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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.19

共和国で起こっている連続殺人事件……通称『紋様事件』は当時はまだモラルのなかった報道関係者が、自社の売上げのために記事を有りもしない噂を流したり、関係者に金を積んで得た情報を握らせて早速記事にして売り出していた。


狙われているのは軍人だとか、帝国の仕業なのか、はたまた亡霊の仕業か。


脚色も多分に含まれている記事の数々にとある新聞記者のモリス・ポテは少し腹を立てていた。


「何が亡霊の仕業だ。金にしか目のない阿呆どもめ……」


モリスはそう溢すとライバル社の新聞をゴミ箱に放り込む。そこには『事件現場付近で怪物を見たという証言あり!!』と共に挿絵に翼を持った人影のイラストが描かれていた。

彼の務める新聞社は共和国で最も古い新聞社であり、名を『ル・フィガロゥ』と言う。主な論調は中道右派、大手新聞社であり。モリスは昨今の新聞業者のあり方に不満を覚えていた。


「ったく、売れりゃあなんでも良いと思いやがって……」


昨今はラジオやテレビの普及が進んでおり。それら情報媒体を攻撃するように各新聞社は反テレビを謳って彼らよりも早い情報伝達を求めており、その為であれば後からどうでもなる理論で記事を書いていたのだ。


「これじゃあまるで掲示板だ」


好き勝手売上のためにヘンテコな記事を書きまくっている上のやり方にモリスは愚痴を溢しながら自分のデスクに戻ると、編集長がモリスに言った。


「おいモリス。記事はまだ出さんのか?」


彼は不満げにコーヒーの入ったカップを傾けながら問いかけると、モリスは自身の他の記者の荷物が侵食しているデスクに座りながら答える。


「ええ、まだ書き終えていないんでね」

「そんなの自分で勝手に補完でもしておけよ」

「生憎と俺には創作能力はないんでね」

「はっ、この前の新人は一週間で四つの記事を書いていたぞ」


そう言うと、編集長はモリスに意味深に言う。


「お前さんとは大違いだ」

「へいへい、どうせ俺は小説家じゃないんでね」


適当にモリスは編集長の愚痴をあしらうと、編集長は言った。


「どうせこう言うのは適当に書いときゃ良いんだよ。今時間違ったことを書いても真実が上から塗り固めるんだ。日刊の新聞で前日の記事なんか覚えている奴はそう居ねえんだ」

「……」

「売れりゃあなんでも良いんだよ。おまえさんの記事の少なさなら、雑誌部に移動したほうがいいんじゃねえか?」


編集長の小言を聞かされる身としては今のネタ記事ばっかの新聞記事の方がよっぽど問題だろうにと思いつつも、このままだと本気で移動させられそうな気がしないでもなかった。


「とりあえず取材行ってきますわ」

「経費は抑えろよ」


そしてデスクで仕事をする事なくすぐにコートを持って部屋を後にするモリスはそのままやや強めに部屋の扉を閉じていた。






モリスの向かった先はタバレの自宅だった。モリスは真実しか書けない記者だと自負している。元々、就職で職にあぶれたところを拾ってもらった恩がある。その為に彼は誠実であろうと思って記事を書いてきていた。

そしてタバレは彼が前職に勤めていた頃からよしみにしていた仲だ、友人と言っても良いだろう。

何か大きな事件があった時は取ったに動けないタバレに変わって情報を仕入れては彼に提供していた。そして今回の紋様事件は、そんな今までタバレが解決してきた事件の中でも特段異質な物であった。


「(まさかタバレがここまで苦戦するとは予想外だ……)」


そう、今までタバレがこれほどの連続殺人を許していると言う事実だ。現在までの被害者は六人、皮肉なことに無秩序な新聞の中にはどこから手に入れたか分からない真実の情報も混ざっている。そう言う情報の精査はモリスもしっかりとこなしていた。


「……あれ?」


そしてタバレの住むアパートに到着したは良いものの、部屋をノックしても返事がなかった。するとアパートの上の階段から女性の声が聞こえた。


「タバレさんは今は出ていますよ」

「ああ、そうですか」


その声に反応しながらモリスは上を見ると、そこでは階段を降りてくる一人の女性がいた。

彼女はヴァレリー・ジェルディ、タバレの住むアパートの管理人だ。未亡人で弁護士の息子が一人いる。昔からの知り合いでモリスも軽く挨拶を済ませると彼女に聞いた。


「どこに行ったかわかりますか?」

「確か……王国に行くと行っておりました。警部さん達と数日前に出ていきましたわ」

「王国……ですか」


行き先を聞いてモリスは参ったなと溢す。まさかの国外に出ている事実を知り、しばらく帰ってこないなと感じった彼はそのままアパートを出て行く道に続く。


連合王国に向かったのはおそらく例の狙撃事件の一件で向こうの警察と話をつけるためだろう。もしかすると被害者が移送されてくるかもしれない。とすると一ヶ月は硬いと見ていた。


