【漫才】キョンシー女子大生が説く大学生の飲み会事情
ボケ担当…台湾人女性のキョンシー。日本の大学に留学生としてやってきた。本名は王美竜。
ツッコミ担当…日本人の女子大生。本名は蒲生希望。キョンシーとはゼミ友。
ボケ「どうも!人間の女子大生とキョンシーのコンビでやらせて頂いてます!」
ツッコミ「私が人間で、この娘がキョンシー。だけど至って人畜無害なキョンシーですから、どうか怖がらないであげて下さいね。」
ボケ「どうも!留学生として台湾から来日致しました。日本と台湾、人間とキョンシー。そんな垣根は飛び越えていきたいと思います。こんな風にね。」
ツッコミ「いやいや、両手突き出して飛び跳ねなくて良いから!」
ボケ「さて、蒲生さん!いよいよ忘年会や新年会のシーズンが到来したね。今の時期は学生街のアチコチで、みんな生中を掲げて乾杯してるんじゃないかな。」
ツッコミ「乾杯で思い出したけど、貴女ったら勝手に乾杯して飲んじゃったじゃない。あれじゃ幹事の立場がないよ。」
ボケ「ゴメンね、蒲生さん。気を付けていたんだけど、つい地元でやっていた干杯のノリが出ちゃったんだ。」
ツッコミ「干杯のノリ?」
ボケ「何しろ台湾の干杯は文字通り、グラスを合わせた二人が揃って飲み干す流儀だからね。言うなれば『相互一気飲み協定』って感じかな」
ツッコミ「ああ、道理で…何しろ生中をフライングで一気飲みするだけに飽き足らず、呆気に取られている私に『どうして飲まないの?』ってせっついて来たからね。あまりの恥ずかしさに、顔から火が出そうだったわ。」
ボケ「それなら大丈夫。蒲生さんが顔から火を吹くなら、私は口から冷凍ガスを吐いて上手く相殺するから。」
ツッコミ「人を怪獣か何かみたいに言わないでよ!」
ボケ「この事を元町の御隠居様に話したら、懇々と諭されたんだ。『郷に入れば郷に従えじゃよ。』ってね。」
ツッコミ「至極真っ当な説諭じゃない。私も御隠居キョンシーには同感だよ。」
ボケ「そこで私は考えたの。いっそ私が乾杯の音頭を取れば、フライングしないんじゃないかってね!」
ツッコミ「それはまた随分と根本的な解決だね…幹事もやった事がないのに、乾杯の音頭なんて取れるの?」
ボケ「任せなさい!それでは皆様、ビアジョッキをお取り下さい。」
ツッコミ「いやいや、何も二杯もジョッキを持たなくて良くない?」
ボケ「せっかく普段から両手を前に突き出すポーズをしているんだし、有効活用しないとね。」
ツッコミ「有効活用になるのかな…それじゃ、乾杯の挨拶を行ってみようか?」
ボケ「我等、天に誓う!我等、同年同月同日に生まれる事を得ずとも、同年同月同日に死せん事を願わん。」
ツッコミ「いやいや、確かに乾杯の挨拶だけど!それじゃ『三国志演義』になっちゃうじゃない!飲み会の後に黄巾賊の征伐なんて、私は御免だよ!」
ボケ「頭巾じゃないけど、私の額には黄色い霊符が付いているよ。」
ツッコミ「それは道教の霊符じゃないの。無闇にいじって変な事になったら厄介だよ。」
ボケ「島之内の姐さんにも釘を差されたっけ。『あんまし霊符にイタズラしたら色々ややしこい事なるさかいに、美竜ちゃんも気つけや。』ってね。」
ツッコミ「その人、本当に清代のキョンシーなんだよね?私には大阪のオバチャンにしか聞こえないんだけど。」
ボケ「元町の御隠居様も島之内の姐さんも日本暮らしが長いからね。日本のライフスタイルには適応出来てるんだ。」
ツッコミ「御隠居様や姐さんを見習って、貴女も早く適応しなさいよ。」
ボケ「そのために色々と勉強しているんだけど、やっぱり難しいね。こないだも留学生コミュニティの宴会で例の挨拶を披露したら、みんなポカーンとしちゃったんだ。まるで生気を吸い取られたみたいに。」
ツッコミ「キョンシーの貴女が『生気を吸い取られた』なんて言ったら洒落にならないんだよ。そもそも『同年同月同日に死せん事を願わん。』なんて言っても、貴女はキョンシーだから一足先に死んでるじゃない。」
ボケ「そこを突っ込まれたら辛いなぁ…」
