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爆弾少女と部活動 販売編 7

 部活終わりにでも遊びに来たのだろうか。

 サッカー部のエナメルバッグを肩に掛けている。


「なーにしてるの業平、部長の手伝いは?」


「ちょっと休憩して買い物してただけだ。ていうか、お前俺達がいること知ってたのか?」


「うん。ていうか部長に業平達に頼んだらって言ったの私だし」


「ああ、なるほど」


 肩掛けの位置を戻しながら、紅浦が微笑む。

 紅浦にしては思いやりのある選択だと思う。直接口に出すつもりは無いが。


「ねえ、水樹の書いた本どこに売ってるの。早く見に行こうよ」


 紅浦の隣から顔を覗かせた恵梨が、俺達を交互に見ている。


「お前アレに興味あるのか?」


「んー、別に僕読みたくないんだけど。ただちょっと売ってるところ見たいかなって」


 言いたいことは分からんでもない。 

 友達の創作物が商品になっていると知ったら、中身に興味があるかは別として、見てみたいと思うのは自然の性だろう。


「え、読みたくないの? 私の力作だよ?」


 紅浦が目を丸くして恵梨に顔を近づける。


「僕本なんてほとんど読まないし。水樹が書いたのって色々恥ずかしいし」


 ガーンという効果音がなりそうな程、口と目を開いて静止している紅浦と、紅浦の作品を思い出したのか、やや頬を赤らめて恥じらう恵梨が何とも対照的だ。

 しかしながら、この場合多数派なのは恵梨だろう。

 ていうか紅浦は自分の作品が一般人からどう見られるか分からないのだろうか。


「まあとりあえず、俺戻るから」


 いつまでもここに居ては明久里に申し訳ない。

 それに広い空間のど真ん中に立っているのも通行人の邪魔になるだろう。


「ああまってよ。僕達もいくから」


「そうか」


 ふたりを後ろに連れながら、エスカレーターに乗って地下へと降る。

 それにしても、試合後にわざわざ来るなんて、このふたりかなり仲がいい。


「ねえ業平、私の本売れてる?」


 エスカレーターの後ろにいる紅浦へ振り返ると、期待の眼差しを俺に向けていた。


「売れてるぞ。お前のファンが何人も来てるし」


「ファンなんてそんな、朝のお知らせが効いたのかな」


「まさしくその通りだ」


「へえ、みんな熱心だなぁ」


 嬉しそうだが満更でもなさそうな、そんな様子でこめかみ部分の髪を指でクルクルとしている。


「えー、水樹にファンがいるの?」


「ああ、しかも結構熱心な信者もいるぞ」


「信じられない⋯⋯あんな変態な⋯⋯」


 紅浦に下半月状の目で睨まれると、恵梨は引き笑いしながら口を閉じた。

 しかしながら、恵梨の口から変態と放たれると何故かドキッとする。何故だろう。

 エレベーターを降りて、そのままフロアの入口へ入ると、先程より少し人が多くなっていた。

 

