Cace.21
無秩序な報道に対するテレビ局のやり方に対し、警察関係者は頭を悩ませていた。
過度に個人の居場所を追求する事はストレスを生む上に犯人に犯行をさせやすくしてしまうからだ。
時代はテレビによる報道が始まった頃。まだテレビに対する扱いがよく分かっておらず、その上テレビと言うものが急速に家庭に浸透しつつあった事もあり。他の元の新聞や映画と言った報道機関がとくダネを狙おうと血眼になっていたのだ。
「少しは報道規制も強いて欲しいもんだ」
「できると思います?報道の自由かざして文句言いますよ」
「政権批判で転覆を恐れて政治家は何もしないだろうよ」
ロンデニオン南郊の空港、クロイアン空港近くの病院にグレース・パトリア移送した後、タバレ達は疲れた表情を隠さないで病院の待合室で話す。
「しかしこれで報道機関の目は欺けました。あとは出発の準備を整えるだけです」
タバレはそう言うと、窓の外を見る。彼も報道機関の目には非常に警戒しており。カレドニアヤードにも秘密裏に連絡を行っており、警官は全員私服で来るように言い。報道機関に情報を流されない為にも最小限の人数で、尚且つ元いた病院には囮を置かせていた。
「そうだな、向こうの手筈が整うまで待つしかないな……」
今頃は本庁でジュリー達が書類と格闘しながら報道機関に漏れないようにヒーコラ言っているだろう。
ルテティア警視庁では今でも多くの人間が被害者の移送と、収容先の選定で大忙しだと聞いている。なるべく数日以内に決まって欲しいと思いながら四人は外の景色を見ていた。
私が記憶に残っている時から、私の周囲の環境は大きく変わった。
撃たれた傷は既に動ける程度まで治っており、つい先日。私は元いた病院から袋に入れられて運ばれた。
確かにずっと病院の外を多くの人が私を目当てに入ってこようとするのを見ていて怖かったので、少し有り難かった。
でも、また共和国に帰る事になるなんて思いもよらなかった。
正直、私はあそこに居たくない。あそこに居るのが怖い。
どうしたって思い出してしまう。
ーーあの時の事を。
ーーあの時の景色を。
ーーあの時見た人の声を。
今でも大きな音が聞こえると怖い。手が震えてしまう。
共和国の地に立つとどうしても足が重くなる。私の達の撃った砲弾が遠くで爆発し、それと共に前進し始める仲間の兵士達。
野戦病院に運ばれた友人が痛みで叫び倒す景色、今でも私の名前を呟きながら血だらけで手を握ってきたのは鮮明に覚えている。
「ッーーー!!」
それを思い出した時、途端に喉をせり上がってくる何かを感じ。我慢できずに近くにあったゴミ箱に出してしまう。
「はぁ…はぁ……」
二年前から忘れられない、私の思い出……私は怖くて戦争が終わってから共和国から逃げ出した。
私の心が叫んでいたのだ、『あそこに居てはいけない』『共和国から逃げなさい』と……。
そしてその心に従うように、私は海を渡って連合王国で静かに暮らし始めた。
友人を共和国に置いて行った事は今でも負い目に感じており、それが余計に共和国に行く自分の足を竦ませていた。
「ははは…最悪……」
これから私は強制的に共和国に行く事になる。
恨めしい、私たちから永遠の平穏を奪った諸悪の権化。
私たちに戦争を教え込んだ共和国。
私たちを呼び出し、剰え戦争を知らない私たちに甘い蜜を垂らしてこき使った軍人。
私は共和国を、共和国軍を恨んでいた。
「ハハハ……」
もういっその事、このまま全て忘れ去りたかった。
するとその時、
『グレースさん?入ってもよろしいでしょうか?』
「ど、どうぞ」
扉を誰かがノックすると部屋に入ってきた私服警官の人がグレースに一通の封筒を手渡してきた。
「グレースさん、」
病室の扉をノックし、タバレは部屋からの返事が無かったので少し目元を細めて警戒しながら部屋に入るとそこではグレースがベッドの上で部屋に入ってきたタバレを少し警戒した目で見ていた。
「大丈夫ですか?」
「えっ、えぇ…大丈夫です…」
そしてタバレを見て少し安堵した様子で胸を撫で下ろす彼女にタバレは少し不審になって彼女に聞く。
「何かありました?」
「いえ、何でもありせんよ?」
少し笑って答えるグレースに、タバレは彼女の元に寄り添うように答える。
「何か不安な事があればお伝えください。こちらから人を寄越しますので」
「はい、その時はよろしくお願いします」
グレースはそう答えると、タバレも部屋を後にしていた。
「警部」
「何だ?」
病室を後にしたタバレはジェブロールに伝える。
「少々、移送を早めた方が良いかもしれません」
「なぜだ?」
その問いにタバレは先ほどの病室で見たグレースの対応を伝える。
「先ほど、病室に入った際に彼女は何か隠し事をしている様子でした」
「…」
「もしかすると、何か脅迫の類を秘密裏に受けた可能性があります」
あの動揺の様子から感じたタバレの推測にジェブロールは少し考えた後にタバレ以外の他の警官等を呼びつける。
「できれば今日の晩に移動しよう。至急飛行機の手配だ」
そう言い残すと、タバレは警官達に伝達を行い始めていた。




