Cace.14
南東部で起こったコテージでの狙撃事件。いよいよ自殺である事を隠さなくなった犯人は二千メートルと言う長距離を見事に狙撃をして二人を殺害していた。
夫婦をまとめて射殺していたこの事件。タバレは事件現場から狙撃地点を確認した。
「狙撃銃とはいえ、二人を倒すにはボルトアクションでは連射が足りない……」
「それは……半自動小銃であると?」
「ええ……恐らくは」
でなければ一人は逃げてしまっている。二人とも同じ弾薬で狙撃を受けており、恐らく二発で的確に急所を仕留めていた。
「対戦車ライフルじゃなくて、一般的なライフルでこの距離か……」
「犯人は元軍人でしょうか?」
「ええ、それで無いとこれほどの狙撃ができる理由が分かりません。もしくは才能を持った者でないと……」
「でもただの小銃弾で出来ますか?」
「……」
そんなジュリーの純粋な疑問にタバレはふと地面に目をやって異能を使う。
「……なるほど」
そしてそこで分かった内容にタバレはジュリーに言う。
「だから小銃弾で二千メートルの狙撃ができたのか……」
「?」
「貫通魔法が薄らとではあるが、使われた痕跡があります。ここには、魔導レーダーは設置されていませんからね」
そう呟くと、ジュリーはやや驚きをしながらも彼に聞く。
「じゃあ、追跡は?」
「難しいですね。何せ私の異能はあくまでも使われた魔法の詳細を把握するだけですし……」
彼はやや渋い表情を浮かべると、そこでジュリーは言う。
「異能者は魔法の鍛錬もできませんしね」
「ええ、歯痒い限りですよ」
異能者は魔術師と違い、元々が特異的魔法が使える為に通常の魔術師と違って鍛錬による魔法能力の育成ができない。
一般的に半分の人間が、免許取得に足り得ない魔法の力だが。魔法は訓練さえすれば日常生活程度まで使えることができる。
世界魔法機関の認定する魔術師育成の訓練は異様に高いことで有名であり、ぼったくり価格である。そのためよほどのお金持ちでない限り滅多にこの訓練を受けることは無いと言われていた。
「写真は撮りましたか?」
「はい」
片手にカメラを持っていた彼女はそう答えると、来た道を歩き始める。
「では証拠品を回収して戻りましょう」
「分かりました」
そして二人は狙撃場所から事件現場に戻って行った。
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その日、共和国のとある邸宅に灯りと多くの車が止まっていた。
その邸宅に集まったのは皆二十歳の若い青年少女達であった。集まった彼らは仲間の無事な姿を見て安堵した様子を見せていた。
「おお!お前も生きて居たのか!!」
「ああ、お前も無事な様子で何よりだ」
そう言って抱き合う彼らの表情はとても安堵していた。
私服姿も多いが、中にはホリゾンブルーが特徴の略装を見に纏う者もいた。
「皆、集まったな?」
部屋に入ってきたルメイの姿を見て全員が安堵と同時に不安を交えた表情で彼を見ていた。
「まずは席に座ってくれ」
彼はそう促すと、集まった彼らは席に座る。そしてそこで、ルメイが一番奥の席に座るとそこで彼は言う。
「諸君らも知っての通り、ここ最近世間を騒がせている紋様事件。その被害者は全員、我々の同級生だ」
『『『『『っーーー!!』』』』』
そこで全員は分かってはいたが、改めて直接言われた為に全員が動揺を隠せて居なかった。
「すでに六人が殺され。共和国は恐怖に怯えている」
そう言うと、そこで一人の男がルメイに聞く。
「小野寺、今日俺たちを纏めて呼んだのは。俺たちの安否確認のためか?」
「そうだ」
その男から小野寺と言われたルメイは頷いて答えると、そこで他の者達も次々と質問をし始めた。
「じゃあ、ここに居ないのって……」
「事情があって来られない者もいる。すでにそう言った者達の所在は把握している」
「そ、そう……」
そこで質問した女性は少し安堵した様子を見せると、そこてルメイは言う。
「皆、あの戦争が終わって二年。あと二年で、僕達は帰る事ができる」
そう言うと、彼らは頷いたりして各々の反応を見せる。
「公表はされて居ないが、犯人は自らをメメント・モリと名乗っている。似顔絵は皆も新聞で見ている事だろう」
そう言うと、メメント・モリと言う言葉に首を傾げて意味を聞いたりして居たが。誰もがその後に恐怖と怒りを感じていた。
「そこで今日集まって貰ったのは他でもない。このメメント・モリの脅威は刻々と我々に迫って来ている。皆にはこの脅威を退けるために注意喚起をする為に集まって貰った」
『『『『『!!』』』』』
部屋にいる二〇名の彼らは全員がそれぞれの反応を見せた。
「二年間、生き残るために君たちには自衛をしてもらう必要がある。
メメント・モリはいつ、何処で君達を狙うかはわからない」
「じゃあどうすれば良いのよ」
「これからは必ず二人以上で行動する事だ。ほとぼりが覚めるまで共和国の外に出ても良いし、どこかに閉じこもっても良い。定期的に僕に手紙を送るなどして生存確認もさせてくれ」
そんな女の問いにルメイはそう答えると、最後に念を押してこう言った。
