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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
二章 君は誰だ?

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Cace.17

その報告があった時、誰もが首を傾げた。


「カレドニアヤードで保護を求めてきただと?」


それは海峡を挟んだ島国の連合王国にて、今起きている紋様事件の犯人に狙われているからと、保護を求めてきた女性がいるという。


「どうせいつもの心配性の奴だろう?」


紋様時間が起こって以降、何人もの元軍人が警察署に駆け込んでは保護を求めてきた。自分が狙われていると言って来る人は大勢いた。その対応で警察署が大忙しなのも知っていた。


「しかし、海を隔てた向こう側から態々そんな報告か?」


ジェバロールは訝しむ様子でその報告を聞いていると、報告に来たジュリーは言う。


「保護を求めてきた人物はグレース・パトリア。ロンデニオン郊外の書店を営む二〇歳の女性です」

「若いな」


年齢を聞いてジェバロール達はそう溢す。確かに、狙われていてもおかしくない年齢ではあるが所詮は海外。何故わざわざ報告が上がるのか不思議ではあった。


「はい…それで、彼女は保護された際にこう話したそうです『共和国で起こっている犯人から自分は狙われている』と」

「そりゃそうだな」


当たり前な理由に彼らも納得していると、続けてジュリーは言う。


「そして、その後に『私は共和国の軍人が狙われている理由を知っている』と言ったそうです」

「「「……」」」


それを聞き、ジェブロール達はまだ訝しむ様子を隠さない。無理もない、デマ情報もたまに流れている現在。そう言った情報提供は真偽を問う必要があるからだ。


「どうしますか?」


ジェブロールは管理官に問うと、管理官は少し間を置いた後に少し頷きながら答える。


「無視して構わん。外国にまで目を向けていられん」

「分かりました。ジュリー、その様に返しておけ」

「はっ!」


敬礼して返すとジュリーは捜査本部を後にしていた。






====






「との事ですので、共和国への移動は難しいですね」

「そうですか……」


警官からそう告げられたグレースは不安げな様子を見せていた。

元々警察としても眉唾物の話であり、とっとと帰らせてしまおうと思っていた。厄介な仕事が無くなると担当した職員は思っていた。

それを見た警官はそんな彼女に話す。


「まあ、気を付けてお帰りください」

「はい…」


短く彼女は返すと、そのまま警察署の扉を押して出て行った。





帰宅途中、グレースは久々に出たロンデニオンのマーケットで買い物をしながら家に帰る。


ロンデニオン郊外の街で小さな書店を営む彼女は寄り道をして地下鉄に乗って家に帰る。


「……はぁ」


そして溜め息を吐きながら帰ってきた部屋で椅子に座り込む。


共和国の戦争が終わり、逃げるように海を渡った彼女はとにかく疲れていた。戦争が終わって二年、あと二年を静かに海外で過ごそうとした所で仲間が次々と死んで行っている。そんな状況下で、この前の招集も恐る恐る共和国に向かった程だ。