「はて、どうしたものか……」


編集長からは早く記事を書けと急かされ、頼みの綱であるタバレは国外に出張中。記事の内容は今回の事件に関するタバレの見解を聞くことだった。

自分はタバレほどおつむは良くないので代わりに情報を持ってきていたのだ。


「記事…タバレ以外の見解を聞いてもいいか……」


自分では真面目に創作記事なんて書けないし、水増しをしたところで読者は一瞬で分かってしまうものだ。

いつもはタバレに意見を求めたりしていたが、たまには別の人間に聞くのもアリかと思っていた。


「しかし誰に聞いたものか……」


問題はそこだった。確かに、タバレとよく会っているために警察にも行く人か知り合いはいる。しかしタバレやジェブロール警部が国外に移動した以上、おそらくルコック達も居ないと言う事だ。

警察の知り合いがいない以上、いきなりアポを取るのも難しい。かと言って遅いと真面目に紋様事件の記事が書けなくなる。この二律背反のような板挟み状態に腕を組んで考えていると、タバレの部屋に前に一人の人物が上がってきた。


「あのぉ……」

「ん?」


すると上がって来たレディースーツを着たその女性はモリスに話しかけると、ヴァレリーが反応した。


「あらジュリーちゃん」

「どうも、ヴァレリーさん」

「今日も荷物を?」

「はい、タバレ探偵に届けなければいけませんから」


そう答えると、その女性ことジュリーはヴァレリーに封筒を手渡した。

モリスはジュリーの名前に既視感があり、記憶を掘り返すとすぐにその理由を思い出した。


「失礼、もしかしてあなたはジュリー・ジュネスト警部補ですか?」

「え?あ、はい…私はジュリー・ジュネストですが……」


ジュリーはやや困惑しながら答えるとモリスは名刺を手渡しながら挨拶をした。


「初めまして。私はフィガロゥの記者のモリス・ポテと言います」

「は、はぁ……」


名刺を受け取りながらさらに訝しむように見ていると、後ろでヴァレリーが話した。


「タバレさんの知り合いで、新聞記者をしているよ」

「ああ、タバレ探偵の知り合いなんですか?」

「はい、タバレ氏にはよくお世話になっています。あなたの噂も聞いておりますよ」


女性には優しくの精神のモリスは目の前のジュリーに話しかけると思わずジュリーは呟いてしまった。


「なんだか…胡散臭いですね」

「……」


その一言でモリスは何か抉られたような悲しさを覚えたのだった。






その後、事情を説明したモリスにジュリーも納得した上で『まだまだ新米の意見で良ければ』と言うことで近場のカフェに入ってお茶をしながらモリスは手帳にペンを握った。


「いきなり申し訳ありません」

「いえ、私もタバレ探偵や警部がいなくて少しアレでしたし」


お互いに向き合って話していると、モリスは早速ジュリーに聞いた。


「昨日連合王国で紋様事件の犯人と思しき人物による狙撃事件がありましたが、警部補はこの事件をどのように捉えていますか?」


そんな問いかけにジュリーはやや虚取りながら答える。


「そ、そうですね……海を挟んだ向こうの国のお話ですので。私にはなんとも……」

「では、今回の紋様事件に対するマスコミの無秩序な報道はどう思いますか?」

「できれば、捜査が混乱するのでやめて欲しいです。事件現場に勝手に入ってくる記者もいますので、とても困っています」


新米らしいおどおどした様子のジュリーにモリスはこんな物かと思いながら彼女の答えた事をメモっていると、不意に彼女は口にした。


「でも、いくつかの事件現場に行って感じたのは……悲しさですかね」

「?」


そんな彼女の言葉にモリスは首を傾げると、彼女はそのまま流れる川のように言葉を吐き出す。


「なんと言えば良いんでしょう……その、事件現場は正直完璧な証拠隠滅がされているんですけれど。何かに怯えているように見えてしまって……」

「それは……」


彼女なりの独特な感性にモリスも少し引き込まれてしまうと、慌てた様子でジュリーは軽く手を振った。


「ああ、ごめんなさい。何言ってるかわかりませんよね…」

「いえ、貴重な情報です。おかげでいい記事が書けそうです。そのまま聞かせてもらえませんか?」


モリスはタバレとは違う感性のジュリーの意見に少しだけ興味が湧いていた。


「でも、今回の連合王国での一件は何となくなんですが、違う気がするんです」

「ほう?」

「その……言い表せないですが。少し違和感を感じて……」

「違和感ですか……」


そこで彼女はその違和感を口にした。


「今回の事件、何となく紋様事件の犯人らしくないなと思ってしまって……」

「例えばどの点が?」

「えっと……犯人はすごく腕のいい銃の使い手なんです。それなのに今回は狙撃に失敗しているんです」

「ほうほう」

「さっきも届けたんですけど、被害者は背中から貫通しているんです、狙撃距離は約五百メートル。二キロの狙撃を成功させるような人がそんなヘマをするかなって思いまして……」

「なるほど、そう言う事ですか……」


ジュリーの意見に納得できたモリスは地味に警察の情報をポロッと漏らしたジュリーにポンコツの雰囲気を感じ取っていた。


「興味深い意見です。ありがとうございます」

「いえいえ、私もまさか取材されるなんて思っていませんでしたから」


そして情報をぽろっと漏らした事実に気づいていない様子の彼女に少しモリスは不安を覚えていた。

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