が始まる。前の席は静かで、集中しやすいはずなのに、なんだか落ち着かない。後ろの方から笑い声が聞こえる。たぶん、君。振り向かない。見たら余計に遠く感じるから。


 昼休み、弁当を開いていると、椅子が引かれる音がした。


「やっと来れた」


 顔を上げると、君が当たり前みたいに僕の前に座っていた。


「……なにしてるの」


「昼飯」


「自分の席で食べればいいのに」


「遠い」


 それだけ言って、僕の弁当を覗き込む。


「うまそう」


「普通だよ」


「一口ちょうだい」


 断る前に、もう箸が伸びている。


「やっぱここがいい」


 そう言って満足そうに笑う。その一言で、胸が少し軽くなる。でも。


「……自分の席、楽しいんじゃないの」


「別に」


「落ち着かない」


 さらっと、そういうことを言う。


 午後の授業、ノートを取っていると背中を軽くつつかれた。振り向くと君。


「消しゴム」


「さっき貸したでしょ」


「どっか行った」


 ため息をついて渡す。指が少しだけ触れる。それだけで、心臓がうるさい。


「ありがと」


 笑う。そのまま、なぜか少しだけ残る。


「……なに」


「なんか遠くない?」


 たった一列後ろなのに。


「席替えしたから」


「やだこれ」


 子どもみたいに言う。先生に注意されて、しぶしぶ戻っていく。


 放課後、帰ろうとすると背中から声がした。


「一緒帰るよな」


 振り向くと、君が立っている。当たり前みたいに。


「……いいの?」


「なにが」


「友達と帰ればいいじゃん」


「いい」


 即答。僕の隣に並ぶ。距離は元に戻る。


 歩きながら、君が言う。


「やっぱ隣がいい」


 胸が跳ねる。


「席の話?」


「それもある」


 それも?聞き返そうとしてやめる。怖いから。


「なんかさ」


 君は前を見たまま言う。


「お前、遠いと調子狂う」


 そんなこと、言われたら。


「……すぐ慣れるよ」


「慣れたくない」


 即答。少しだけ、こっちを見る。


「明日も昼行くから」


「勝手にどうぞ」


「あとノート見せて」


「それ目的でしょ」


「半分な」


 笑う。その距離が、いつも通りで、少しだけ安心する。


 バス停に着く。


「じゃ、また明日」


「うん」


 別れて、少し歩いてから思う。隣の席じゃなくても、距離が離れても、こうして戻ってくるなら。それって、少しだけ期待してもいいのかな。教室でも、帰り道でも、君はいつも距離が近すぎる。——たぶん、席のせいじゃない。

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