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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
一章 この事件の犯人は?
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Cace.4

二年前まで、この国は戦争状態にあった。

敵は共和国と国境を接する帝国。目的は国境付近にあるエルザス=ローン地方の資源をめぐっての争いだ。

この地域は石炭や鉄、魔石や感応石の鉱床が多く眠っており。戦略的にも重要な立ち位置にあった。

そしてその戦争は二年前に終結を見た。理由は、帝国も共和国も共に長年の戦争による疲弊や嵩張る国債に暴動が起こったのだ。そこで共和国と帝国はテーブルに付き、長い時間をかけて協議を重ね。エルザス=ローン地方は双方の入会地として条約が発行された。


かくいう自分も戦争中は徴兵されかかった身だった。






「こっちの状況は?」

「おい、そっちの資料をくれ」


刑事部のデスクで大勢の刑事たちが今日も事件の捜査を続ける。

その中の一人、新米警部補のジュリー・ジュネストも配属早々にある事件を担当していた。


「おい、あいつ何処行ったか知らないか?」


するとジュリーがいない事にある刑事が聞くと、別の刑事が答えた。


「あいつなら、多分地下の射撃場だ。今日は射撃訓練だと思うぞ」


そう答えるとジェブロールがため息を吐いて言った。


「はぁ〜、こっちも人手が欲しいってのによ」

「おいおい、おまえさんには言われたく無いな」

「そうだ、ジュリーをこき使いパシリにしているお前にはな」


そう答えると彼らは笑っていた。






同じ頃、射撃場では発砲音が響いていた。

射撃台にはジュリーが両手に共和国製自動拳銃(Mle 1935A)を握っていた。

今の警察用の拳銃であり、軍用はもっと大型の自動拳銃(Mle 1950)であった。

今の警察の主な装備品はピダーセンデバイスを装備可能に改造したボルトアクション小銃(MAS-36)や、同じ7.65x20mmロング弾を使用できるこの拳銃であった。そんな最新式の半自動小銃(MAS-49)なんてウチにはございません。


