護衛対象の王太子殿下のキラキラがうざい
俺の護衛がこんなにかわいいのが悪い!の続編です。
めでたしめでたし、じゃない
「俺の人生はどうなるんですか!?」
「何が不服なんだ?顔よし器量よし金も身分も人望も申し分ない。王国中の女性の憧れなんだぞ?俺は。なにせ王太子だからな。」
「...」
「ぐっ!その蔑んだ視線すら可愛い!不敬だが許そう」
「……」
リューカ・ヴァルト、17歳(男装)、職業:王太子専属護衛。
レオンハルト殿下の命で「婚約者」となった今もなお、なんとかして“元の職務”に戻ろうと奔走している。
「殿下。護衛の任は全うさせてください。婚約の件は……その、秘密にしていただければ」
「もちろんだ。婚約者が周囲にバレたら、君の安全が脅かされるだろう?つまり、これは極秘任務だ。俺と君の婚約関係を死守するんだ、リューカ」
「違う意味で任務が増えましたよね!?…婚姻は将来の話として、まずは一年間、猶予をください」
「見て、触れて、愛して、ということだな」
「“見る”だけでお願いします」
一年の猶予を作り、殿下の熱が冷めることに賭けることにしたリューカ。
もちろん逆にレオンの猛攻がエスカレートするフラグでしかなかったのだが、この時のリューカはそこまで考えることができなかった。
次の日の朝
「殿下、リューカです。入ってもよろしいでしょうか。」
「おはよう、リューカ。朝から君を迎えることができて嬉しいよ。清々しいね。」
朝から詩人みたいなセリフをかます王太子。
風に揺れる金髪、整った顔に爽やかな笑顔。早朝だというのに身支度が完璧に済んでいるだけでなく、朝陽まで味方にしている。
「朝から無駄に爽やかですね。」
「惚れ直したか?」
「(うるさい。キラキラがうるさい。)いえ。」
そのまま殿下は軽やかに朝の視察へ。
近衛隊やメイドたちが慣れた様子で頭を下げる。
「今日も殿下はご立派で……」「立ち姿だけで画になるのよね……」
「だ、そうだが?リューカ。君は俺の顔についてどう思う?」
眩しい笑顔を向けて話す殿下は眩しすぎる。目がつぶれそうなくらい。
「…眩しくて目がつぶれそうですね。サングラスが欲しいくらい。」
「ふむ。リューカのほしいものは全て送ってあげたいのは山々なんだが…俺と君の間にサングラスなんて余計なものはいらないだろう。」
発言の様子がおかしいが、ほんとに無駄に顔が良い…。
そんな殿下は午前の王族貴族会議では堂々と政策を切り込む。
誰も反論できない鋭く的確なのにやわらかい言葉選び。
その場の空気を制しながら、反感は生まれない。
頭の良さ、交渉スキルももちろん非の打ちどころはない。
「さすがレオンハルト殿下ですな。新規政策の対策まで完璧に組み込まれている。」
二回りも年上の宰相でさえもうならせるほどである。
本当に有能な人である。
なぜこちらにウィンクするのかはわからないが…。
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昼下がりの訓練場。陽射しは強く、空気は熱を帯びている。
そんな中、王太子殿下と護衛騎士の模擬戦が始まった。
「手合わせ願おう、リューカ。護衛とはいえ、君の腕を見ておきたくてね」
「……お手柔らかに願いたいものですね、殿下」
二人が向かい合い、木剣を構える。周囲にいた近衛兵たちがざわついた。
王太子の剣技は知れ渡っているが、それと互角に渡り合おうという護衛も珍しい。
リューカは鋭い一閃で先手を取る。殿下がそれを軽やかに受け流す。
だが、リューカの連撃は止まらない。
「ほう……見事な間合いだ。ここまで美しい動きをするとは」
「戦闘中に解説しないでください!集中を!」
リューカは汗を払いながら、足さばきを変え、殿下の側面を突く。
それを寸前で受け止めたレオンハルトは、珍しく口をつぐんだ。
一瞬、その紫紺の瞳が細められ、真剣な色を宿す。
——だが、それも長くはもたない。
「……どうにも困ったな。君の剣があまりにも綺麗で、見惚れてしまった」
「…………は?」
「いや、本当に素晴らしい。しなやかで、鋭くて、隙がない。俺の護衛がこんなに可愛いのが悪い」
「戦場でそんなこと言う奴がどこにいるんですか!!」
怒鳴るリューカに、殿下は笑みを浮かべたまま木剣を軽く下げる。
その瞬間——
「甘い!」
リューカの剣が鮮やかに切り込み、殿下の肩にピタリと止まった。
「勝負あり、ですね。……殿下?」
「……うむ。完敗だ」
レオンハルトは苦笑いしつつ、肩に当てられた木剣に目を落とす。
「まったく。君に見惚れなければ、もう少し粘れたものを」
「真剣にやってください!」
「いや、真剣だとも。君の魅力に翻弄されるという点では」
「そういうのはいらないです!!!!」
リューカの叫びが訓練場に響いた。
だが殿下は反省の色など微塵も見せず、ただうっとりとした視線でリューカの剣を見つめていた。
(……うざい。私が勝ったはずなのに殿下の方がキラキラしててうざい……)
勝ったというのに胸の奥がざわつく。
それは剣では斬れないものだった。
剣の稽古が終わり、リューカは汗もそのままに訓練場の片隅に腰を下ろしていた。
一人になってようやく、ふぅと息を吐く。
(……なんなんだあの人は……)
真剣勝負を申し込んできたかと思えば、戦いながら口説いてくるとか、常識がないにも程がある。
全力で打ち込んだはずなのに、相手はケロリとした顔で、敗北の悔しさすらどこへやら。
むしろ負けたことを嬉しそうにしているのだからタチが悪い。
「おや、こちらにいたのか」
レオンハルトが、涼しい顔で紅茶と菓子を乗せた銀盆を片手に現れた。
軽装のまま、剣の稽古の汗をひとつも気にするそぶりもなく。
「稽古のあとの甘味は格別だ。君も食べるだろう?」
「……いりません」
「遠慮するな。君が勝者だ。勝者のご褒美だよ。ああ、そうか。俺の隣に座るのは罰だと思っているのかな?」
「…近いです」
「なら仕方がない。もう少し近づこう」
「!? ちょっ……本当にやめてください!!汗かいてますから!」
リューカが後退ろうとすると、殿下が不意に腕を伸ばしてその手を取った。
しかし、その手には菓子が乗っている。リューカの口元にすっと差し出された。
「リューカから出たと思えば汗すら愛おしいものだ。ほら。あーん、だ」
「……ふざけてます?」
「ふざけてなどいないさ。俺はいたって真剣だ。君に惹かれているという点において、これ以上ないほどに」
「……」
殿下の瞳はまっすぐにリューカを見ていた。
いつも通りのうざい甘さと、けれどその裏に隠しきれない本気が垣間見える。
(ああもう……真剣な顔をするな……うざい……)
胸が熱くなるのを誤魔化すように、リューカは渋々菓子を受け取った。
その瞬間、レオンハルトが満足そうに微笑む。
「君のそういうところも、やっぱり……」
「うざいって言ってるでしょうが!!!///」
(完璧でキラキラな殿下がうざいけど、本気で口説きに来てるのも、それに揺らぐ自分の心も本当にうざい!!!)
リューカ、既に落ちてない?