Cace.8
現在、我が共和国の情勢は今のところは至って平穏である。
両国の和解という形で成立したエルザス=ロール地方の共同統治はこの前の法案で百年と言う半永久的な物となった。その為、国民からすれば二年前まで憎っくき仇敵だった相手に頭を下げたように見えたのだろう。しかし実情は全く反対だ。
現在帝国は前の戦争の国債返済が済んでいない事などや戦後も収まらぬ重税により革命の機運が高まっている。現在の共和国政府はあくまでもその状況を静観している状態だ。
一部では旧来の貴族支配に飽き飽きした軍部がクーデターを企てているとも言われていた。
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「つまり、ジーン・ガードナーとマイント・カーディッシュは元々は同じ砲兵だったという事ですか……」
「はい、所属していた部隊が同じだったことはなかったようです」
タバレの事務所に報告に来た彼女はそこでそう話すと、タバレはそこで少し考える。
「とすると犯人の狙いは砲兵という事ですか……」
「戦時中は大砲の引き金を引いていたようです。被害者の二人は砲兵勲章を共に授与されていたようです」
「砲兵勲章ですか……」
ある一定期間砲兵として活躍し、国に貢献したものに贈られる勲章だ。優れた砲技術が必要とされ、共和国の代名詞とも言われる屈強な砲兵隊においては名誉な事であった。
「アドフル・ブレリオの方は?」
「はい、そちらも調べました。彼の顔写真と同じ顔の人物があの写真の中に……」
それを聞いてタバレは確信する。
「とすると、犯人はあの砲兵隊のメンバーを狙っているということですか……」
「部隊照会をかけましたが、あれと同じ柄の部隊は確認できませんでした」
「もしかすると訓練生のものかもしれません」
「訓練生ですか……わかりました。当たってみます」
かつて被害者の二人が所属していたという砲兵隊に共通点は見られない以上に。それがいきなり軍務省から提示されたということに違和感を感じていた。
「(なぜ今更になって……)」
前にジュリーを襲った人物達は歩き方から確実に軍人と断定できる。それも特殊な訓練を受けた隠密作戦に特化した部隊だ。警視庁から彼女をつけ回していたということは、出来るなら誘拐する腹づもりだったのだろう。
それなのに今日になっていきなり彼らは情報提供をしてきた。それは何故だ?
「あの……タバレ探偵?」
考え事をしていると、ジェリーが声をかけてきた。そこで意識が引き戻されると、そこで彼は答えた。
「ああ、すまない。態々届けにきてもらって悪かったね」
「ああ、いえ。これが私の仕事ですから」
そう答えると彼女は鞄を持って事務所を後にしていた。
彼女は今、タバレと警視庁の連絡係を勤めており。タバレは軍に関係する事件かと内心ため息が漏れていた。
「(軍にとって見過ごせない被害と言う事か……)」
少なくともこの軍の動きは大きな事を隠している証左かもしれない。
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その日、共和国の地方の森で共和国製新型小銃を持って大勢のホリゾンブルーが特徴的な共和国軍歩兵は引き金を引いていた。
その顔は緊張に満ちており、とても訓練をしているようには見えなかった。
「撃てっ!」
射撃する人数は三〇名。およそ歩兵半個小隊に値する。
七.五ミリの小銃弾が深い森に向かって飛んでいく。その後、しばらくの静寂が空間を包んだ後に部隊長はあげた腕を前に出して部隊を前進させる。ヘルメットを被り、警戒している彼らは森の中を草木をかき分けて慎重に進んでいた。
「……」
夜と言う事もあり、月明かりが頼りの一般兵の目はとても視界が弱い物であり。夜目であっても視界を取ることで精一杯だった。
最近では量産型の暗視魔導具が完成したと聞いているが、共和国の一般部隊ではまだそう言った装備は導入されていなかった。
今回は事情が事情なだけにこんな夜に一般兵は森の中を歩いていた。
「痛っ」
「気をつけろ!」
そんな訳で味方と頭をぶつける事もしばしば起こっていた。
「どこだ…何処に行きやがった……」
暗い森を進む歩兵部隊はまるで狩をするように包囲網を閉じるように前進していた。
目的はこの森まで誘拐されたと言う一人の砲兵の捜索だった。相手は強力な魔術師という事で、誰もが警戒していた。魔術師と言うのは歩兵にとっては天敵のような存在だからだ。そして指令では、犯人をその場で殺しても構わないと言われていた。
「……」
命令はかの前の戦争で砲兵として活躍し、二十代にして異例の出世を果たした大佐の命令だった。軍事機密の関係から顔すら見たことがないが、今まで多くの勲章を取ったと言われている。
「ふぅ……」
小銃を抱えて息を整えて目を凝らす。
その時だった。
「うわぁぁっ?!」
森に銃声が轟き、近くに居た兵が撃たれた。そして両足を撃たれたその兵は待ち伏せされてそのまま地面に倒れた。
「撃て!撃て!」
反撃で小銃や機関銃を適当に発射する。
そして撃った後に暫く間が開いた後、今度は向こうから仕掛けてきた。
「っ!!」
近場にいた兵士は至近距離で小銃の機関部を撃ち抜かれた後に首元を捕まれ、そのまま投げ飛ばされて数人を巻き込んで木に叩きつけられる。
