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戦場からこんにちは Side.B  作者: Aa_おにぎり
一章 この事件の犯人は?

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Cace.10

四人目の被害者の出た今回の紋様事件。犯人は砲兵を狙っているものとし、先の戦争で戦った砲兵の安否確認をしらみつくしで探すのは困難を極めた。

なにせ、先の戦争で動員された数は共和国で一二〇〇万人。帝国でも一三五〇万人が動員された大規模な戦争だった。

砲兵の人数も何十万人とおり、共和国は王政時代より有す伝統ある砲兵は共和国軍の象徴でもあった。


帝国では騎兵から発展した戦車を中心とした部隊が機動戦を展開しており、先の戦争の決着をつけたのも帝国の戦車を中心とした機動戦だったと言われている。だからこそ、戦後処理において共和国は不利になってしまったのだ。

今は宥和政策の関係で帝国との関係は表向きはとても良いものとなっていた。





====






「えー、現在。わかっている範囲として、現在の被害者は四名。うち三名が元軍人の砲兵隊所属だ」


捜査会議で管理官がそう話すと、そこでジュリーはやや目を細めた。

一人目の被害者、アドルフ・ブレリオもあの集合写真の中に載っていた。まだ物的証拠も見つかっていないので、断定はできないが。彼の顔写真はあの集合写真の中に写っていた。確実な証拠ではないと言うことでジェブロールにはまだ言っていなかった。

あの写真がどこのどの部隊の物かは定かではないが、その辺はタバレ探偵がどうせ考えている事だろう。


「そして、被害者三名は砲兵勲章を授与された人物であり。おそらく今後も同様の犯行があると思われる」


今重要なのは、ここにいる自分以外の刑事は全員が全員が軍人か元軍人である事を知らないという事だろう。


「よって現在、砲兵勲章を受叙された人物。主に戦時中に授与された者を中心に調査を行なっている」


そう言うと、会議室にいた捜査員達全員が唖然となった。


「二万人相手に調査かよ……」

「正気じゃない」

「だが、これだけ証拠が少ないんだ。やるしかあるまい」


そう言い、一件目から順に残されていた証拠を眺めていく。


一件目の被害者はアドルフ・ブレリオ。

家で争った形跡がなく。殺人に使われたのは自分達もよく食べているじゃがいも。現場の証拠から見るに、芽の出たジャガイモや緑色に変色した物ををそのまま茹でてスープにして飲んだようだ。

通報したのは近くの住人で、マンションの窓から直接死体を見たために通報したと言う。

近くには遺書も残されており、当初は自殺となっていた為。それら証拠品は事件解決後に処分されてしまっていた。

返却しようにも彼は戦災孤児であり。彼を預かっていた孤児院も閉鎖されていたので、規則に従って証拠品は一切残っていなかった。


二件目のマイント・カーディッシュでは犯人像を大家が見ていた。

身長は一六〇〜一七〇センチほど。被害者が呼び出したコールガールに扮した犯人はそのまま部屋に入ると、そこで自分で作ったカエンタケ入りのきのこサンドイッチとカエンタケを漬けたブランデーを飲ませて殺していた。

指紋は一切残っておらず、大家も深いローブを被っていて顔は見ていなかった。

通報は被害者の職場の同僚で、普段はしない無断欠勤が続き。不審に思って家を見に来てそのまま通報していた。

なお、被害者は犯人を呼ぶ際に降雨魔法を無断で使用しており。その豪雨で発見が遅れていた。


三件目のジーン・ガードナーはルテティア郊外の廃工場にて射殺されて発見されており。使用されたのは一般でも広く流通している一般的な拳銃弾の.380ACP弾。被害者が握っていたモーゼルHScは製造番号からかなり前に盗難されたものと判明していた。薬莢は発見されず。付近には揉み消された血痕が残っていた。

通報者は廃工場を拠点にしている不良少年グループ。いつもの様に廃工場に集まった所で発見されていた。

脚には治癒魔法を使った痕跡があり、犯人は脚を撃って止めた後に胸部に発砲していたと推定されている。


四件目のヘレン・ロジャーズは共和国中部の都市ブルティガラ郊外の森にて発見され。通報したのは近くを訓練中だった歩兵部隊からだった。死因はモルヒネを用いた中毒死、車内には被害者の指紋しかなく。車は彼女名義で貸し出されていたレンタカーだった。


「四件目のレンタカー店の店員の証言では、犯人は黒いスカートに灰色のカーディガンを着ており。サングラスと帽子を被っていたそうだ」


レンタカーを被害者名義で借りていた犯人は顔を隠す服装だったようだ。


「その時の似顔絵を、今書いている」


そう答えると、ちょうどその似顔絵が出来たのだろう。管理官に一枚の画用紙が手渡された。


「これをガリ版に回してくれ」

「はい」


そう答え、後で似顔絵が回ってくるのを待っていると。そこで管理官は言った。


「なお、先ほどの似顔絵はあくまでも捜査員のみに配るものとし。以後、外部に漏らさないものとする」


そう言うと、一斉に部屋にいた捜査員達はざわつき。国家憲兵隊は動く様子がなかった。


「チッ、軍が動いたか……」


横でジェブロールがそう愚痴ると、ジュリーもやや目元を細めていた。

国家憲兵隊は軍務省管轄下の治安維持組織であり。主な仕事は政府機関の警護と在外公館や沿岸の警護などが主な業務内容だ。

警察業務はあくまでも軍施設内部でしかないが、戦時中。戦場で起こった事件のほとんどが国家憲兵隊が担当しており、戦後はちょくちょく軍人絡みの事件になると首を突っ込んでくるようになっていた。

