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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.20

一応年代は1950年代後半をイメージしてます。

七月十日

連合王国 首都ロンデニオン市内の病院


そこでこの日、タバレは一人の女性と面会をしていた。


「それで、狙撃された時の状況はよく覚えていないと?」

「はい……」


病院のベットの上で、狙撃を警戒して窓をカーテンで塞がれた病院の一室で答えるのは一週間ほど前に自宅で狙撃された現在は注目の的の女性、グレース・パトリアその人であった。


「気づいたらこの状態でしたので……」


そう答えると、彼女は脇腹の病院着の上でもわかる程に膨らんだガーゼに一瞬目をやった。

弾丸は狙撃された彼女の左の脇腹に命中し、そのまま弾丸は摘出された。そして眠ったままであったのだが、三日前に目を覚ましていた。

彼女は共和国出身の孤児であり、戦時中は砲兵隊所属。砲兵勲章も賜った、年齢は二〇。被害者候補フルコンボの女性であり。共和国警察としては目が外せない人物であった。


「あの……警察の方には見えないのは気のせいなのでしょうか?」


数回の応答をしているうちにグレースは少し疑問に思った様子でタバレに聞くと、彼は短く頷いた後に答えた。


「ええ、私はタバレ・ガボリオ。探偵を生業としている者です」

「探偵……」


タバレの仕事を聞き、やや驚いた目をしているグレース。


「探偵さんがどうして警察にような仕事をしているのですか?」

「まぁ、色々とあるんですよ」

「……」


ざっくりと説明を省いたタバレの言い方にグレースはやや苦笑気味に困惑する。彼女の中で探偵と言えば依頼を受けて秘密裏に間男とか調査をしているか、もしくはコ○ンや金○一のようにがっつり事件解決のイメージの二つがあったが。タバレの印象はまさに後者であり、グレースとしては新鮮であった。


「取り敢えず、私はまた来ます。別の警部が貴方といくつかお話しするでしょうから。詳しいことはそちらの方に」

「あっ、はい。わかりました」


素直に彼女は頷くと、タバレはそのまま病室を後にする。






病室を出ると、入口では小銃を片手に警戒している様子の警察を軽く見た後にタバレは別の部屋に向かう。そこではジェブロール達が詰めていた。


「どうですか?」

「銃弾は7.92ミリ…帝国の弾丸と見て間違い無いだろう」


摘出された弾丸を見ながら彼等は考える。


「とすると本当に犯人はこの地に……」

「いや、それは如何でしょうか?」


ルコックの呟きにタバレは否定すると、ジェバロール達は首を傾げた。


「どう言う事だ?」

「この時間はいくつか不可解な点があります」

「ほぅ?」


そこでタバレは感じた違和感を口にする。


「まず初めに彼女が撃たれた状況です。狙撃事件とはいえ狙撃距離は五百メートルほど。貫通魔法を使用とはいえ二千五百メートルの狙撃を完遂する犯人がその距離を外すとは思えないですね」

「……」

「そもそも大前提として、犯人であれば射殺をしているでしょう」

「確かに……」


今までの被害者の人数は全員が死亡が確認されているし、逃げても追いかけて殺すくらいなのだからよっぽどのそれだと言える。


「じゃあ誰が撃ったんだよ」

「まさか犯人に心酔した馬鹿とか言うんじゃないんだろうな」

「否定はできません」

「おいおい……」


俗に言う模倣犯による犯行という線も捨てきれないと答えるとジェブロール達は呆れていた。


「しかし、被害者の過去の経歴から狙われている可能性は高いです。先の事件の犯人が模倣犯だった場合でも本物が現れる可能性は高いです」

「……」


タバレの意見を聞き、ジェバロールは少し唸った後に腕を組む。


「取り敢えず、本人には共和国への移送の話をつける。問題はそれからだな」

「聴取は?」

「お前に任せる」


タバレを見ながらジェフロールは答えると、他の面子も納得していた。本来であればあり得ない話だったが、今までの彼の経歴から信用の元で成り立っていた。


「分かりました。他の事は警部達にお任せします」

「おう、そっちも気をつけろよ」


ジェブロールはそう答えるとタバレを逆に励ましていた。






====






連合王国まだ波紋している紋様事件に際し、カレドニアヤードは共和国警察と共同で被害者保護と共和国までの移送が決まっていた。

移送が本人の承諾以前に進んでいるのは連合王国としてはそんな凶悪犯を国に入れたくないと言うも思惑と共に模倣犯による犯罪を防ぎたいと言う目的があった。

連合王国としてはただでさえ数に不足している魔術師の数を、魔術師を狙う犯人に殺されたくないからだった。

すでに連合王国の情報部は狙われているのが共和国の軍の魔術師である事は把握しており、そんな人物が身分を偽って連合王国市民になっていたと言う事実だけで嫌な予感しか感じていなかった。


