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爆弾少女は人気者?

「眠たそうだね業平。いやらしいものでも見てたの?」


 水曜日、1時間目が終わったところで、大きく欠伸をすると、隣を通った紅浦がほくそ笑みながら言った。 

 眠たいのは事実だ。だが決して、この女版出歯亀が考えているようなことは無い。


「寝不足になるまで見るってどんな状況だよ⋯⋯」

 

 紅浦はにやにやとしながら、立ち止まっている。

 寝不足の原因は、あのゲームだ。

 恵梨と遊んだあの日、夕食の後から、明久里があのクソゲーをプレイし始めた。

 続きから始めると、明久里も俺と同じようにヒロインを海に返したり、ダツを抱いた女に刺されたり、さらには新たに登場したウツボ女に指を噛み切られたりしていた。


 途中、ただのデスゲームにしか見えなくなったそれ(クソゲー)だが、不思議と目を離せなかった。


 結局、日月火と夜通し明久里のプレイを閲覧していた結果、酷い寝不足に陥った。


 ダツ娘とウツボ娘のエンディングでは、最終的に主人公が海の近い街で同棲を始めたが、食卓に魚が出ることは無かったという、何とも生殺しのような終わり方をしていた。

 その他何人かのエンディングは見たが、まだあの疫病神(メインヒロイン)と唯一まともな浦和のエンドを見れていない。


 特に疫病神は、即死選択肢が多く、さらには好感度が一定以上超えないとカップルエンドにたどり着かないのだが、その条件がとてつもなく厳しい。


 疫病神とのイベントで、謎の激ムズシューティングゲームが始まった時は、流石の明久里も青筋を立て、コントローラーを軋ませていた。

 とまあ、クソゲーのせいで眠たくて仕方がない。

 