現れた人影はローブを被っており、手には手袋を嵌めていた。そして、ローブの所為でその顔は見ることができなかった。背中には自動小銃を背負っていた。身長は自分たちより低く、一瞬女性のようにも見えた。
「貰った!!」
「……」
そこで銃剣を取り付けた別の兵が振りかぶった。しかし、その人物はそのまま振りかぶった小銃を下から掴むと、あっという間に銃を回転させて引き金を指に掛けて二発弾丸を発射してその兵士の足を撃ち抜いた。
「ぐぁああっ!?」
「ちっ!!」
そこで適当に引き金を引いた兵の弾丸は至近距離だと言うのにローブに穴を穿つだけで終わった。
「何っ?!」
まさかの反応速度に驚いていると。その時、その人物は懐から一発の手榴弾をピンを抜いて投げた。
「っ!!」
そして至近距離で投げられた手榴弾を見て慌てて防御姿勢を取るために反対方向に向かって慌てて走り出そうとすると、その瞬間に手榴弾は激しい閃光と轟音を撒き散らして爆発した。
なにせ、犯人を見つけた影響で周いには人が集まっており。諸に閃光手榴弾を喰らってしまった。
「ぐあぁっ!!」
予想以上に早い爆発に耳鳴りと閃光のせいで目がチカチカしてまともに見えなくなってしまった。
地面にへたり込んで動けなくなっていると、隊長の前に例の人物と思われる人影が立つと。こう言い放った。
「次会えば今度は容赦しない」
声的に女だった。
そしてその人物はそう言い残すと、を背負い直して森の奥に消えていった。
その間、自分達は何もする事が出来なかった。
そして森の奥に消えたそのローブを纏った人影は、そのまま木陰の根元に目をやると。そこで被せていたカモネットを外すと、そこには一人の女性が猿轡と後ろ手に縛られていた。
「っーーーー!!」
何か非常に驚いた目でその女性はローブの女を見ていた。するとそのローブの女はやや申し訳なさそうに話しかける。
「すまないね。でもね……」
そう言うと、彼女は被っていたフードを取ると。そこで縛られていた女性は目を大きく見開いて思わず言葉を失ってしまった。
「こうでもしないとウチらは生きられないの」
そう答えると、そのローブの女は縛られている女性を見た後。彼女に拳銃の銃口を向けた。
「だから今は一瞬だけ我慢してちょうだい」
そう答えると、彼女は引き金を引くと。金属音と共に中に入っていた気絶弾が作用してその女性は白目を剥いて気絶していた。
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「また死体が見つかったのか?!」
「はい、今度は地方都市ですが……」
ジェリーはそう言いながら今回見つかった遺体の情報を手渡す。
「被害者はヘレン・ロジャーズ、二〇歳。死因は車内に残されていたモルヒネによる中毒死と推定されています。発見時、彼女はレンタカーに乗ったまま亡くなっていたそうです。特に外傷は見られませんでした」
「…毒殺と言うことか……」
「はい、そして首元には……」
そこで彼女は一枚の白黒写真を見せる。そこには被害者の元に描かれた紋様があった。それを見て軽く畝るジェブロールや捜査員達。
「そして職業なんですが……」
「?どうした」
言い方に困っている様子のジェリーにジェブロールは首を傾げる。
「あの…その……」
「良いから、言ってみろ」
ジェブロールがそう言って促すと、彼女は報告をあげた。
「その、彼女の職業は…
軍人です」
『『『『『っ!!』』』』』
被害者の職業を聞き、部屋にいた捜査員全員が驚いた顔を見せた。
「嘘だろう?!」
「不味いぞ。軍人が被害者になったのかよ」
「どうする?軍人が被害者なら、間違いなく軍部がしゃしゃり出てくるぞ」
「そんなことさせるかよ。これは俺たち警察の事件だぞ?!」
捜査員達がそう言う中、早速会議室にお偉いさんが訪れた。
「皆居るな?」
そこで警視監が現れた事にやや驚きながらジェブロール達はそのまま警視総監を見ていた。
「今回の紋様事件だが、地方においても同様の事件が発生し、県を超えた事件となった為。規定に基づいて国家警察局に事件が移管される事が決まった」
そう言うと、捜査官達はまあ仕方がないと言った様子で納得のいく様子を見せた。
元々そういった警察内での捜査権限の移管は今まで何度かあったことだ。だから彼らは慣れていた。おまけに事件が移管されても捜査官が変わる事はない。
「次に、今回の被害者が現役の軍人という事で。今回の事件に国家憲兵隊が捜査要請をしてきた」
そう言うと、真っ先にアンドレイとルコックが反論した。
「やめてください。ただでさえほとんど分かっていない事件なんです」
「そこに国家憲兵隊の横槍を入れられたら、捜査が逆に混乱しますよ」
国家憲兵隊はあくまでも軍内部で起こった事件を解決するための警察組織であり、警察から言わせてみれば『余計な事しかしてこない厄介者』と言う悪い印象しかなかった。
なにせ、前にあった国家憲兵隊との合同捜査で憲兵隊は容赦無く事件現場に入っては証拠品を踏み潰した事があるそうで。それはもう酷い有様だったと言う。
「しかし、事件の全容が見えてこない今。人数は多い方が良いだろう」
「ですが!捜査を引っ掻き回されたらこっちが困りますよ」
ルコックは頭をやや痛くなり始めながら反論していた。