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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.26

「…」


最初に、グレース・パトリアを撃った犯人はメメント・モリではない事はすでに確信している。それは証拠となる銃弾から発覚している。


1919年、この線条痕に関する論文が上がった。

ライフリングの施された銃身に噛み合い、回転しなら直進をする事で射程を確保する現代の小銃において、銃弾ですら立派な証拠となる。


「これなら…無理にでも聞いておくべきでした…」


軽く吐息をしてタバレは死亡した被害者の写真を見る。

彼女が病院を逃げ出す前に読んでいた手紙は、遺体を発見した時には無かった。おそらくあのフードが持ち去ったに違いない。だから何が書かれていたのかも不明ときた。

ロンデニオンでの彼女の怯え具合は尋常では無く。常に目が震えていた。


「…」


彼女は狙撃前、カレドニアヤードに保護を求め、その情報は共和国にも届いていた。だが共和国はそれが虚偽だろうと思って拒否をした直後の狙撃。あの時の死にそうな顔をしていたルコック達を思い出す。


「釣り出す為だったとはな…」


あの狙撃を行った人物は、彼女の腹部を狙った。

そして狙撃事件によって真犯人を誘き出そうとした。そして狙撃を行った人物は、共和国の軍関係者と推測していいだろう。そしてその事実を伏せままグレース・パトリアは撃たれた。


「とすると…」


軍は被害者の共通点をすでに把握し、誰が狙われるかも分かり切っている。と言うことを指している。


「軍か…」


タバレはそこでボードの中心に貼られた集合写真を見る。今起きている事件は、何かしら軍と関わりを見せている。

あの特徴的な部隊章に描かれた花は『サクラ』と言うものというのを、先ほどここを訪れたジュリーから聞いた。

彼女はたまたま机に置いていた部隊章の書写しを手に取って、少し懐かしそうに見た後に呟いた。


『これ、サクラですか?』

『サクラ?』

『ええ、東洋に咲く花です。何でも春先に綺麗にこんな感じで咲くとか』

『知っているのですか?』

『いえ、昔にこの花と同じ絵葉書を貰ったことがありますから』


聞くところによると、この花はサクラと言うそうで、なぜこのような花が部隊章になったのかと、ふと疑問に思ったが、この顔つきからして、おそらく東洋から連れてこられた部隊なのかと推測した。であるなら、故郷を思い起こす何かを部隊章にするのは理解できた。


「軍と関わりを持たないといけないのか…」


タバレは部隊章を机に戻してから再度考える。

この事件というものは、何かしらに置いて必ず『軍』が関わっている。

ただ、当時の事件現場から感じ取られるのは、あくまでも犯人は自殺に見せかけた犯行にして、穏便に事を済ませたがっている様子が最初は見受けられた。


「あまり関わりたく無かったんだが…」


軍はどちらかと言うと、警察を引っ掻き回して妨害を行い、あえて事件を目立たせようとしている節がある。そして警察とは別のやり方で独自に犯人を捕まえようとしている。

直接対峙したが故に分かるが、犯人は恐ろしく魔法の使い方が上手い。同時に五つの魔法が展開できるなど、正直本当に人なのかと疑いたくなる所業だった。

それを軍が知っているのかは不明だが、独自に国内で動いているのを前に、警察も警戒を強めていた。


もともと共和国の歴史上、軍というのは基本的に疎まれる存在であった。あくまでも軍は対外的問題に対処する必要のある武装組織であり、体内的問題に口を出す事は、警察力阻害の何物でもないからだ。

