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爆弾少女と部活動 販売編

随分空いてしまいすみません。

今回も短いですが、すぐ更新します

「明日は早く起きるんだぞ」


「はじめさんに言われなくてもわかってますよ」


「じゃあおやすみ」


「おやすなさい」


 リビングでひとりアニメを見ている明久里に就寝前の挨拶をし、階段を登って自分の部屋へ入った。

 明日は朝10時に八子のソルタワーに集合とのことだから、遅くても9時過ぎには家を出なければならない。

 だが、普段俺が休日に目覚めるのは、だいたいがその9時頃だ。

 まさかゴールデンウィークに部活することになるとは思っていなかったので、忘れないようスマホのアラームをセットしておく。

 ベッドに寝転がり、目を閉じるとすぐに睡魔がやってくる。

 明久里はいつまでアニメを見ているつもりだろうか。夜更かしは美容の大敵だぞ⋯⋯なんて言えばセクハラだなんだ言われそうだから口を噤むが、頼むから寝坊だけはしないでくれとだけ願っていると、あっという間に睡魔に敗北した。



 ────


 休日にまで聞きたくないアラーム音に起こされると、急いで布団を剥ぎ取り、ベッドから降りた。

 別に寒いわけではないが、うだうだベッドに寝転がっていると、二度寝してしまいそうになる。

 

 我が校には、休日でも部活動での移動時は基本、学校指定の服を着用することとあるので、高校に入って初めて、休日なのに制服に着替えた。

 部屋である程度の身支度を済ませ、リビングに行くと、明久里はまだ来ていなかった。

 時間的にはまだまだ余裕がある。

 俺は食パンをオーブントースターに放り込み、冷蔵庫の中に僅かに残っていた牛乳をコップに注いだ。

 コップの5分の2ほどで牛乳は底をついた。  

 牛乳好きの明久里が冷蔵庫を開けたら怒るかもしれないが、早い者勝ちだから仕方がない。

 野菜室からトマトを取り出して水で洗い、小皿に乗せる。

 パンが焼けたので、それにバターを塗ったら朝食の準備は完成だ。

 パンにトマトに牛乳。健康なんて微塵も考えない平均的男子高校生の朝食と比べれば、随分と健康的だろう。

 パンをかじると、階段から足音が聞こえ、足音はそのまま洗面台の方へ向かっていった。

 スマホで電車の時刻と乗り換えを確認しながら食していると、薄目でまだ眠たそうな明久里が現れた。


「おはよう」


「おはようございます」


 昨夜何時に寝たのかは知らないが、大きな欠伸をしながら、明久里もパンをトースターに入れ、冷蔵庫を開けた。


「牛乳ないじゃないですか⋯⋯」


「ああ、さっき無くなった」


「なんで常に切らさないようにしてないんですか⋯⋯」


「悪かったな」


 明らかに声のトーンが低いが、気にすることもないだろう。

 そもそも、普段買い物はほとんどふたりでしているのだから、明久里が買えばいいだけの話だ。

 気にせずプチトマトをひとつ食べると、背後のIHコンロの電源が入る音がした。


「ん? 明久里何作るんだ?」


 振り返って尋ねると、明久里の手には卵が握られていた。それもふたつ。


「目玉焼きですよ⋯⋯牛乳がないからその代わりです」


「いや、牛の乳と鳥の卵は共通点ないだろ⋯⋯」


 何が代わりなのかはわからなが、それよりも不安なのは、明久里が果たして卵を焼けるのかどうかだ。

 この家に来てから、明久里は電子レンジやオーブントースターを使うことはあったが、コンロを使ったことは俺の知る限り1度もない。

 まさか高校生が卵のひとつも焼けないなんてことは、万に一つもないだろうが、明久里という人間は想像の範疇を平気で超えてきそうな雰囲気がある。


「ていうか、ちゃんと卵焼けるのか」


「焼けますよ⋯⋯さすがにバカにしすぎです⋯⋯あっ」


「うん⋯⋯今殻落ちたの見えたよ。しかも砕けたのがいくつも」


 卵を割る動作自体は、いたって普通だった。

 だがやけに高い打点でフラパンの上でそれを割り入れた瞬間、細かな細粒がドロっとした卵と共にフライパンに投入されるのが見えた。

 

「あっ⋯⋯」


 さらに明久里は殻を取り除かず、もうひとつの卵を割り入れた。

 今度は殻は見えなかったが、また咄嗟に声を出したことからして、恐らくは黄身が潰れたのだろう。 


「頼むから子がさないでくれよ」


「そんなことするわけないじゃないですか。蓋してタイマーセットしとけばいいんですから」


 コンロを操作した明久里は、俺と同じように野菜室からトマトを取り出し、更には冷蔵庫から小さいヨーグルトまで出した。

 慌ただしく動きながら、明久里はそれらをテーブルの上に乗せ、今度はパンを取って置いた。

 そして卵が焼けるのを待っている時、俺は朝食を済ませ、流しに食器置き、その隙にフライパンの様子を覗いた。


「おい、フライパンに水入れたか?」


「あっ⋯⋯忘れてました」


「お前黄身は固め派なんだからしっかりしろよ。そのまま黄身が固まるまで焼いたら下焦げるぞ」


「ついうっかり⋯⋯なら今からでも」


 そう言うと、明久里は水切りカゴに入っていたコップに水を注ぎ、無造作にフライパンに投入した。

 その量は、明らかに入れすぎである。

 なんなら黄身が少し水に浸かっている。


 わざとやっているのかと疑いたくなるが、明久里は基本無意識に人を困らせるだけで、ふざけて誰かを笑わせようとしりするタイプではないので、本人はいたって真剣なのだろう。


「明久里⋯⋯お前は雰囲気やオーブントースターが使えるんだから、もうそれ以上求めなくていい」


「そんな小学生でもできそうなことできるだけじゃなんにもなりませんよ。私ははなたれ小僧レベルってことですか?」


「うんまあ⋯⋯言い方ひどいな。あと心がけはいいんだけど、はなたれ小僧でも多分目玉焼きは作れるぞ」


 俺がため息を漏らすと、明久里の顔色が暗くなり、タイマーが止まった。

 蓋を開けると、湯気の中から大量の水と一応は焼けた卵が出てくる。


「しまった⋯⋯焼いてから殻を取り除くつもりでしたが⋯⋯これじゃあ殻が見づらいです⋯⋯」


「まあいいんじゃないか。殻はカルシウムの塊だぞ。それこそ牛乳の代替品だ」


「そうですね⋯⋯栄養が取れたらそれでいいです」


「いやまあ冗談なんだけどな」


 朝から疲れるやり取りをしながら、とりあえず家を出る時間になるまで、思い思いに過ごした。 



 



 

 

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