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爆弾少女と部活動 販売編 9

かなり短いです。日にちが空いてしまいすみません。

とりあえずこれで販売編はおしまいです。

 電車に揺られて帰ると、空にはもう星が煌めいていた。あまり動きがなっかたぶん、今日は一日が長く感じられた。

 家に帰って、買ってきた総菜を食べたが、やはり近所のスーパーよりお値段が高い分、味も良かった。

 俺が食べたくて購入した煮物が奪われたのはご愛嬌だ。



 家に帰ってからというもの、明久里はいつの間にか購入していた今日の同人誌をソファで読んでいた。

 

「明久里、いつの間に買ったんだそれ」


「はじめさんが紅浦さん達と楽しんでた時に」


「何言ってんだよ。俺はキッチン用品を見に行っただけだぞ。恵梨達とは偶然戻る時に会っただけだ」


 俺が反論すると、明久里は本を閉じ、冷めた目で俺を凝視した。

 

「そんなムキにならなくても、ただの冗談じゃないですか」


 冷笑するかのようにふっと頬をあげると、また本を開いた。



「いや、お前の冗談は冗談になってないんだよ。基本目とトーンが怖いんだよ」


「そうでしょうか。自分としてはそんなことないと思うのですが」


 自覚がないのか、目を見開いてぱちくりしながら、小首を傾げている。

 鏡で自分の顔を見てなにか感じたりはしないのだろうか。たとえば表情筋がほとんど機能停止していることについてなど。


 まあ、自分に気を使える人間なら、もう少し人にも気を使えるだろうから、それは無理な話なのだろう。

 と、今朝までの俺なら考えていただろうが、ちょうど今日明久里が人のために、もとい俺のために行動するところを見てしまったので、そんな減らず口を心の中で叩くこともできない。


「そうだ明久里」


 俺は口元を引き締め、少し間を開けてソファに座った。

 

「どうしました?」


 やけに緊張し、俺の胸が高鳴ってしまう。

 別に胸が張り裂けるほど緊張するようなことを今から言う訳では無いのだが、それでも小っ恥ずかしい。


「いや、改めて言わせてくれ。ありがとな。今朝電車で。ほんとに助かった」


 キョトンとした明久里は、本を開いたまま膝の上に乗せると、まるで死んだ先祖の幽霊を見るかのように、目と口を丸く開きながら俺を見つめた。

 なんだか俺の心に哀愁の影ができ、目を逸らして見ると、明久里の読んでいた本が目に入った。

 ピンクと水色の水玉模様を彩った表紙に『転生姉妹』という不穏な漢字が並んでいた。


 なぜあのクソゲーの同人小説があの場所で売られていて、何故それを明久里が購入したのかなんて今はどうでもいい。

 どうでもいいが、気になってしまう。

 あのクソゲーは、たった1日、数時間で俺の脳裏に深い爪痕を残した。

 今でも思い出す。あのメインヒロインの腐った言動、突然ダツを抱いた女の子に刺される恐怖⋯⋯その他もろもろ。


「なあ明久里、そんな本読んでてストレス溜まらないか」


「これはあのクソ女はモブ同然なので、ストレス無く読めます。はじめさんお気に入りの浦和さんとの恋模様です」 


「まあお気に入りっていうか、唯一まともそうだったから気になってただけだけどな⋯⋯それなら俺も後で⋯⋯って、そんなことはいいんだよ」


 何故か俺自身が話を脱線させてしまったので、ポイントを切り替えて元に戻す。


「本当に今朝はありがとう。ぶっちゃけひとりでも何とかできた自信はあるが、それよりもお前が俺のために怒ってくれたことが嬉しかった。その⋯⋯大切な人とまで⋯⋯」


 言ってて恥ずかしくなり、目を逸らし鼻の頭を撫でた。

 あの時、明久里の口から大切な人という言葉が出たことが、なんとも言えない幸福感を俺にもたらした。

 厄介者と思っていた明久里に認められたことが嬉しかったのか、それとももっと別の意味があるのか。

 今の俺では自分の内心すら把握することが出来ないが、とにかくあの時、痴漢と疑われた苛立ちや多少の怯えなどが吹き飛ぶような、そんな感覚を得た。

 

「あれは⋯⋯私も何故か口走ってしまっただけで⋯⋯深い意味はありません⋯⋯まあたしかに、はじめさんはただの友人ではありませんが」


「明久里⋯⋯」


 明久里は目だけを下に向けはにかんでいる。

 考えてみれば、俺がこうも真正面から明久里に感謝を伝えたことは、あまり記憶にない。

 それは、恥ずかしがっても当然と言えるかもしれない。


「はじめさんが逮捕されたら⋯⋯誰が炊事や掃除してくれるんですか⋯⋯」


「あ、そういうこと? まあ予想できてたって言うか⋯⋯なんか逆に安心するけど⋯⋯」


 強がりなのか本心なのか、声のトーンからは判別できないが、俺の胸のトキメキに似た鼓動はおさまりつつあった。


「まぁとにかく、感謝してるのは本当だ。ありがとな」


「いえ⋯⋯」


 俺はそのまま、頬を赤く染め俯いたままの明久里を置いてリビングを出た。

 どうやら、明久里の表情筋は仕事していないが、血液を運ぶ心臓と、その血管はしっかりと仕事しているらしい。

 そして、脱衣場の鏡を見れば、俺の心臓と血管もまた、しっかりと仕事を果たしていた。

 


 

 

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