ツッコミ「そもそも欧米圏の留学生に桃園結義の話題を出してもピンと来ないんじゃないかな?」
ボケ「ゴメン、蒲生さん。その『桃園結義』って言うの止めてくれない?私さ、『桃』って言葉を見聞きするとテンション下がっちゃうんだよ…」
ツッコミ「確かにキョンシーは桃の木の剣で物理ダメージが入るとは聞くけど、『桃』って言葉もアウトなんだね。」
ボケ「だから先週の飲み会でも、デザートの桃シャーベットを蒲生さんに食べて貰ったんじゃない。」
ツッコミ「ああ、あれはそういう事だったんだ。そう言えば先週の飲み会では妙な食べ方をしていたね。鶏唐揚げと串カツと刺し身を、綺麗に三つ並べるんだもの。」
ボケ「ああ、あれは三牲の代わりだよ。」
ツッコミ「三牲?」
ボケ「台湾では御先祖様を祀る時に、鶏と豚肉と魚をお供えするんだ。その三つを三牲って言うんだよ。」
ツッコミ「そんなセルフでお供えしなくても。しかも貴女ったら、鶏唐揚げや串カツを食べる時には日本酒ばっかり一心不乱に飲んじゃって。」
ボケ「道教だと米のお酒をお供えする事が多いからね。飲み放題メニューの中だと日本酒が一番近いんだよ。」
ツッコミ「飲み放題だからって加減せずに痛飲したら文字通り痛い目に遭うよ。酔い潰れて前後不覚になったらそれこそ一大事だし。」
ボケ「それは大変!何しろ私はキョンシーだから、出先で前後不覚になると死体遺棄事件になっちゃうからね。」
ツッコミ「笑い事じゃないんだよ!酔い潰れて急性アルコール中毒にでもなったら、それこそ命取りになるんだから。」
ボケ「その日の飲み会が文字通り最後の晩餐になっちゃうのか。」
ツッコミ「そうでなくとも、『飲み過ぎて寝落ちしたら終電を逃してた』って事態も往々にしてあるんだから。懐事情の厳しい学生だと、タクシーで帰るのはキツいだろうし。」
ボケ「終電を逃したら?それなら大丈夫!そんな時は、この傘を使えば良いんだよ。」
ツッコミ「それって鍵式の傘立てに入らなくて、毎回ビニール袋に包んでいる唐傘じゃないの。」
ボケ「柄が太過ぎるから鍵がかからないんだよ。」
ツッコミ「そんな唐傘でどうしようっての?私が聞きたいのは終電を逃した場合の対策だよ。急な雨の対策じゃないんだよ。」
ボケ「まずは傘を開きます。そうしてグルグルと回します。」
ツッコミ「お正月の演芸番組みたいだね。いつもより多めに回しております、みたいな?」
ボケ「そう!どんどん回転速度を上げていくよ!」
ツッコミ「まさかの正解だった!それで、それから?」
ボケ「タイミングを狙って地面を蹴り上げたら、そのまま離陸します。後は家のある方向まで唐傘で飛んで行くだけ、みんなやってみよう!」
ツッコミ「出来る訳ないでしょ、そんな事!映画に出てくるベビーキョンシーはそうして飛んでたけど…」
ボケ「私も最初は出来なかったよ。だけど練習したら、キチンと飛べるようになったんだよ。元町の御隠居様と島之内の姐さんに、河川敷で練習に付き合って貰ってね。」
ツッコミ「えっ、練習?」
ボケ「最初は二人に背中を支えて貰っていたんだけど、気付かないうちに支えが外されていてさ。『やった!私、飛んでる!』ってね。」
ツッコミ「そんな補助輪を外したばかりの子供じゃあるまいし…」
ボケ「河川敷へ着地した私に、島之内の姐さんが『その感覚を忘れんこっちゃ、美竜ちゃん!』と声をかけてくれてね。後は三人で大笑い!」
ツッコミ「微笑ましい話みたいに言ってるけど、その場にいた三人は全員キョンシーだからね。何処の世界に、お酒を飲んだ帰りに傘で空を飛ぶ人間がいるのよ。」
ボケ「そっか、人間だと飲酒運転になっちゃうもんね。」
ツッコミ「えっ、飲酒運転?そもそも傘って車両扱いなの?」
ボケ「飲酒運転?」
ツッコミ「ダメ絶対!」
ボケ「飲んだら乗るな?」
ツッコミ「乗るなら飲むな!」
ボケ「キョンシー様の?」
ツッコミ「お通りだ!」
ボケ「邪魔する奴は?」
ツッコミ「道連れだ!って、何言わせんのよ!」
二人「どうも、ありがとう御座いました!」