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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
一章 この事件の犯人は?
2/25

Cace.2

「変な痕とは?」

「まあ、見ればわかる」


そう言うと、タバレ達は死体安置所の検死官に挨拶をする。


「例の死体だ。タバレに見せてやれ」

「分かりました」


そう言うと検死官は安置所の奥の冷蔵室から一体の遺体を運んでくる。


「ジュリー、そっちを」

「はい」


そして二人の前に袋に入れられた件の遺体の入った袋を開けた。


「何だ、この痣?」


そこでまず目に入った違和感があった。


「ああ、俺たちがこれが自殺じゃ無いかもしれないと思った要因だ」


そう言い二人はその死体の首元にまるで紋様のように浮かぶ不思議な痣を見ていた。


「死斑では無いな」


死体が見つかった日数的に死斑があってもいい頃合いだが、目の前の死体はまるで数時間前に死んだかのように綺麗だった。


「ああ、これがなんなのかすら不明だ。ただ、この紋様は死後腐敗を抑える作用があるかも知れない」

「かも知れない?」

「検死官が初めて見ると言っているんだ。何もわからんよ」


ジェブロールはそう言うと、タバレも少し訝しんだ目をした。

すると横でジェリーが片手にメモ帳を取り出して報告をする。


「被害者、マイント・カーディッシュにある首元の痣は形からして精神魔法系の物である可能性が高いと……」

「精神魔法?」

「はい……」


彼女の説明に驚く二人。


「よりにもよって精神魔法……」

「この事件。ただの自殺じゃ無いってことか……」


興味深げにそう呟くタバレは死体を見ると、その後言った。


「ジュリーさん。被害者の関係者に事情聴取を頼んでも?」

「あ、はい!」


そこで彼はジュリーに頼むと、一人事件現場に戻っていた。






====






事件現場に戻った彼らはそのまま調査を終えた部屋の中で物色をしていた。


「……」


クローゼットを開けて中を見ると、そこには彼の郵便局の制服や私服が掛けられており。奥には写真も飾られていた。

タバレが気になったのは、今回の被害者に浮かんでいた紋様もそうだが。自殺に使ったキノコが気になっていた。

被害者の煽ったカエンタケは非常に猛毒で、手に入れることすらも難しい。偶にきのこマニアが記念に収集することはあるが、そう言った人たちはカエンタケの危険性は承知しており。そもそも触りすらしない。