厄介なのはこれの行為を越権行為とする文書が明記されておらず、これを盾に訴えることができないのだ。


「俺達の邪魔しやがって……」


ジェブロールは明らかに顔を顰めながら会議を終えていた。






====






同じ頃、ルテティアのカフェのテラス席でタバレはある人物と出会っていた。


「それで、いい情報が入ったって?」


そうタバレが聞くと、反対の席に座る男。新聞記者の傍で情報屋をしているややふくよかな、それこそオペラ歌手が似合いそうな体型をしているモリス・ポテは容器に笑う。


「ああ、そうかも知れんが。まずは一服させてくれ。こちとらブルティガラから帰ってきたばかりだ」


彼は共和国れ最も歴史ある新聞社の記者の傍、小遣い稼ぎ目的で情報屋をしており。タバレも重宝する人物だった。いつも何件かの情報を持ってくる代わりにタバレは彼の持ってきたいくつかの軽い事件などを簡単に解決して見返りとしていた。

記者と言う立場ゆえに全国に行脚できる彼は今回の紋様事件に関してももちろん掴んでいた。


「警察じゃあ、軍が捜査に協力しだしたんだろう?」

「ああ、そのようだ」

「だったらもう当てにならんだろうな。警察と軍の中の悪さはよく知っているからな」


そう言うと彼はアン カフェ(エスプレッソ)を飲みながらそう答える。


「何、軍が口を出すのは今に始まったことじゃない」


タバレもわかってそう答えると、そこでモリスはタバコを取り出して火をつける。

そしてそこで大きめに一服を吸うと、そのまま息を吐いた。


「相変わらずのタバコ好きだな」

「タバレ探偵に言われると少し腹が立つな」


そう言うと、タバコを吹かしながらモリスは持ち帰ってきた情報をタバレに言う。


「ブルティガラの発見者を知っているか?」

「いや、まだ知らないな……」


そう答えると、モリスはそこでタバレに言う。


「森の畦道に止まっていた車の死体を最初に発見したのはちょうどその時夜間の行軍訓練をしていた陸軍の歩兵部隊だ」

「軍が通報したと言うのか?」

「ああ、その時。部隊も被害者が軍人だと思っていなかったんだろうな」


そう言うと、そこで彼は肺を落とした後にタバレにやや顔を近づけて言う。


「ただその数時間前にその近くの森で何発もの銃声があったと言う」

「……本当なのか?」

「ああ、近くの農夫がそれを聞いて怖くなって慌てて家に帰ったらしい」


そう言うと、モリスは持ち帰った情報をタバレに伝えた。


「あそこは軍の駐屯地から程遠い。おまけに、過去に軍があの森を訓練場として使ったことは無いそうだ」

「つまり、何らかの事情があってあそこで発砲したと?」

「周りの人間には極秘訓練だと説明したらしいがな」

「……」


気になる話だとタバレは思った。

軍のただの歩兵部隊は事前予告なしに訓練場でもない森の中で発砲するのは明らか異常な行動だ。

ただ、それを極秘任務と言ってすぐに言い訳ができた辺り。部隊長は頭が回っていたのだろう。


「今回の紋様事件。随分面倒な事になりそうだな。おまけに犯人はかなりの偏屈者だ」


そう言うと、モリスは新聞を取り出す。そこには今までの紋様事件の被害者とその死因も書かれていた。


「状況だけ見るとまるで自殺だ」

「ああ、事実。最初の事件は自殺として処理されていた」

「うおっ、マジか」


モリスは驚いていると、タバレは続けて言った。


「証拠品は一切残っていない。三件目の被害者を撃った時に薬莢を回収するくらい。向こうは慎重な人間だ」

「はぇ〜、すでにタバレ探偵は知っていたのか」

「ああ、別件の事件から入った」


二件目のカエンタケの事件から彼はこの偏屈な事件に関わっていた。


「って事はジェブロール警部も?」

「正確にはその部下もだな」

「?」


モリスが首を傾げると、タバレは新米のジュリーの事を話す。


「ジェリー・ジュネスト警部補。今年の春に配属された若い女性刑事だよ」

「へぇ、あの警部に直属の部下か」

「よく警部の使いパシリにされている」

「うわっ、女性相手になんてことしやがる」


女には紳士になる彼はそう溢すと、タバレは言う。


「銃の腕は警察署でも随一だろう」

「そうなのか?」

「襲ってきた四人の男をそれぞれ一発ずつで無力化している。うち二発は拳銃に直撃だ」

「ヒュ〜、頼もしいね」


モリスはそう溢すと、タバレは付け加えて言う。


「ちなみに言っておくが、これを記事にしたらいかんぞ?」

「書いたらどうなる?」

「知らない統率のとれた人間に捕まってそのままポンヌフから川に投げ飛ばされるかもな」

「おぉ、これはまずい」


彼はそう答えると、その内心まずい情報を聞いてしまったと後悔していた。


「まあでも、情報には感謝するよ。お代は?」

「カフェの代金を払ってくれたら十分だ」

「随分と安いな」


普通なら事件を持ってくるついでに代金をせびって来ると言うのに。


「まあな。今回はそれほど苦じゃない注文だったからな。おまけに、俺はすぐに次の場所に行かなきゃならん」

「何処に行くんだ?」

「マッシリアさ」


彼はそう言うと、席を立って店を先に後にしていた。

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