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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
一章 この事件の犯人は?
7/25

Cace.7

「例の紋様事件の捜査からジュリーを外す事が決まった」


そう言われて、思わずジュリーは慌てて聞く。


「ちょ、ちょっと待ってください!」


そんな事が出来るのかと首を傾げる。


「そんな事が出来るんですか!?」

「仕方あるまい。昨晩、君が襲われかけてはな……」

「……」


あの襲撃を知っているのは今の所タバレとジェブロールだけだ。余計な混乱を呼ばないでほしいと彼女自身が頼んでいたのだ。


「襲ったのが誰かわからない以上、派手な行動は控えるべきだろう」

「…分かりました」


渋々承知した彼女はそう答える。

新米警部補としてこれからいよいよという時に出鼻を挫かれた気分だが、()()()()()()()から追いかけられてはこう判断されてしまうのも仕方がなかった。

するとその時、部屋の扉がノックされた。


「入れ」


ジェブロールがそう返すと、取調室のドアが開いた。


「失礼します」


そう言い部屋に一人の青年が入ってきた。ただ、少しやんちゃそうではあったが……。

するとその青年はジュリーを見て挨拶をした。


「お初にお目にかかりますジュリー警部補。ルコックと言います」

「は、はい….」

「この前、潜入捜査から帰ってきたばかりの奴だ、数日は行き帰りを任せたぞ」

「はい!」


そうルコックは答えると、その明るさからジュリーは目を閉じたくなってしまった。


「こいつは頭も回る。背中を預けられる人間だ」

「本当に預けられるんですか?」


思わずそう聞き返してしまうと、ジェブロールは少しだけ肩をすくめた後に言った。


「少なくとも頭は回るやつだ」


そう言うと彼はルコックを信用している目をしていた。






「いやはや、先生や警部もなかなか策士ですね」

「え?」


帰りの途中、夕食を買うためにマーケットに訪れたジュリーとルコックはそんな話をし始める。

ここは人通りが多いので尾行がいても会話を聞き取れるとは思わなかった。


「ええ、俺は例の紋様事件の捜査員に警部補の代わりに入ることになったんです」

「はぁ…」


彼はそう言うとジュリーの今後を予測していた。


「警部補は警部の居ない刑事部を取り仕切るのが仕事になると思います」

「ええ、そうなるでしょうね」


事実、自分の階級は曲がりなりにも警部補だ。警部の一つ下で、あの警備部の中ではなかなかのエリートだ。


「事件に進展が無い限りは動くこともないでしょうが、例の紋様事件。先生は嫌な予感を感じているんでしょうね」


そう話す彼にジュリーは先ほどから気になっていた事を聞いた。


「あの…先生って?」

「タバレ探偵です。俺はあの人に教えを受けている人間ですから」

「へぇ……」


タバレに弟子がいたのかとやや驚いていると、彼は言った。


「ここかはあくまでも自分の予測でしかないですが……」

「是非ともお聞きしても?」

「ええ、もちろん」


そう言うと彼は自分なりの仮説を教えてくれた。


「昨晩、先生が軍人と仮定したに襲われた貴方を一度捜査から外す事で、その後ろにいる人間も満足する事でしょう。なにせ昨晩の行動は……」

「脅しであるとタバレ探偵は言っていました」

「ええ、そうです」


そこでルコックは頷くと、そこで彼はジュリーの持っていた紙袋を代わりに持った。


「脅し目的が貴方の調べている写真の部隊なのであれば、現状でその写真を知っている先生と貴方に狙いが行くものです。その中の貴方が捜査から外れた事実は向こうも把握しているでしょうからね」