「最も重要なのは、あと二年。君達は生き残ることを最優先に考えてくれ」
そう言うと、部屋にいた全員が驚いていた。
「良い演説だったわね。貴方…いや、ジョージ・ルメイ少佐」
話が終わり、大広間を出たルメイは先に外に出ていたオードリーにそう話しかけられると、彼は軽く手を振って言う。
「辞めてくれ。今の僕は小野寺輝だ」
「ふふっ。じゃあ今の貴方は素の好青年ってことね」
少し茶目っ気に彼女は言うと、小野寺はオードリーを見ながら言う。
「そう言う君はいつも立川絵里じゃないか」
そう言うとオードリー…基い、立川と言われた彼女は少し笑みを浮かべる。
「あら、これでもオードリー・ルメイって言う名前があるのだけれど?」
「それは砲兵として活躍した時の君だ。今はもう退役した身だろう?」
小野寺はそう答えると、立川は少し目を閉じて頷いた。
「まあ、そうなのだけれどね……」
そこで彼女は少し話に手詰まりを感じ、話題を変えた。
「ところで、なんでみんなに嘘をついたの?」
それはここに集った面々に話した内容についてだった。その疑問に彼は邸宅の柵に手を掴んで答えた。
「今ここで、今日集まった以外の面々の全員が死亡していると言ったらどんな混乱が起こるか……情報は適度に公開し、適度に噤む。良い舵取りをしなければいづれは転覆してしまうからな」
「……なるほど」
彼の話を聞き、彼女も納得した様子を見せた後に彼に助言を入れた。
「でも、その舵取りを上手くやるには。相当な技術がいるわよ?」
「ああ、望むところだ」
彼はそう言うと、半月の月を見ながら呟く。
「何せ、この世界で僕達が生きるにはあまりにも立場が弱い」
「社会的に。でしょう?」
「ああ」
彼はそう答えると、そこで彼は懐からパイプを取り出すと。マッチに火をつけて吸い始めた。
「あらやだ。ここで吸うの?」
「逆にここ以外のどこで吸うんだ」
彼はそう答えると、一服をする。
「でも誰がこんなことをし始めたのでしょうね」
「さあな?少なくとも、僕達の存在に気づいた者だろうが……てんで見当が付かない」
彼はそう答えると手詰まった表情で外の様子を見る。
「帝国ならば、僕達の存在を知ったらまず始めに交渉材料に使うはずだ」
「でもこの前の条約改正の時、帝国からそう言った事はなかったのよね?」
「ああ、むしろ共和国に有利な条件を引き出していた。帝国内の革命騒ぎがあるとは言え、あり得ない話だ」
「帝国でないとすると……世界魔法機関?」
世界中の魔術師の管理運営を任されている国際機関ならばあり得るかもしれないと思ったが。それを彼は否定する。
「いや、WMOが動いた様子は一切ない。あの国際機関は世界中から動向を監視されている。何かあれば必ず一報が届く筈だ」
彼はそう言うと、苛立ちも混ざった様子でパイプを吸う。
「帝国でもWMOでも無い、しかし既に十人がやられている。残っている同級生は二〇人。軍部では多くの戦術級魔術師がやられていると大騒ぎだ」
「……」
「元々三〇人いた僕達は、今やこれだけしか残っていない。
警察や軍の上層部は集めた証言から、勝手に女の単独犯の犯行だと思っている。実に愚かな話だ。これだけの行動範囲で、一人でできる訳がないだろう……!!」
徐々に力強く話していく彼を宥めるように立川は彼の手を覆うように手を添えながら言う。
「でも実際に戦闘をした連隊が見たのは女一人。同じような証拠が二つもあれば、自然とそっちに頭が行っちゃうわよ」
そう答える彼女に小野寺は逆に問いかけた。
「君は本当にこの事件が単独犯だと思うのか?」
「でもわかっている範囲だけで言うと、そう言う事になるってだけよ。あの名探偵ですらも、何処かで単独犯だと思っているでしょうしね」
彼女はそう言うと、小野寺もそこで一服し。感情を落ち着かせて言う。
「そうだな……すでに警察は機能不全に陥れたが。問題はあの探偵だ。この前、小牧の家に行った時に何かを見つけたらしいが。その後、なぜがメメント・モリの襲撃を受けてそのまま見失った」
「何か理由をつけて捕まえられないの?」
彼女がそう聞くと、小野寺は首を横に振った。
「無理だ、今彼は警察の庇護下にいて。迂闊に手を出せない」
「厄介ね……」
立川も少しだけ考える仕草を見せる。
「メメント・モリは、あの探偵に恐らく僕達の存在を突き止めさせようとしているんだろう」
「っ!!」
そう言うと、立川は目を見開いて驚いた表情を浮かべる。
「そんな……!!」
「だからこそ、見つけた瞬間に殺す必要がある。あと二年、僕達が生きる為にはそうするしかない」
彼はそう言うと、月を見ながら少し鋭い目をする。
「相手が何者であれ、僕達の秘密を明かされる訳にはいかない」
彼はそう言うと、そこで丁度煙草を吸い切り。二人はその場を離れる。
去り際に立川は小野寺に言う。
「あとそれから、三〇人じゃなくて三一人だよ」
「いいさ、居ないも同然なのだから」
そんな立川の言葉に小野寺はそう返すと、立川もそれもそうかと納得した様子でベランダを後にしていた。
「……」
そしてその光景を、ある人影が建物の角で聞き耳を立てている事に二人は気づいて居なかった。