「あ、そうだ業平、私と同じ班になろうよ」


「あー⋯⋯」


 紅浦は俺の机に手を乗せた。

 班というのは、来月頭にある課外学習のグループのことだ。

 この学校は5月になると全学年に課外学習が課されている。

 といっても、面倒なものではなく、この学校の母体である宗教の教会でお祈りをし、その後は近場のレジャー施設に行くという、ほとんど遊びみたいなものだ。

 ちなみに、施設は学年毎に違っていて、1年は科学博物館、2年は遊園地、3年は水族館に行くのが、毎年の伝統だ。


「でもせっかく遊園地に行くなら、ハムスターランドとか行きたいよね」


「ハムランド遠いし、なにより最近チケット高すぎるだろ。修学旅行でもない学校行事じゃ無理無理」


「まあそうだけどぉ。でも昔は行ってたらしいよ? ハムランド」


「え⋯⋯じゃあ教会は? 浦高市にもあるの?」


「それが、サッカー部OGに聞いたことあるんけど、昔は教会でお祈りとかなかったらしいよ。2年はランド直行だったって」


「ほんとにただ遊びに行ってるだけだなそれ⋯⋯」 


 この学校の母体である宗教なんて、欠片も興味が無い身にとっては、何とも羨ましい話だ。

 しかし、平日でも客でいっぱいのハムランドより、平日はガラガラの田山園(たやまえん)のほうが俺は好きだ。 


「それで、私と組んでくれる?」


 催促するかのように、紅浦の顔が近づく。

 中身はともかく、外見はいいのだ。

 その顔が近づくと、どうも心臓に悪い。


「別にいいけど、じゃああと3人見つけてくれよ」


 このクラスは明久里を入れて37人で、6人組を5つと、7人組をひとつ作るようにと、山本先生のお達しがあった。


「3人? ひとりはもう決まってるの?」


「決まってないけど⋯⋯富山君は決まってるようなものだから」


 そう言って富山君の席を確認したが、トイレにでもいってるのか、彼の姿は無い。

 まあ、富山君には後で声をかけるとしよう。


「富山ねー。おっけー」


 紅浦はそう言って、窓の方へ振り返った。

 紅浦の視線の先には、窓際で寝たそうに欠伸をしながら、手のひらで口元を叩く明久里がいた。


 俺と目が合うと、明久里は軽くお辞儀をして、机に伏せようと両腕を伸ばしたが、周りに何人かの生徒が集まり、眠るどころではなくなっていた。


「ねえ碧山さん、私達の班に入ろうよ」


「えー、私達と行こうよ」


「あの、よかったら俺達の班に」


 そんな勧誘の声が、明久里の周りを包む。

 制服と制服の間から見えた明久里の目は、救いを求める子犬のよう⋯⋯と言えなくもない。

 しかし、男女問わず誘われるとは、随分と人気があるらしい。


 まあ、男子に関しては、9割方下心満載だろう。

 見た目だけはいいのだ。見た目だけは。

 それはまさにあのクソゲーのヒロイン達のように。


「碧山さん人気だねー、どうする?」


 口をぽかんと開けて明久里を見たまま、紅浦が呟く。


「どうするってなんだよ⋯⋯」


「いや、私は碧山さんも誘おうと思ってたんだけど⋯⋯この様子じゃ取られちゃいそうだし」


「⋯⋯なるほどな」


 明久里が人気者なのは喜ばしいことだが、このまま緊張で爆発しないかと不安が沸き起こる。

 とすると案の定、スマホが震え出した。

 本当、このアプリには救われている。

 そこだけは父に感謝と感じたが、そもそも家に連れてくるなと改めて思った。


「じゃあ紅浦、今から明久里を誘ってくれ」


「えっ? うん、まあいいけど」


 一瞬戸惑ったように瞼を上げたが、紅浦は流石の行動力で、明久里を囲む生徒達の間に割って入った。


「ごめんねごめんねー。碧山さんは私達と組むんだ」


 強引に入ると、紅浦は明久里の腕を掴んで立たせた。

 紅浦が来た効果なのか、スマホのバイブが止んだ。

 そのまま紅浦は、皆を押しのけるように、明久里を俺の前まで連れてきた。

 明久里の顔はやや火照ってはいるが、愛も変わらず表情からは気持ちが読み取りずらい。


「え⋯⋯碧山さん業平達と組むの?」


 明久里の背後から、女子のひとりが言う。

 その問に答えるべく、明久里は恐る恐る身体を回し、ぺこりと頭を下げた。


「はい。見知らぬ土地ですので、はじめさんが居てくれた方が私的には気が楽で⋯⋯せっかく誘ってくださったのに、すみません」


 ほぼ完璧な断り方だ。

 これなら、明久里に波風が立たないのに加えて、略奪した俺と紅浦への反感も抑えられる。


「そっか。それなら仕方がないね」


 女子達はそう言うと大人しく諦めて去っていった。

 諦めがいいのは、紅浦が一緒だからだろうか。

 男子ならともかく、女子がこいつの性格を嫌悪するのは当然の生理現象だ。


 だが男子からの視線が俺に突き刺さる。 

 転校生で既にクラスの男子からは密かな人気を集めている明久里と、中身は腐っているが外見だけはよくて一部男子からは人気の紅浦が一緒なのだ。

 多少の嫉妬心には目を瞑ろう。


 いや、ていうか、別に明久里が俺のところに来たとしても、別に混ざりたいと言えばいいでは無いか。


 まさか⋯⋯俺は男子から嫌われているのだろうか。

 いや、そんなはずは無い。

 きっと皆そこまで明久里を追いかけるのはあからさま過ぎて気恥ずかしく、身を引いているだけだ。そうに違いない。


「あ、富山。今度の遊園地、私達と一緒に回ろうよ」


 そんなことを考えていると、紅浦が戻ってきた富山君に向けて声を発した。

 やはりトイレに行ってたのだろう。

 富山君のズボンのポケットから、亜麻色のハンカチーフの先端が顔を出している。

 富山君はこっちに向かいながら、俺と明久里を一瞥し、口を開いた。 


「ああいいよ。とりあえずこの4人は確定?」


「うん。ごめんね富山君。こんなヤツらと一緒で」


「えっ⋯⋯」


 このふたりがいる事で、当日疲れるのはほとんど確定事項だ。


「ちょっとどういう意味なの業平」


 紅浦が俺の後頭部を突っついてるが無視だ。 

 富山君は眉を八の字によせながら苦笑いしている。

 

「まあとりあえず、あとふたりだね」


「ああ、あとふたりも出来れば常識人に来てもらおう。痛っ」


 チクッと刺すような痛みが、突然頭頂部を駆け抜けた。

 患部を撫でながら振り向くと、明久里が右手の親指と人差し指で、髪の毛らしき1本の毛を摘んでいた。


「え⋯⋯まさか抜いたのか⋯⋯」


 突然の攻撃に、俺は怯えを感じた。


「ぴよぴよと跳ねて目障りでしたので。すみません。常識人じゃなくて」


 明らかに不機嫌な声色に、富山君はともかく、紅浦でさえも困惑し、引き攣った笑みを浮かべていた。


「いや、ごめん。怒ってるなら謝るから」


「別に怒って無いですよ。ただ自分が非常識だって事を再認識し、受け入れただけです」


「受け入れた結果人の髪の毛抜くって⋯⋯悪魔かお前⋯⋯」


「さあ、少なくとも真人間ではないです」


 そう言うと、明久里は不敵に笑ったが、目は完全に据わっていた。

 明らかに怒っている目だ。

 メンタルが弱い人間なら、その眼差しだけで謝罪にに追い込まれることだろう。


 だが俺は違う。

 このまま何も余計なことを言わず、休み時間を乗り切ってみせる。


 と思っていたのに、またカバンの中でスマホが震え出した。


「ごめん⋯⋯立派だよ。明久里は。立派な人間だ」


「そうですか」


 目がいつものに戻ると、明久里は摘んだ髪の毛を口元にまで近づけ、指を離すと同時にふっと息を吐いた。

 明久里の息吹によって、無惨にも奪われた髪が舞い散る。

 髪はなんの情緒もなく床に落ちると、白い床によく映えた。 

 スマホは鳴り止んでいる。

 怒りが静まったのだろう。まるで我儘な神様だ。

 怒りでも心拍を上げ、俺を自在に操る。


「なんか⋯⋯業平弱みでも握られてるの?」


 紅浦が聞いてくるが、俺は首を横に振っただけで何も言わなかった。

 弱み⋯⋯その言葉で形容できているのかは分からないが、少なくとも強気に出過ぎては、俺達の命が危うい。

 てことは、たとえ明久里が無意識だとしても、俺は命の手綱を握られているのだろう。


 チャイムがなって、3人とも自分の机へ戻っていった。

 つい10分前まで俺の身体を支配していた睡魔は、どこか旅へ出たようだ。


 目は疲労し、油断していると瞼が下がって視界が暗闇に包まれるのに、脳だけはしっかりと目覚め、先程の明久里の姿を記憶媒体に焼き付けている。


 そんな曖昧な意識のまま、放課後に突入した。


 こっそり帰ってやろうかとも思ったが、明久里が逃がしてくれるわけがなく、俺は強制的に部室へと連れていかれた。



 





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