遠回しに軍部の人間は盗聴をしていると言うと、ジュリーはやや目を見開いた。


「詳しい話は車でしましょう。ちょうど近くに停めているんです」

「……はい」

「パトロールついでに俺も色々と警部補に聞きたいこともありますしね」


そう言うと、夕方のマーケットを抜けて二人は街におそらくは事前に停めていたのだろうパトカーに改造されたルノー・4CVに乗り込んだ。


「家は何方に?」

「ここから六つ先の角を曲がった通りです」

「じゃあ、そこまでお送りします」


数日間だが、彼女の通勤・退勤を守るように言われた彼はエンジンを掛けるとそのまま走り出す。


「それで、事件を外されたことで時間稼ぎはできると思っているのでしょうね」

「警察が軍の圧力に負けたと?」

「向こうはそう思っているでしょうね」

「?」

「だったら、こっちはこっちで手を打つだけです」


そう言うと、彼はハンドルを動かしてパトロールという名のドライブを楽しんでいた。


「その年で警部補ってことは……」

「はい、公務員試験に受かった身です」


そして二人は車内で他愛もない世間話をしていた。


「ほう、それは凄い。エリート階段だ」

「いえ、そんな……」

「大学には?」

「……行ってません」


そう答えると、ルコックはやや驚いた目を見せた。


「ってことは独学かい?」

「ええ……田舎者が大学に行ける学費なんてありませんでしたし。何より、大きな街に出るならここかなって思ったので」

「出身は?」

「遠い田舎です。なにせ、狩猟をしていましたから」

「なるほど、そこで銃の腕前を磨いていたんですね。噂は予々聞いていますよ」


彼はそう言うと、ハンドルを動かして時折後ろのミラーを確認していた。


「さて、もうすぐ着きますね」

「ありがとうございます」

「いえいえ、これも仕事のうちですから」


そう言うと、そのまま彼女の家の前でパトカーを止めると。そこでジュリーは車を降りた。


「明日の出勤時間は?」

「大体八時くらいですね」

「そうですか……」


そこで時計を確認しているルコックにジュリーは言った。


「ああ、出迎えは大丈夫ですよ」

「え?しかし……」

「自分の事すら自分で守れないのは警官として恥ずかしいですから」

「……」


彼女はそう言うと送ってくれたことに感謝をしながら自分のアパートに戻って行った。






====






「警察は護衛を付けましたか……」


その頃、ビリヤードをしながら一人の軍人がそう溢す。肩に付いた階級章は少佐だった。

年齢的に見ても異例の出世枠であると言わざるを得ない。彼の見た目からしておそらくは二十代だ。


「仕方あるまい。だが効果はあった」


そう答えるのはビリヤード台の反対に立つ一人の初老の男が答える。肩にある階級章は中将だ。こちらは年相応の階級と言えた。


「警察に影で圧力をかけてどうするんです?」

「何、今日付けてその警察官は担当事件を変えられた。これで時間稼ぎはできるだろう」


そう答えると、その青年は呆れた様子でため息を吐く。


「ではお聞きします。その刑事はなぜ照会を掛けたと思います?新米の警部補ですよ?」

「部屋の遺留品では無いのか?」

「その遺留品が問題なんです」


そう言うと、青年はキューでボールを突くと。弾かれたボールがあちこちに当たったが、一つも入らなかった。


「遺留品?あの写真だけで辿り着くと思えないが?」

「タバレ探偵の思考力は異常です。他に証拠品はありませんが、彼が指示をして照会を掛けたのなら納得が行きます」


そう言うと、初老の男が付いたボールはそのままボールを入れた。『相変わらず下手くそだ』と初老の男は溢していた。


「今なら間に合います。私に良い考えが」

「……何をする気かね?」


そう問いかけた初老の男に青年は薄い笑みを浮かべていた。






====






翌朝、結局ルコックによるパトカーの出迎えを受けた彼女が通勤すると。そこでアンドレイから言付けがあった。


「ジュリー、お前に電話だ」

「え?誰からです?」


そう聞くと、アンドレイは早朝にあった電話相手を言った。


「軍務省の人事課だそうだ。この前の電話の一件で間違いがあったらしい」

「間違い?」

「ああ、掛け直すと言ってある」

「わかりました」


そう言い彼女はテーブルにある共用の電話の受話器を取ると、横でアンドレイが言う。


「多分、例の軍人の話じゃないか?」

「だと良いんですけど……」


そう答えると、電話が繋がった。


「あっ、もしもし?電話変わりました、ジュリー・ジュネスト警部補です」


そう言うと、そこで彼女は何度か相槌を打った後に思わず溢す。


「はい……え?間違いだった?」


その電話口の先、軍務省の人事課の人物はジュリーの言葉に頷いた。


『はい、こちらに手違いがありまして。えーっと、マイント・カーディッシュとジーン・ガードナーは嘗て別々の砲兵にいたみたいです』

「は、本当ですか!?」


慌ててメモを取る彼女は続けて聞いた。


「どこの部隊に居たとか分かりますか?」

『ええ……ですが戦争中に壊滅して解体されて再編された部隊ですよ?』

「構いません」


そう言うと、彼女はそれぞれの被害者の所属していた部隊を記していた。






「手違いだったのか……」

「はい、でも配属された部隊は結構点々としていました」


報告を上げると、会議室でジェブロールは軽く畝る。


「手違いなんてあるのか?」

「まあ、あの頃の書類なら手違いがあってもおかしく無いかと……」

「それもそうだな……」


地獄の戦場と呼ばれたあの戦争は警察からも何人か徴兵をされた。主に白魔術師を中心に……。

その時に無数に起こった戦闘で砲兵隊が壊滅したする事もよくある話だろう。砲兵隊は居場所がバレれば即座に狙われる上に、魔術師の中には遠目の異能を持つ者だっていると言われており、砲兵隊の損耗率はなんなら通常の歩兵よりも狙われることが多かった。


「聞きましたが、何処とも被害者の共通点はありませんね」

「同じ部隊とかは無かったのか?」

「はい……」


そう答えると、ジェブロールは首を傾げる。


「うーん……だとするとさらに謎が深まるな」

「二人は戦争序盤に戦災孤児になった所を、支援金が出るからとそのまま軍に入隊したようです」

「ああ、なるほど……」


戦災孤児を軍人として差し出すと、義援金が出るのは知っていた。事実上の身売りだが、戦時下という異例の事態だからこそ許された暴挙だ。


「取り敢えず、この情報をタバレに伝えてくれ」

「分かりました」


そう言うと、彼女は新たに入った情報を直ぐにタバレに報告しに向かった。


今日から自分はタバレ探偵に事件の情報を送る通信員の役割を密かに任されていた。

自分を襲ってきた人物が何処の誰なのかわからない以上、今はこうして裏で動くようにするしか方法はなかった。

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