表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

24/26

Cace.24

ロンデニオンでの一見より一週間後、『紋様事件』に関する進展は完全に暗礁に乗り上げたと言っても過言ではなかった。


「どうしたものか…」


ジェブロールは本日何本目かもわからない煙草に火を付けて天井を仰ぐ。

現在、国家警察総局に捜査権を完全に移管され、警視庁の刑事部は動けなくなってしまった。

理由はロンデニオンでの護衛対象死亡による責任であった。


「俺たちは完全に捜査から外されちまった訳だ」

「えぇ、何せ俺たちは護衛対象のマドモアゼルを死なせてしまいましたからね」

「おまけに病室から逃した事で大目玉を喰らいましたよ」


ジェブロールのぼやきにルコックとアンドレイが返す。


「むしろここをクビになってないだけまだ温情があると言ったところか…」


そこでジェブロールは一気に吸った煙草の灰を灰皿に捨てて煙を吐き出す。


「でもお陰で少しここも静かになったもんです」

「えぇ、完全に捜査から外されましたからね」


そこで警視庁の刑事部の少し静かになった仕事場を見る。

相変わらず大量に舞い込んでくるルテティアの事件の資料で押し潰されそうだが、これでも『紋様事件』に関する情報が消えたことで少しはマシになっていた。


「今頃、上は何をしているのかね…」


そこでジェブロールは天井を見上げていた。




その頃、ルテティア警視庁上層部は困窮していた。


「どうしてだ…」

「刑事部の報告ですと、保護対象は手紙を受け取った直後に脱走したと報告が…」

「そんなことはどうでもいい!!」


報告を前に警視監は叫んだ。


「刑事部が失敗したから、我々は国家警察総局から捜査を外されたんだぞ!!」


彼が憤っていたのは『紋様事件』の捜査から外された事についてだった。


「事件件数が最も多いのがウチだというのに外されるとはどういうことだ!」

「それは…」


現在起こった事件の地域の中で最も事件現場が多いのはルテティアであった。


「それに、刑事部は外部に情報を漏らしていたという噂があるが?」

「っ…」


無論、それはタバレへの情報提供であったが、刑事部部長は過去のタバレの卓越した推理能力と自分達への貢献度から協力者として目を瞑っていた。


「噂は噂です」


刑事部部長はそう答えると、警視監はじっと警部部部長の目を見つめたまま言う。


「そうか…ならいいんだが」

「くれぐれも気をつけれくれたまえ。ただでさえ…」


そこで警視監は最近この部屋に導入されたばかりのテレビを見る。


「国内は『帝国強硬論』が叫ばれているんだからな」


そこでは戦争再会を希望する民衆によるデモの映像が映し出されていた。






====






その頃、タバレは部屋で一人席に座って考えていた。


「…」


考えているのは一週間前のあの事件。

初めて接触したメメント・モリや、グレース・パトリアを撃ったであろう張本人のフードを被っていたあの人物。


フードを被っていた人物の話から察するに、確実にあの人物がグレース・パトリアを撃ったに違いない。

元々は彼女を囮にメメント・モリを誘い出す計画だったのだろう。しかしその事を彼女自身は知らなかった。

可哀想な話だが、彼女は傷つけられるべくして撃たれたのだ。


「そしてまんまとメメント・モリは釣られて、あの場所に来た…」


五つの魔法の同時展開が可能な怪物級の存在。少なくとも共和国では一級魔術師として優遇される能力を有している。

一般的な魔法が使えない異能者の自分方すると羨ましい限りではあるが、今はそれどころではなかった。


「あのフードを被った男は誰だ?」


少なくともグレース・パトリアと密接した関係を有し、主語が男性でしか使わない言葉を使っていた。なのでこれからはフードの男と仮称しよう。


「あの特徴的な訛り方の共和国語は、私も聞いたことがなかった…」


あのフードの男がグレース・パトリアと話していた時の喋り方は特徴的であった。しかしそれはグレースにも言える事だった。


「彼女自身、喋り方は少し堅苦しかったな…」


そしてフードの男はメメント・モリを見た時、殺意をあらわにして発煙弾だと分かった瞬間に闇雲に拳銃で撃っていた。

メメント・モリ自身、薄らと見えた拳銃には薬莢入れが取り付けられていた改造をしていた。


「彼はメメント・モリの事を知っている人物でもある…」


あのカタコンベで、フードの男は誰に聞かれた訳でもなく、メメント・モリの名をつぶやいた。

それはつまり、あのフードの男にもメメント・モリは接触を行っていたと言う事になる。



ーーそして何より、彼はグレース・パトリアを殺そうとした。



「共和国の人間なのはまず間違い無いだろう…」


訛りのある共和国語を喋っていた訳だが、彼女の前にメメント・モリが現れた以上、模倣犯である可能性は払拭された。

そしてフード男が持っていた銃はグレース・パトリアを狙撃し、前の銃殺で使われたものと同じ銃弾を使用できる。


「パトリア氏は言っていたな…」


そこでタバレはグレースがフードの男と話していた時の会話を思い出す。



ーーあなたなら分かるはずよ!私が何か喋ったら、あなたの元に届くんじゃないの?!