「そう言うことで、貴方は一時的に共和国へと移送となります」


事情を説明したジェブロールはグレースの反応を伺う。すると彼女はこう答えた。


「共和国に……戻れと言うことですか?」

「はい」

「……」


ジェブロールの言葉にグレースは少し顔を下げて表情を暗くする。


「……どうかされましたか?」

「……いえ、ただ帰りたくないと思っただけなので」


その反応にジェブロール達は思わず驚く。予想外の反応に二人は一瞬反応が遅れてしまった。


「今、何と?」

「共和国に帰りたくない……このまま私は残りたいです」

「しかし、紋様事件の犯人が……」

「それでもです。私は共和国に行きたくはありません」


彼女の意思はとても硬かった。






「どうする弱ったぞ」

「しかし狙われているのは事実だぞ」


ジェブロールとルコックは困った表情で話す。


「おい、被害者が拒否したってまじか?」


そこにアンドレイも驚いた表情で混ざってくると、三人は困惑していた。


「本国に連絡は?」

「したさ」

「返事は?」

「無理にでも連れて帰ってこいとさ」

「無茶言いやがる……」


ジェブロールの返答にアンドレイは頭を抱えて天井を見上げる。

予定では彼女を安全な場所のある共和国まで移送してからの聴取を予定していたが、その彼女が移送を拒否しており、共和国への移送を拒否するとは思っていなかった。


「しかし犯人がいるかもしれない共和国にいるよりは安心なのかもしれませんが……」

「おまけに、移送中に撃たれる可能性も考えているのでしょう」


するとそこで何処から戻ってきたか、タバレが会話に混ざる。


「なるほど……」

「今はマスコミの目が激しいです。どちらにしろ彼女は別の病院に移送する必要があります」


そう答えると、見えてはいないが反対側のビルや病院に面した道路に不自然に長い期間止まっている車などを見る。


「しかし、移送するにしたって何処にするんだ?」

「何処か良い場所はありませんかね?」

「と言うより、どうやって移送するんだ。こんな監視されている中で」


共和国の警察が来ていることはまだマスコミに知れ渡っていないが、いずれはバレる事だろう。何せ、生存競争の如く各新聞社は金を積んで情報を得ているのだから。


「マスコミを欺く方法ならありますよ?」

「「「?」」」


タバレの言葉に全員の顔が振り向く。


「どうやるんだ?」

「まあ、簡単な話です」


そう言うとタバレは少しだけ悪い笑みを浮かべた後にジェフロールに話した。






====






ある晩、病院の前に車を止めているとあるテレビ局の記者はカメラを後部座席に置いたまま病院を眺める。


「……」


そしてタバコを吸いながら病院を眺めていると、車を別の男がノックした。


「どうだ?」

「だめです。何処の病室にいるかまではサッパリです」

「くそっ、なかなか口が硬いな……」


彼らは、それこそ違法行為ギリギリのラインで今回の狙撃事件の被害者を追っていた。個人名は既に把握しており、彼女が撃たれた病院も突き止めていたが、彼女への直接の取材は誰もできていなかった。


「他の奴らは?」

「同じです。先を越されていないので安心を」

「そうか……」


そう報告を聞き、何処か安堵した彼は病院の出入り口を眺める。


共和国で噂の紋様事件の犯人が狙っていると噂の彼女の映像を収めることができればこちらとしては万々歳だった。

新聞社がいち早く情報を仕入れようと躍起になっているようだが、テレビ局の面々からすると阿呆らしいの一言で終わる。それよりも問題だったのは同業他社だった。先に情報をすっぱ抜かれるのは虫が好かなかった。


「しかし動きませんね」

「まぁ、待つしかないさ」


そう話しながら彼らは病院の出入り口に出入りする人を眺めていると、そこで病院の前に一台のバンが止まる。


そのバンは病院に医薬品を運び入れる業者の様で、バンが到着するとそのまま病院から出てきた数名の看護師が籠を押して中に入れると、そのままバンは走り去っていった。






そして走り去ったバンの中、業者の帽子を外すとそこからタバレが顔を覗かせた。


「うまく行きましたね」

「ああ」


そしてその横にいたルコックが愉快そうに語る。


「まさかこうもあっさり行くとは思いませんでした」

「全くだ、居なくなった報を受けたマスコミの動きが楽しみだ」


アンドレイも同じように安堵も混ざった表情で語ると、籠の中にいたグレース自身は不安げな様子を見せていた。


「申し訳ありません。余計な情報漏洩を抑えるためにもあなたには一時的に違う病院に移動してもらいます」

「このまま共和国には行かないと言うことですか?」

「ええ、そうです」


タバレにそう諭されても、不安を拭えない様子の彼女にタバレは彼女が隠している情報が気になっていた。

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