「二年か……」


とても長い年月を過ごさねばならない。二年と言う期間は戦場に赴いていた頃とは違い、隠れながらいつ狙われるかも分からない恐怖に気が参っていた。


「気安く言ってくれる……」


事件の経過は時折来る文通や電文からある程度は知っているが、遅々として進んでいないことはラジオを聴いていてもわかる通りだ。


「嫌になっちゃう……」


予想はしていたが警察も使えず、つっかえされてしまった。


「はぁ……」


再度ため息を吐くと、彼女はテーブルを立って台所に向かった。






その背後、窓の外から彼女をスコープで覗く影は両手に小銃を持っており、その引き金に指を掛けた。






====






返答をした数時間後に届いたその狙撃事件で共和国警察は狂乱した。


「狙撃だと?!」

「情報をもっとこっちに持って来い!」


書類を片手に走り回る職員。ルテティア警視庁の刑事課は大騒動だった。


「被害者の安否は?」

「まだ問い合わせ中です」


ジェブロールの問いにジュリーはそう答えると、彼は少し顔を顰めてこぼした。


「ったく、まさかマジで狙撃をされるとは……」


それは、昼間に連絡のあった女性が自宅で狙撃されたと言う情報があったからだった。


「警部!」

「ルコック、どうした」

「ロンデニオンからやっと情報が届きましたよ」


そう言い彼は電報を持ってきてジェブロールに手渡した。


「ふむ……背中から貫通して一命は取り留めたのか」

「幸いにも近くの住人が銃声を聞いてすぐに通報をしたそうです」

「現在の状況は?」

「はい、ロンデニオンの病院にて治療を受けています」


ルコックが報告を入れると、そこに管理官が入ってくる。


「ジェブロール、話がある」

「はっ!」


そして呼び出されたジェブロールが部屋から消えると、アンドレイがジュリーに話しかける。


「面倒な事になったな」

「え?」

「警部、これからさっきの被害者の移送任務の責任者になるぜ」


彼はそう言うとルコックが注意するようにアンドレイに言う。


「馬鹿、お前もどうせ警部に連れて行かれるだろうよ」

「げっ、ルコックにやるよ。お前、上に上がりたいだろう?」

「結構だ。そう言うお前は最近、嫁さんに叱られたんじゃないのか?」


ジュリーの後ろで男刑事二人が言い合いをしていた。そんな二人の間でジュリーは黙々と書類を片付けていた。


「新米のジュリーはまあ行くことはないだろうがな」

「そうだな、多分。警部からこっちの受け入れ準備の方になるだろうな」

「そうですか……じゃあ、準備しないといけませんね」


何せ、事件の情報を知っている可能性の高い重要参考人だ。警察としては狙われている上で、事情聴取と情報提供を求めていた。

何より数が少ない犯人の情報だ。聞き込みも意味をなさないほど目撃情報があまりにも少ない今回の紋様事件の犯人。

犯人の次の標的が分からない以上、有力な情報を持っている可能性のある今回の被害者に警察の期待も大きかった。


「今まで何度か連合王国からの護送任務は記録が残っている。ジュリーはそれを参考に書類の作成をしてくれ」

「私が行ってよろしいのですか?」


新人のジュリーにそんな大仕事を任せるルコック達に驚いていると、彼らは言う。


「ああ、これも経験だ。何たって、期待の若き警部補だ」

「階級は俺たちより上だもんな」


そう、ジュリーの階級は警部補。対してルコック達は巡査部長だ。本来であれば敬礼される立場なところをジュリー自身が嫌っているのでそんな空気も消えていた。


「……分かりました。やってみます」

「おう、できたら俺がみてやるよ」

「そのままお持ち帰りしたら減給だぞ」

「分かってるってばよ」


アンドレイはそう答えるとそのまま部屋を後にしていく。


「全く、あの男も少しは自重してほしいが……」

「でも、タバレ先輩も刑事になる前は軽犯罪で捕まったって……」


ジェリーの言葉にルコックはやや驚いた様子を浮かべた。


「何で知っているんだ?」

「前に警部が教えてくれました。その時取り調べをしていたのが警部だったと……」


事情を知り、納得したルコックはその時の話を少しだけした。


「まぁ、簡単な窃盗で捕まったわけだが。その時に先生にコテンパンにやられてね」

「タバレ探偵にですか?」

「ああ、それ以降。俺はここに勤めて先生に教えを乞うようになったのさ」


ルコックが先生と呼ぶのはタバレだけだ。確かに彼の推察力は共和国でも肝を抜いていた。

すると部屋の扉が開き、ジェブロールが片手に封筒を持ってジュリーを呼び出した。


「さて、またお使いだね」

「ええ、私の仕事ですから」


封筒を見て、二人はジュリーの仕事であるタバレとの連絡係だと察すると彼女は席を立ってジェブロールの元に行くと手提げを持ってその封筒を受け取る。


「今日は早めに戻ってきてくれ。俺はアンドレイ達を連れてロンデニオンに行く事になりそうだ」

「はい!」

「警部、俺も行くんですか?」


そこでルコックがジェブロールに聞くと、彼は頷いた。


「ああ、ついでにタバレにも連絡だ」

「先生も連れていくんですか?」

「え?でも彼は民間人ですよ?」


そこでジュリーは首雨を傾げると、ジェブロールとルコックが言う。


「俺たちからの協力要請に随伴という形でいくんだよ」

「まぁ、ジュリーも何は慣れます。俗にいうグレーゾーンと言うやつです」

「は、はぁ……」

「賢く生きる方法ですよ」


ルコックはやや悪い笑みを浮かべてジュリーは少し困惑した様子を見せていた。






====






「了解です。私も事情を詳しく聞きたいですから」


アパートで今回の資料を受け取ったタバレはそう言うと、ジュリーは続けてタバレに言う。


「ロンデニオンに向かう日は三日後。集合場所はルテティア北駅、ラ・マンシュ行きの特急列車です」

「分かりました。時刻は午前十時の便でしょう、その時間であればフォークロック行きの海峡横断船と接続できます」

「流石ですね……」


相変わらずの推察にジュリーも慣れた様子でタバレを見ると、彼女は聞いた。


「どうですか?事件の進捗は」

「まぁ、恥ずかしい話ですがあまり進んでいませんよ」


捜査費用を付けているとはいえ、払ってもらっている立場のタバレはそう答えると部屋のボードを彼女に見せる。


「何せ、メ……犯人がなぜこうも連続殺人を行うのか。その真意がいまだに理解できないんです」

「え?砲兵を殺すことが目的じゃないんですか?」

「いや、あの写真に映る砲兵のみを殺しているようですが。私の情報網ではどうにもなりません」

「そ、そうですか……」


はっきりと言われ、ジュリーは少し驚いた様子でタバレを見ていた。


「しかし、何かしらの意図があってこんな事件を起こしているのは確かです。その答えとなるのが死体にある紋様です」


学者達が手を挙げて意味不明と言った例の紋様。


「精神系統の魔法で氷系統の魔法の効果があるのは、はっきり言って異常です」

「そうなんですか?すみません、魔法に関しては知識がなくて……」


ジュリーはそう答えると、タバレは頷いた。


「通常、他属性の魔法が干渉する事はありません。ましてや魔法陣と魔法効果が別な事など……今までの魔法理論が吹き飛ぶような話です」


事実、あの紋様の正体を暴こうとWMOの学者が珍しく団結しているの言うのだから、よっぽどのものだったのだろうと容易に推察できた。


「しかし、ロンデニオンでの狙撃事件は私もいくつか気になる事があるので是非とも行きたいと思っていました」

「そうなのですか」

「ええ渡りに船でした」


彼はそう言うとジュリーは資料を渡し終えたと言うことで本庁に帰って行った。

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