半ば確信していた様子で、すがるように言っていた彼女の言葉は本物。とすると…


「あれの犯人は警察関係者か…」


しかし警察関係者の中でも特段メメント・モリを抹殺したいと願う組織。

それに当てはまるのは一つしかなかった。


「…軍部か」


現在、国家警察総局で合同捜査を行なっている国家憲兵隊。憲兵隊の名の通り、その背後には共和国軍が居る。

かつて、その名を世界に知らしめた大陸軍(グランダルメ)。その血を受け継ぐ大陸最強級の陸軍は、今回の事件で優秀な魔術師を失っていた。

最も手痛い被害を受けていると言ってもいいだろう。


「彼らの目的は戦争か?」


今現在、世間ではこの紋様事件の被害者がいずれも軍人なことから、『帝国の仕業である』と言うのが噂で囁かれていた。故に今日も街のどこかでは開戦のシュプレヒコールが叫ばれているのだ。


ただタバレとしては、この説は否定していた。

なぜならまた戦争が終わってから二年程度しか経っておらず、国もなまじ引き分けで終わったので、今は戦時国債の支払いに政府は追われている。今は超緊縮財政となっており、その影響で公務員の採用枠が大幅に消えていた。

また軍もこれ以上の継戦は望めないし、政府閣僚としてはこれ以上戦争を行いたくなかった。


領土を事実上失ったとはいえ、その地域がもたらす経済効果は共和国も貰い受けており、そこでの利益は戦時国債返済の為に使われていた。

帝国内のゴタゴタを使い、自分達に有利な条件を得た共和国政府はそれで良しとしていた。


「いや…だとしたらもっと派手に行うはずだ…」


しかしタバレはその可能性を消した。

今の軍は緊縮財政の影響を一番受けており、これをやる証拠は揃っている。だが動機が無いのだ。


「軍が動くならもっと派手に広告をうっているはずだ…」


タバレはそこで椅子から立ち上がると、目の前のピンを大量に刺されたボードを眺める。

そのボードは共和国とロンデニオンを含めた巨大な地図であり、そこには大量に写真とピンが刺され、どれもこの『紋様事件』に関するものであった。


「フードの男は軍部関係者で、紋様事件の詳細をすぐに知ることができる…重要な人物」


おそらくは将校、最低でも佐官クラスの軍人だ。

現在分かっている『紋様事件』の被害者は七名、いずれも首元に紋様が確認されている。


「そもそも紋様はどうやって作っているのだ?」


タバレはそこで今まで集められた遺体の写真を眺める。

あの紋様はグレース・パトリアにも現れており、遺体を運ぶ際にはすでについていた。

しかし病院で見たときに彼女の首元に紋様はなかったので、死亡後につけられたとみて良いだろう。


「死体の紋様は刺青でもない…」


魔法学会ですら匙を投げた一切不明な魔法。どうやら精神に作用する魔法らしいと言うのが今のところ出ている結論だ。

知り合いの魔法学者が頭を抱えており、その素性解明のために珍しくあの研究者たちは協働して作業に当たっているという。


「死体に触れる事を禁じられている以上進むのか?」


そんな懸念をしながらタバレはボードを再度見つめる。

現在この事件には多くの証拠が並んでおり、それでいて隠された証拠もある。


「…」


これほどの証拠があると言うのに犯人像は一切つかめない。

どのような特徴の犯人なのか、一体どうしてあの砲兵隊の面々を殺害してまわっているのか、タバレはいまだに結論を出せずにいた。


「目に見えているものが全てではない…か」


丁寧な共和国語で書かれたそれは、まるで国語の教科書に書かれていた文法を記したようだった。


「…」


そこでふとタバレは閃いた。何かが繋がった気がした。


フードの男やグレース・パトリアの訛っていて、少々堅苦しい言い方の共和国語。

そしてメメント・モリ直筆の硬い書き方と教科書のような文法。


「もしかして…」


そこで顎に手を当て、自然に伸びた無精髭を摩りながら思考の整理をする。




「犯人は彼らの知り合いなのか?」




そこで彼は再びあの砲兵隊の写真を見る。砲兵隊の写真の人数は全てで三〇名。

通常の共和国軍の砲兵隊では圧倒的に足りない人員であり、この人数では五門の大砲を動かすので精一杯。


しかし部隊の階級章はこの規模にしては一般的だが、一人飛び抜けて階級の高い人物がいた。


「大尉…」


写真中央に映る若い青年、少々平べったい顔つき。この年齢にしては高い階級をしていた。

改めて見ると部隊全員が東方の国の顔つきをしており、外人部隊のようにも思えた。


別に外国人で構成された部隊は、この国ではそれほど違和感を持たれない。なにせ苦力(クーリー)と呼ばれる今世紀の奴隷とまで言われた人々がその東方の国から共和国に来たりしているのだ。

戦争末期は戦力不足の関係で彼らだけで構成された部隊が戦闘に参加した記録も残されている。


「…」


タバレはそこで、今ある証拠で犯人像を作り上げていた。


犯人は多数の魔法を展開できる異能者のようは魔術師で、女の可能性が高い。

身長は一六五ほど


「…ん?」


そこでふと、タバレの手が止まった。


「おかしい…あの時みた奴の身長は一七〇はあるはずだぞ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