だが、いまの軍部はそんな危険を冒してまで警察に妨害を行っている。


いまの政権は穏健派が音頭をとっているが、市民感情はこの連続殺人に軍人や元軍人の被害者が多い事から、先の戦争も含めて市民の世論は徐々に反帝国に傾きつつあった。


「軍は煽っているのか?」


一通り考えを巡らせた時、タバレは考える。

現在、市民感情は対帝国を意識した世論に変わりつつある。この状況を、開戦を求める軍内部の工作と考えるのなら、ある程度は理由がつく。…が、


「だがロンデニオンの一件でそれもわからなくなったな…」


あの時、軍は真犯人を誘き出すために行動を起こした。そして犯人は釣られたが、まんまと対象を殺害した。

あの犯人は、誰かを意図的に殺害している事は明らかだ。そして殺し回っているのは、この軍の集合写真。

どこかの砲兵隊で、部隊章も意匠を凝らしたもの。


一体、どこの砲兵隊なのやら…。





====






ある場所、僅かな太陽光しか差し込まない薄暗い部屋で、ある男が椅子に座り込む。


「まさか、貴方だったとは予想外でした」


そして穏やかな表情で反対の席に座る一人の軍人を見る。その軍人は酷く怯え、顔の至る所から血を流していた。


「しょ、少佐…!」

「ああご心配なく。私は貴方にお聞きしたいことがあるだけですので」


席に座った軍人を見て、彼は一瞬驚いた。その人物は、軍内部ではエリートとして名を馳せる若き将校であるからだ。

そしてこの男は、ある資料を流出させた疑いがかけられ、秘密裏に逮捕・尋問を受けていた。

するとその拷問を受けていた軍人は言う。


「わ、私は知らない!本当に知らないんだ!!」

「何がですか?最初からお教えしてくれなければ分かりませんよ?」


座った若き少佐の階級章を下げるその青年将校は問う。その声は優しい口調だった。


「どうか落ち着いてください」


彼はそう言うと、軍人を縛っていた手錠の鍵を外す。


「最初からゆっくりと教えてくれますか?」

「こ、殺されるのでしょう!?きっとそうだ!」

「落ち着いて。私は貴方を殺すとは言っていません」


恐慌状態に陥っている彼を宥めるように少佐は言う。


「落ち着いて、コーヒーでも淹れますか?」

「…」


いまだに震える彼は、そこで少佐の魔法のような雰囲気に当てられ、徐々に落ち着きを取り戻す。

そして荒れていた息を何度か大きく深呼吸をした後、彼は少佐に聞いた。


「ルメイ少佐…私は、どうなるんですか?」

「…」

「私は、機密扱いの情報を流しました…きっと銃殺刑でしょう?」


落胆する彼に、ルメイは答える。


「…マッコリー少尉、それは貴方の証言によって変わります。正直に言ってくれれば、私の方から減刑を求めることもできるんです」

「本当ですか?」

「ええ、私が保証しましょう」


ルメイは頷くと、彼は酷く安堵した様子で少し俯いた。


「少尉、最初からゆっくり。お話を伺っても?」

「…分かりました」


そこで彼は、ルメイを見ながら思い出すようにその時の事を思い出す。


「一昨年の…春頃です。私は、キーマン人事部長から七三一部隊の住民票を持ってくるように言われ、その通りに資料を集めました」

「…」


ルメイは彼の話に耳を傾ける。


「そしてその資料を持って、夕食後にキーマン部長に渡す予定でした」

「資料を持ち出したのですか?」

「はい、それがキーマン部長の要望でした」


彼は拷問を受けた際に話した情報が、あまりにもとっ散らかりすぎていたがために、ルメイが派遣されていた。


「そして私がオフィスから帰って来た時、家がとても静かでした。いつもは妻と娘が夕食を作って待ってくれていることが多かったのです」


彼はその時の様子を、軍人らしく落ち着いた様子で紡ぐ。


「ですが、なぜかその日はとても静かで、少し不気味で…それで私は家族が出かけたのだと思っていました」


そこで彼は一瞬、息を止めてから口を開く。


「そして家のリビングに入った時、()()が居たんです」

「ヤツ…とは?」

「例の、殺人鬼ですよ」


そこで見た人物はテーブルに腰をかけ、その側で椅子に縛られて顔をバンダナで覆われた家族が座らされていたと言う。


「奴は私に銃口を向けて言いました。『静かに。手荒な真似はしたくない』と…」


そして家族を人質に取られたマッコリーは、犯人に言われた。


「犯人は、鞄を渡すように言いました。当然、渡せるわけがありません。あれの中には個人情報が入っていたんですから」


彼はそこで抵抗をしたと言う。『鞄の中には何もない。財布と本以外は何もない』と。


「ですが次の瞬間、奴は持っていた銃の引き金を引きました。…気絶弾でした。私と家族はそれをモロに受けて、気づいた時には…」


鞄の中身がなくなっていたと言う。


「…」


鞄の中には、ある部隊の隊員の住民票がまとめられていた。それを丸ごと持っていかれたと言う。


「…その姿は?」

「分かりません。何せ、奴は黒いローブを羽織ってしましたから…ただ、銃はFN M1922でした」

「…」


銃の種類は、今まで確認された銃と同じだった。なるほど、これほど早い動きには確かな理由があった。


「だが奴は、七三一砲兵隊のことを聞いて来たんだ」

「っ…」


そして彼の言った一言で、僅かにルメイは目をぴくりと動かす。


「気絶する直前でした…。奴は『これで七三一部隊を救える』と言っていました」

「…」


そして話し終えた後、ルメイは言った。


「分かりました。…マッコリー少尉、貴方は勇敢だ。これまでの失礼を詫びます」

「っ!少佐!!」

「私の方から、ファブール少将にお伝えしておきます」

「あ、ありがとうございます!!」


彼は心底安堵した様子でルメイを見ると、彼は席を立って部屋を後にする。


「流石だな」


部屋の外で待っていた少将の階級を下げた男は、ルメイを見ると感心した様子で彼を見ていた。

反対に、ある程度整った情報を知り得たルメイは危機感を表す。


「いや、それよりも別の問題が出て来ました」

「ああ、まさかキーマンの名が出てくるとは予想外だ」


そこで二人は通路を歩く。


「キーマン人事部長は…穏健派の軍人ですね」

「ああ、だとしたら納得だ。メメント・モリに協力しているのは…現政権だ」


ジュール・ファブールは少し深刻な表情で呟く。


「ほぼ確実にそうでしょうね」

「…厄介だな」

「ええ、現政権は我々の存在を把握している可能性が高い」

「だから秘密裏に処理をしたいのだろう。面倒な…」


二人はカツカツとやや急足で歩く。


「どう対策をする?」

「…対症療法しか今はありません」

「一カ所に集めるのか?」

「その方が分かりやすいでしょう…この際です。なりふり構っていられませんよ」


その時、ルメイの顔を見たジュールはやや驚いた表情を浮かべた。

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