「(おまけに被害者の手に炎症の跡がなかった)」


これから自殺すると言うのにわざわざ手袋を嵌めて毒キノコを食す人間なんて普通はいない。

ブランデーにも同じ毒物が入っていたと言うことは、カエンタケをブランデーに浸したのが分かる。

そもそもカエンタケ自体とても珍しいキノコであり、東の国から仕入れる必要がある。


「カエンタケの入手ルートを調べれば良いか」


カエンタケのかけらが吐瀉物に含まれており。被害者の手元がただれていないと言うことは。直前に犯人からカエンタケ入りの何かを食べられたと言うことになる。

珍しいキノコだから、入手ルートさえ判別できれば犯人も見つかるだろうと予測していた。


目撃情報ではアパートの大家が入って行く女を午後十時に目撃している。その後の動向は不明だった。

身長は一六五センチ程、一般的な女性の身長だった。


「被害者は特段変なことはして居ない……ん?」


クローゼットに飾られた写真を見ていると、そこである一枚の写真を見た。


「彼は従軍して居たのか……」


そこには共和国の一五五ミリカノン砲や半牽引車の写真を前に集まって写真を撮っている姿があった。そして写真の前には砲兵徽章も飾られていた。

おそらく二年前に終結した帝国との戦争時の出撃前に撮られたものだろう。写っている人物の中に今回の被害者も含まれていた。


「……」


あらかた探し終わり、タバレはそのまま事件現場を後にしていた。






しかし、驚いたのはその後の事だった。


「カエンタケの入手ルートがわからない?」


自宅に報告に訪れたジュリーから言われた事実にタバレは思わず首を傾げてしまった。

カエンタケは入手ルートが限られるキノコだ。すぐに購入者が判明すると思われたのだが……。


「カエンタケ自身、珍しい物過ぎて輸入業者もよくわからないと言って居ました。私自身、そんなキノコがあるなんて知りませんでしたし……」

「……」


そこで思わずタバレは天を仰いだ。そうか、カエンタケの認知度は低いのだ。それゆえに物が分からないと言う事だ。


「それに、専門家にも問い合わせましたが。カエンタケは枯死したブナの木などに生えるそうで、最近だと共和国の森でも確認されているそうです」

「……」


よりにもよって共和国でも確認されているのかと言う驚きがあった。


「そして、被害者の関係者にも聴取を行いました」

「結果は?」

「特段問題のない生活をして居ますね。普段の勤務態度は真面目だったそうです。ただ、よく風俗店に人を誘ったり。酒を飲ませると偶に悪酔いして酷い目に遭ったと……」

「……」


特段殺されるほど恨まれるようなことにはなって居ないと言うことだ。

とすると殺された理由が不思議な物だが……。


「襲われた風俗嬢は?」

「調べましたが、彼女も当時は雨が降っていて。カチッと言う金属音が鳴った後。いきなり視界が真っ暗になったと言っています」

「……気絶弾か」

「え?」


タバレの呟きにジュリーは首を傾げた。


「気絶弾って……あの?」

「ああ、君たちもよく暴徒鎮圧などで使う気絶弾だ」


そう言うと、ジュリーは慌てた様子で反論する。


「ですが、気絶弾は軍と警察で管理されています。そんな民間に出回ることなんて……」

「二年前に共和国と帝国で戦争があっただろう?」

「…はい……」


資源をめぐった争いで、七年も続いたのに最終的に両国の和解という名の敗北で終わってしまった無駄な戦争だ。

今でもその問題はこの国に禍根を残していた。


「終戦後の混乱でそう言った軍需物資が外に流れていでもおかしくは無い。共和国は、感応石だけは大量に算出しているからな」

「……だとしたら大問題ですよ?」


感応石と魔石は戦略物資であり、その帝国との戦争の引き金ともなった物だ。

鉱山は国が管理しており、市井に出回るのは粉状などの質の低い物しか無かった。なので、感応石でできた拳銃弾である気絶弾は最低でも公的機関用のグレードであり。一発で人を気絶させる事は簡単に出来た。

そんな物が犯罪者の手に渡っているとすれば……。


「ああ、確かに問題だ。……それで、魔導レーダーの方は?」


幸いにも市内には魔法の違法使用阻止を目的とした魔導レーダーがルテティア塔に設置されており。そこから市内全域を監視していた。

魔法発動は最近はどこの通りで魔法が使われたのかがわかる程度まで改善されており、監視局に連絡を取れば日時も教えてくれた。


「監視局に連絡を取りましたが、記録ではその日は十三区の被害者が使ったと思われる降雨魔法以外確認されて居ません」

「以前に同様の魔法は?」

「同じ場所での観測はありませんでした。おそらく、初めての使用かと……」

「初犯でたまたま殺されたと言うことか……」


偶然には出来過ぎていると思った。しかし、風俗店で延滞を起こして揉めていたと言う過去もある事から延滞の理由付けで魔法を使った可能性がある為に偶々の可能性が高かった。

魔法の違法使用なんて、そんな理由で使われることが多いからだ。


「本部では、この一件をただの自殺と判断して処理をするそうです」

「自殺か……そう思うのも無理はないな」


するとジュリーはタバレに今回の被害者の今後の予定を伝えた。


「彼には身辺者が居ませんので、簡易葬を行う予定です」

「身辺者がいない?」


その疑問にジュリーは頷いた後に彼の経歴を話した。


「はい、彼の家族は戦時中に失い。彼は戦災孤児でした」

「戦災孤児……なるほど」

「部屋に残されていた遺留品などはそのまま本部に保管する予定です」


彼女はそう教えると、そのまま鞄を持ってタバレの家を後にする。


「ただ不思議なんですよね」

「何がだ?」


去り際にジュリーはそこで自身が調べて異変に思った事を口にした。


「タバレさんに言われて彼の経歴を調べたんですが、どこにも彼が軍所属だった事は残されて居ないんです」

「え?」

「軍務省にも問い合わせたのですが、彼は軍に所属して居なかったと……」

「どう言うことだ?写真は確かにあったぞ?」

「さあ、私にも分かりません」


ジュリーは首を傾げると、そのまま荷物を持って家を後にしていた。






====






「ただいま戻りました〜」


タバレの家から今の仕事場であるルテティア警視庁に戻った彼女は、そこで自分の席に座る。

今年の新米刑事として配属された彼女はジェブロール警部の助手として配属された。


「ジュリー」

「はい!」


正直、こんな場所に採用されるなんて自分自身思って居なかったのだが。ジェブロール警部の部下と言うと、同僚や他の先輩方は明らかに哀れんだ目をしていた。

初めはどう言うことか分からなかったが、今になってその理由がよく分かった。


「前の遺体の紋様。同様の事件はないのか?」

「あっ!す、少し待って居てください!!」


この人、とことん自分を使い倒す気だ。自分から動く時の方が珍しいぞこの人。


「大丈夫、ジュリー?」

「な、なんとか……」


げっそりしながら食堂で倒れる彼女に同僚が声をかけた。


「私、転職しようかしら……」

「ちょっと、辞めたら私が困るわよ」


思わずそう答えられると、その同僚はトレーを持って帰って行ってしまった。






====






「はぁ…はぁ…!!」


寂れた小道を皮脂をドップリを掻いて走る一人の女性。


「っ!」


そしてその後ろを追いかけて走るもう一つの影。その手には消音器付きの拳銃が握られていた。


タンタンッ!!


そして引き金が引かれると、一発の銃弾が足に命中した。


「うっ!!」


そこで思わずうめき声を上げながらも、撃たれた右足を引きずってその女性は廃墟となった工場に逃げ込んでいた。


「……」


そこで息を殺してついてきた人影をやり過ごそうとしていた。

そして一枚壁を隔てた外では足音が聞こえており、その音は徐々にではあるが。離れていた。


「……ふぅ」


今までの緊張から解放された様子で、思い切り息をつくと。その瞬間、


カチャッ


その女性の目の前に銃口が突きつけられた。


「っ!!」


その事に思わず逃げようとしたが、足が完全にすくんでしまって居た。


「やっ、やめて!!」


目の前に突き出された消音器付き拳銃(FN M1922)を持つその人物はそう命乞いをする女性に躊躇なくその引き金を引いていた。


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