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爆弾少女と部活動 販売編 8

 ────


「お疲れ様です。おふたりともありがとうございました」


 販売会が終わり、椅子や机を片付けながら、俺は肩を揉んだ。

 本当に1日いただけで、大した事はしていないのだが、やけに肩が凝る。


「いえ、依頼ですので。当然のことをしたまでです」


 明久里が滝沢さんの対応をしている間に、余った本をダンボールに戻す。

 数を絞っていたが、皆の本はそれなりに残っている。

 しかし、いちばん多く刷っていた紅浦の本は完売していた。

 流石としか言いようがない。


「まあ、本人はそのこと知らないんだけどな」


 数十分前に恵梨とウインドウショッピングに出かけたので、作者様は売り切れたことをまだ知らない。

 まあ、また会った時にでもつたえてやればいいだろう。それか滝沢さんが伝えるか。


「本当にありがとうございました。ああこれ、おふたりの交通費です」


 滝沢さんが財布からお札を出し、明久里に渡している。そういえば交通費支給と言っていた。


「ありがとうございます。お釣りはまた学校でお返しします」


「ああ、そうですか? ありがとうございます」


 ダンボールを閉じて、明久里との元に行くと、滝沢さんはにっこりと笑った。


「僕はまだ作業が残っていますが、ふたりはもう大丈夫ですので。本当に今日はありがとうございました」


「はい。失礼します」


 明久里が頭を下げたのに続き、俺も一礼した。

 ホールから出る際、OBの濱野さんが苦い顔をしてこちらを見ていた気がした。

 厳密には明久里を見て、怯えるように後ずさりするように、身を反らせていた。


「お前、あの人になにかした?」


「なんの事です?」


「いや、あの滝沢さんの先輩⋯⋯なんかお前のこと見て怖がってたから」


 エスカレーターに乗る手前で、明久里が立ち止まった。


「お昼を買いに行く時に⋯⋯少し話をしました」


 人差し指を唇と顎の間に触れさせながら、明久里は軽く口をすぼませた。


「少し話って⋯⋯何があったらあんな目で見られるんだ⋯⋯」


「だから少しですよ⋯⋯こんなふうに」



 ────


「ねえ君」


「はあ、なんでしょう」


「どうしたの? どこか行くの?」


「ただお昼を買いに行くだけです」


「ふーん。ついて行ってもいいかな?」


「え? 嫌ですけど」


「ど、どうして? 少し話をしようよ。好きな小説とか」


「あなたとお話することは無いので」


「ど、どうして? あの彼氏がいるから?」


「はじめさんは彼氏では無いです」


「じゃあいいんじゃないの⋯⋯」


「いえ、ただ私が生理的にあなたを受け付けないだけなので。大学デビュー丸出しで文学部の喪女を狙ってそうな下品で邪念丸出しの人が⋯⋯」


「⋯⋯」



 ────


 明久里の説明を聞いて、俺は言葉を失い、目を逸らしてエスカレーターの縁を意味もなく見つめた。

 何故こいつは出会ったばかりの相手にそうもズケズケと物申せるのだろう。


「ご愁傷さまだな⋯⋯」


 まあ申し訳ないが、確かに俺もあの男には同じような印象を抱いていた。


「まあいいや。帰るか」


 エスカレーターを昇りながら、ゆで卵器片手に今夜の夕飯をここで買うか家の近所で買うか考えた。 

 今買えば荷物になるが、惣菜弁当だとしても近所のものよりも質がいい。

 なんならここは、少しお高い弁当も売っている。


「明久里、今夜の夕食どうする?」


「食べますけど?」


「いやそうじゃない。ここで買うかいつものスーパーで買うかそれとも食べて帰るか、好きなの選べ」


「そうですね。じゃあここで買いたいです。美味しいものいっぱいありそうですし」


「わかった。じゃあ食料品売り場に行こう」


 決定してエスカレーターをのぼり終えると、また紅浦と恵梨とばったり会った。

 なんともまあ、タイミングがいいヤツらだ。


「あれー、終わったの?」


 どこかの服屋の紙袋片手に、紅浦が首を傾げる。

 なにかオシャレな服でも買ったのかと思ったが、ロゴがスポーツ用品店の物だ。


「ああ、完売したぞお前の本」


「へえー。そうなんだ。じゃあ売上でなにか奢ってもらおーっと」


 それほど歓喜する素振りもなく、ただ頬を緩ませながら言う。


「へえ、凄いね水樹」


「ふふん。てことで恵梨、なにか奢って」


「えーなんでよ。どちらかと言うなら水樹が奢ってよね」 


「だって別に私にお金がはいる訳じゃないしぃ。ほとんど利益なんてないだろうし」


「そうなんだぁ」


 女子高生2人が金の話をしているが、確かにあの値段と売上ではほとんど必要経費を回収した程度だろう。

 それもほとんど紅浦のおかげだ。


「まあいいや、僕達もう帰るけど、はじめたちも一緒に帰る?」


「いや、俺は買い物して帰る⋯⋯」 


 ここで明久里となんて言えば、また紅浦に疑われてしまうので、目配せだけして自分から言うように仕向ける。


「私もせっかくなので買い物して帰ります。紅浦さんも恵梨さんもまた学校で」


「うん。じゃあねふたりとも。ああそうだ業平」


 恵梨の体が出口に傾くのと反対に、紅浦が俺に目配せして迫ってきた。

 紅浦は手を口元に添えると、耳打ちするように小さく言った。


「今度は私ともふたりきりでなにか付き合ってね」


 そう小さく呟くと、紅浦は花のように明るい笑顔を浮かべ、恵梨の腕を引っ張った。


「ああちょっと水樹、じゃあねはじめも碧山さんも」


 恵梨が小さく手を振るのを見守りながら、ふたりの身体が小さくなるのを確認し、明久里を見た。


「じゃあ行くか」


「はじめさん」


「どうした?」


「紅浦さんは何を囁いたんですか」


「⋯⋯それは秘密だ」


 明久里は不満そうな目を向けていたが、気にせずに食料品売り場に向かって歩く。


「そういえばお前、今日1度も休憩しなかったよな」


「はぁ⋯⋯しようとは思ってたんですけど」


 明久里の肩がぐっと垂れ下がる。


「しようとは思ってたけど?」


「なんか⋯⋯私がいない間に何かあったら嫌だなと思いまして」


 明久里はそう言って、足を早めて先に行ってしまった。

 ただ俺が釣り銭の間違いをすることを危惧していたのか、それとも他に理由があるのか、俺の頭では考えが及ばなかった。 




 


  

                 

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