 まっすぐふたりの元に戻ると、俺の後ろの存在に気がついた。


「おや紅浦さん。試合は終わったのですか」


 滝沢さんがスマホから目を離して口を開く。


「はい。だから少し様子を見に」


「ありがとうございます。で、そちらの⋯⋯」


 明久里の隣りに戻ると、滝沢さんの目は恵梨に向けられていた。


「サッカー部の友達です」


「茅森です。はじめまして」


 恵梨はさすが体育会系らしく、すんなりと挨拶をした。

 そして文系の滝沢さんは緊張しているのか、目を見開きながらフリーズしている。 


「こ、紅浦さんに⋯⋯同性のご友人が⋯⋯」


 いや違った。ただ紅浦に友達がいた事実に狼狽えているだけだ。さてはこの人、案外悪気なく人を傷つけるタイプだな。


「酷いですよ部長。私だって女子の友達くらいいますね。碧山さんもそうですし。だよね?」


「そうてす⋯⋯お友達です」


 急に話を振られて、明久里は何度も頷きながら答えた。

 そうだ。明久里はそもそも自分から紅浦と友達になりたいと思っていたのだ。


「てことで部長、管理私が変わるので、休んできてくださいよ」


 机を隔てていた紅浦がこちら側に来る。

 そしてちょうど、また女性が紅浦の本を購入しに来た。

 お釣りを渡して滝沢さんに目を向けると、紅浦に後ろから肩を揉まれていた。


「いや、ですが紅浦さんは部活帰り⋯⋯あぁ」


 滝沢さんは何故か俺をチラリと見ると、紅浦の手を肩から下ろして立ち上がった。


「わかりました。では5時になるまでお願いします。記入の仕方は分かりますよね?」


「はい。任せてください」


「ではお言葉に甘えて。業平君も碧山さんも⋯⋯失礼します」


 そう言った滝沢さんの目と頬は俺に向かって微笑んでいた。

 そして上機嫌に滝沢さんの席に座る紅浦、なるほど、さすが滝沢さんだ。

 西澤君に負けない素晴らしい潤滑油だ。


 滝沢さんは多分、どこかのベンチにでも座って時間を潰すのだろう。もしかしたらこの建物の外に行くかもしれない。 

 そうして紅浦のために時間を作るのだきっと。

 いや、厳密には俺と紅浦のためだろうか。


「じゃあということでよろしくねふたりとも」


 紅浦がにっこりと笑う。こうして素直な態度でいると可愛いと思う。


「じゃあ僕もいていい? 何も出来ないけど」


「うんいいよ。部長代理権限で許可します」


「やったあ。じゃあよろしくね碧山さんもはじめも」


 快活と紅浦が言うと、恵梨は嬉々として後ろに余っていた椅子を俺の隣に置いて腰掛けた。

 女子3人に囲まれるなんて、なかなかに素晴らしい状況になりえるのに、3分の2が問題児なせいでそれほどときめかない。


「いいか恵梨⋯⋯紅浦の本を買いに来た客がいる時は紅浦のことを呼ぶなよ?」


「んー? どうして」


「ちょっとした騒ぎになりかねんからだ。サブカル女子の秘められたパワーを甘く見るな」


「う、うん⋯⋯何言ってるか分からないけど気をつけるよ⋯⋯」


 恵梨は純粋無垢で本当に助かる。

 何だかさっきから他のサークルの視線がこちらに集まっている気がするが、両手に花があるせいだろう。

 気にしなければどうということはない。


「ああそうだ。買ってきたそゆで卵機」


 ずっと右手が重かったことを思い出し、床に袋を置く。なぜ座っても持ちっぱなしだったのか謎だ。


「ありがとうこざいます⋯⋯でもお高いんじゃ」


「いや、そんなに高くなかった」


「では早速今夜使いましょう」


「そんなに欲しかったのか⋯⋯」


 明久里がゆで卵を作っているところなんて見たことないが、料理下手を自覚して自重していたのだろうか。

 さすがにゆで卵なんて失敗のしようがないと思うが。


「ねえ、なんで業平が碧山さんが使う物買ってきたの?」


「⋯⋯あ」


 紅浦が何度も瞬きをし、腕を机に乗せて前かがみになりながら尋ねてきた。

 恵梨は俺と明久里が一緒に住んでいることを知ってるから気にしていなかったが、紅浦がいるのに迂闊だった。


「いや⋯⋯ただ代わりに買ってきただけだ。明久里のほうが販売が手馴れてるからな。なあ明久里」


「⋯⋯そ、そうですね⋯⋯それだけです⋯⋯はい」


 ただ話を合わせてくれるだけでいいのに、なぜしおらしくたどたどしいのか。

 俺を困らせようとわざと思わせぶりな態度をとっているのかと、勘ぐってしまう。


「ふーん⋯⋯なーんかずっと怪しいんだよねふたりとも。ねえ恵梨」


 ジト目で俺達を見つめながら、恵梨に話が振られる。


「な、なな、なんのこと⋯⋯? 僕が知るわけないよ。それに、女の子がはじめと暮らすなんて絶対無理だよ。はじめスケベだし」


 何故か俺に飛び火したことは置いておいて、思いっきり墓穴を掘ってくれた。


「私ふたりが暮らしてるなんて言ってないけど? ただどうして碧山さんの使うものを業平が買ったのか聞いただけなのに、どうしてそう思ったの?」


「あっ⋯⋯」


 失言に気がついた恵梨は顔を引き攣らせた。

 

「ねえ、恵梨何か知ってるの?」


 紅浦の声が若干高くなり、頬が上がる。

 恵梨をからかい、聞き出そうとする目をしている。

 俺と明久里が一言違うと言っても、恵梨の言葉に納得しなければ意味が無いだろう。

 だが、このまま紅浦に問い詰めさせるつもりはない。


「恵梨、お前もしかしてこの間俺と明久里が一緒に家に入るところでも見たか?」


「えっ?」


 戸惑う恵梨に、俺は眉を吊り上げて無言で圧をかけた。


「う、うん。見たよ」


 俺の意を汲んでくれたことを確認し、わざとらしく腕を組み、息を吐く。


「なるほど、それで俺と明久里が男女ひとつ屋根の下暮らしてると勘違いして余計な気を使ったんだな。だが安心しろ。多分お前が見たのは家に親戚が集まった日だ。日本に来た明久里のために集まったんだよ。何故か俺の家にな」


「そ、そうだったんだ⋯⋯勘違いしてたよ、えへへ」


 恵梨の自然体な演技のおかげで、紅浦の顔色から興味が引いているように見える。


「なあ明久里、あの日はまあ楽しかったな」


「そうですね。はじめさんの宴会芸には驚かされました⋯⋯まさかパンツを⋯⋯」


 明久里の余計な爆弾発言のおかげで、恵梨がシラケた眼差しを、紅浦が好奇の目を向けてくる。

 

 しかしながら恵梨さん、君はこの話が作り話だとわかっているはずでは無いですか。


 こんなそこそこ人のいるところで何を話しているんだと冷静になりたいが、この女がそれを許してくれない。


「ねえねえ、業平なにしたの?? 裸でタケコプターでもした? それとも⋯⋯」


「こんな所でそんな話するなっ!」


 つい声を荒らげてしまい、怖がらせてしまったかと思っても、紅浦の顔色も態度も何一つ変わらなかった。


「教えてくれてもいいじゃん。内緒にするから。なになに? 碧山さんでもいいよ。教えて⋯⋯」


 ──滝沢さん⋯⋯早く帰ってきてくれ⋯⋯。


 俺は心の中でなんども滝沢さんを呼んだが、彼が帰ってきたのは、このイベントが終わる5時直前だった。





 


  

                 

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