「流石は同期一番の射撃能力だ」


撃ち切った後、弾倉を抜いて残弾を確認しているとジェブロールが声を掛けてきた。


「あっ、警部!」

「なかなか姿を見ないから、呼びに来たぞ」

「すみません。ご足労をおかけしてしまって」


そう言いジェブロールは近づいて穴の空いた的を見ると、そこには人型に正確に命中している跡があった。


「この腕なら軍でも採用されるだろうな」

「いやですよ、あんな陰気くさい場所に就職だなんて……それに給料悪いですし」


彼女ははっきりとそう答えると、支給された拳銃を片付ける。


「言っておくが、ここも安月給だぞ?」


戦争が終わり、軍縮の煽りをモロに受けている軍部は素寒貧であり、待遇も悪い。おまけに戦時中でも無いので彼女の腕前があっても雇ってもらえるかどうかは定かでは無い。


「まあでも……確かに、それなら刑事になるほうがマシかもしれないな」

「まあ、滅多に撃ちませんしね」


彼女はそう答えると、そこで思わず口にする。


「事件、進展がありませんね」

「あれ以降向こうは一切動いていないんだ。無理もない」


最後にあの廃工場の時間があってから一ヶ月。あれ以降事件に動きはなく、証拠も集められていたが。手掛かりとなる指紋も無く、捜査は行き詰まっていた。


「犯人はよっぽど用心深い女らしい」

「女なんですか?」


ジュリーが聞くと、ジェブロールは呆れた様子で言った。


「唯一の目撃証言が二件目の被害者の時に大家が見た姿と、その時の状況から女と見なきゃどうする?」

「ああ、そうですね」


そこで納得した様子を見せると、そこで二人は刑事部の仕事場に戻る。と言うより、今更だがジェブロール警部はこの刑事部長という偉い肩書きをお持ちの人間だ。

このフランクな感覚だから可笑しくなりそうだが、普通はこんなお偉いさんに呼ばれる事は珍しいのだ。


「よお、ジュリー。部長に呼び出された気分はどうだ?」

「きついだろう。今度飲みたくなったらとことん付き合ってやるぞ」


周りの刑事達がジェブロールの部下として働く彼女にそう話しかけると、彼女は少し申し訳なさげに答える。


「大丈夫です!先輩方にご迷惑をかけるわけには行きませんから」

「いやいや、君みたいな若い女性を倒れるまで働かせたら俺たちが怒られるからやめてくれ」

「無理は禁物だぞ。ただでさえ時間のかかりそうなヤマを押し付けられたんだ」


彼らはそう言うと、そこでジュリーは聞いた。


「ところで証拠はどのくらい集まったんですか?」

「今は行き詰まってるよ。進展無しだ」

「聞き込みしても時間が時間なだけに目撃情報も少ないしな」

「夜中に狙った犯行ですものね……」

「でも銃声すら聞こえないものなのか?」


そんなジェブロールの疑問にジュリーが答える。


「使われた.380ACP弾は亜音速弾ですので、消音器との相性は抜群です」

「ほう……」


納得したジェブロールは相槌を軽く打つと、彼はジュリーを見て言う。


「こう言う時は、名探偵に頼むしか無いか……」

「良いんですか?」


ジュリーは聞いてしまうと、ジェブロールは頷いた。


「ああ、タバレの実力は指折りだ。今度、何か困った事があればコニャックを土産に相談に行くといい」

「そんな何でも屋みたいな……」


思わずジュリーは苦笑してしまっていると、ジェブロールはジュリーに幾つか書類を手渡す。


「と言うわけで、紋様事件に進展があるまで。いくつか仕事をこなしてもらうぞ」

「え、えぇっ?!」






====






「いきなり事件を一人でこなせだなんて……」


自分のデスクの上で頭を軽く抱えながらジュリーはそう溢す。

今まで確かに何件かの事件を部長の補佐で学んできたが、いきなり手渡されるとは思って居なかった。


「頑張れよ」

「窃盗ならそれほど問題じゃないな」


先輩刑事らは彼女が受けた事件を見てそう言うと、ジュリー自身はその中身を見ていた。


「ええと……内務省の鞄の窃盗に、外務省の暴行事件。中央官庁ばかりじゃ無いですか……」


事件現場を見ながら彼女は仕事を片付ける。

ここルテティア警視庁の管轄は共和国の首都全域に渡り、刑事部はそこで起こった殺人などの事件を主に管轄している。


「……あれ?」


仕事を片付けている途中、ふとジュリーは疑問に思った。


「部長」

「何だ?」

「あの紋様事件。地方でも同様の事件が起こったのなら、普通上に上がりません?」


基本的にルテティア警視庁の捜査範囲はあくまでも首都ルテティアのみ。地方県での事件が確認されたのであれば、その所管は自動的に全国規模に捜査権限を持つ国家警察局に移管されるのが決まりだ。

そんなジュリーの疑問にジェブロールは煙草を取り出す手が一瞬止まると、後ろで先輩刑事が答える。


「簡単な話さ、上は今。大忙しなのさ」

「?」

「ほらよ」


そう言い、彼が目を向けた先を見ると、そこには夕方のニュースが報道されていた。


『今回、議会にて決定しました改訂エルザス=ローン協定に市民の反発も強く。ルテティア警視庁は機動隊を導入し、これを鎮圧しました』


そう言うと、白黒の映像と共に火炎瓶を片手に持つ民衆が装甲車(EBR ETT)に向かって火炎瓶を投げ。放水銃を搭載した装甲車(パナール178B)に反撃を喰らっている映像だった。


「今度の法案、確かエルザスの共同統治を半永久的に行う話だったか?」

「帝国相手に下手に出るのかと思っているんでしょうね」

「こっちとしては迷惑な話だ。暴行容疑で大量に人を捌かなきゃならんからな」


そう言った矢先、ジェブロールのデスクの電話に連絡が届く。


「はい、こちら刑事部……はい、分かりました」


そこで電話を置くと、部屋にいた全員に手を叩いて注目させた後に言った。


「今日のデモで逮捕された奴が送られてくる。準備してくれ」


そう言うと、部屋にいた全員が思わずため息が漏れる。


「やれやれ」

「今日は寝れませんね」


そう言いジュリーは残っていた報告書を面倒なお客が来る前にさっさとタイプライターで書き上げていた。






====






同じ頃、タバレは三件目の被害者であるジーン・ガードナーの自宅を訪れていた。


この一ヶ月、あの紋様に関する事件に進展は無い。理由は簡単で、死体について居た紋様以外に事件に関する共通点は見つかって居ないからだ。犯行動機は不明、殺害方法も点でバラバラで共通点はない。

ただ一つ重要な事は、犯人は自殺に見せるようにして殺していると言う点だ。

この自殺に見せかけての殺害は何かしらの意図があるべきだろう。


「用が済んだら、鍵を置いてとっとと帰ってくれよ」


ここの大家が無愛想にそう言い、廊下を歩いて行った。

部屋に残ったタバレはそこで遺留品が回収された殺風景な部屋を探す。すでに借主の居なくなったこの部屋は今は無人であり、残って居た荷物などはすでに警察が遺留品として回収していた。


「運が良ければ何か残っているといいが……」


最悪、あのジュリー警部補に頼んで遺留品を見せて貰えば良い話だ。彼女は少し押しに弱い印象があった。頼んだらその遺留品も触らせてくれるかもしれない。


「……」


箪笥には彼女が使って居たのだろう下着や私服が丁寧に畳まれてしまわれていた。警察は事件に関係ないと思って持っていかなかったのだろう。


「被害者は大層な綺麗好きだったのか……ん?」


そこで彼は箪笥の服に挟まっていた紙切れを手にする。

それは新聞の切り抜きで、記事には二件目の被害者であるマイント・カーディッシュが自殺した記事が書かれていた。


「この記事……」


そこで彼は大家に頼んで電話を借りると、ジュリーに電話を掛けていた。


『はい?ジュリー・ジュネスト警部補ですが?』


少々苛立った様子で彼女が電話に出ると、そこでタバレは言った。正直、警部よりも彼女の方が色々と頼みやすい。


「ああ、ジュリー警部補。至急調べて欲しいことが……」

『はい……?』


そこで彼女は聞き返すと、タバレは言った。


「三件目の被害者のジーン・ガードナーの遺留品に、新聞のスクラップブックが無いかどうか調べてほしい」

『え?』

「頼んだ」

『あっ、ちょっと!!』


そこで受話器を置くと、タバレは大家に電話があれば呼んで欲しいと言ってジーン・ガードナーの部屋に戻って探索を続けていた。






そしてタバレから調査依頼を受けたジェリーは叫ぶ。


「どうすれば良いのよ!!」


彼女の目の前には顔を機動隊に殴られて怪我した一人の若い女性が座っており、彼女は逮捕されたデモ参加者に事情聴取を取っていた。

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