Case.1
こちらでは初めての投稿です。
よろしくお願いします。
正直、別の作品名にした方がいいかも知れませんが。この名前を何気に気に入っているので、そのまま流用させていただきました。
豪雨の中、ある一組の男女が同じ部屋で床を共にしていた。
「あらあら、こんなに降っていやがる」
カーテンを開けながら外を一人の男が眺める。その後ろでは一人の髪の長い女性が下着姿にタオル一枚で心配げに見ていた。
「じゃあ、早めに帰らないと……」
「大丈夫さ、雨が上がるまでここにいればいい」
そう答えるその目はやや欲に満ちた獣の目をしていた。
「その代わり、一杯やらないか?」
「……」
そこで女性は頷くと、そこで先にシャワーを浴びに浴室に入って行った。
この雨に降られて体がすっかり冷えていたのだ。まだ一回もしていないが、仕方あるまい。
代わりにサンドイッチやブランデーを入れてくれるおまけをしてくれたのだから文句は言えない。人からもらったものを無駄にするなと教わってきたしな。
「……さて、どうしようかな」
片手にブランデーの入ったグラスを持ち、雨が轟々と降る天気を眺めて酒を飲む。
元々夜伽を更に楽しむために天気を動かしたのだから、これからも多用していこうと思っていた。
これでいちいち延滞で怒られる心配もないからな。
「……」
そして、今日の夜伽の続きをどう楽しもうかなどと想像していると、ふと違和感を感じた。
「っ!?」
突如目の前がふらつき、激しい眩暈と頭痛が襲い始める。
地面にゆっくりと倒れ、思わず持っていたグラスを地面に落としてしまい。地面にブランデーが広がる。
「う……ごほっ」
そしてそのまま嘔吐し、燃えるように体が熱くなっていた。
「はぁ…はぁ……誰が、助げ……」
机の上を乱暴に腕を伸ばすも、そのまま力なく倒れた。
そして、静かになった部屋でシャワー室から先ほど入って行った女性が現れると、懐から取り出した懐中時計のような物を取り出し。そこで蓋を開けると、中を見て短く頷いた後に服を着替えると、そのピクリとも動かなくなった男の首元に指を立てると、そのまま首元に突き刺して軽く血が垂れた。
そしてそのまま女性は地面に目を見開いて倒れる男を置いて部屋を後にしていた。
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花の都ルテティア
一年中何かしらの花が咲き、街に花の匂いが絶えることの無い共和国が誇る首都である。
そんな首都の一画、とあるアパートの一室で一人の男が蓄音機で音楽を流しながら優雅に窓を開けていた。
「……」
その男は目を閉じてその音楽を楽しんでいると、部屋の扉を誰かがノックした。
『タバレさん。お客様ですよ』
「ああ、通してくれ……」
そう答えると、部屋の扉が開き。そこで一人のドレスを纏う女性とスーツ姿の女性が入ってきた。するとそのスーツを着た方の女性が恐る恐る椅子に深々と座っている男性に話しかけた。
「あ、あの…タバレ・ガバリオさんですか?」
そう聞くと、その男は目を開けて体を起こすとこちらを見た。
「いかにも、私がタバレ・カバリオだ」
彼はそう答えると、話しかけた女性に聞き返す。
「君は?初めて見る顔だね」
そう言うとその女性はハッとなった様子で慌てて挨拶をした。
「はっ、初めまして!この度、配属されましたジュリー・ジュネスト警部補です!」
「ほほぅ、その年で警部補……さぞ優秀なんだろうな」
「あ、ありがどうございます……って、そうだ」
すると彼女は持っていた鞄からタバレに一通の封筒を渡した。
「ジェブロール警部から、タバレさんを呼ぶ様に言われていたんです」
「ジェブロール警部が?」
手紙を受け取りながら中身を見ると、ジュリーはタバレを見て言った。
「これからタバレさんをお送りいたします」
そして、そのまま彼女の車に乗せてもらって到着したのはルテティア警視庁だった。
花の都の空気とは程遠いむさ苦しい、男臭い場所をタバレとジュリーは歩く。
「警部、タバレさんをお連れしました」
「ん」
そこでソファに寝そべって寝ていた無精髭の男が顔を上げて、二人を見た。
「来たか、タバレ」
「ええ、あなたに呼ばれましたので」
タバレが答えると、そこでその男。ジェブロール警部はジュリーに言った。
「ジュリー、コーヒーを二つ」
「はい」
彼女はそう答えると、多くの刑事たちで溢れている部屋の中に消えて行った。
「新しい人ですか……?」
反対側のソファに座りながらタバレは聞いた。
「ああ、今月から入った新人だ。俺はその教育係、と言ったところだな」
「警部に部下ですか……」
少々訝しむ目でタバレは見ていると、ジェブロールは苦笑する。
「なに、上からのお目付役だろうよ。少々抜けている所はあるが、拳銃の腕はピカイチだ」
そう答えると、二人の間にコーヒーが置かれた。
「どうぞ」
「ああ、ありがとう……」
そこで一口タバレはコーヒーを口に入れると、次にジュリーを見た。
「良い味だ。コーヒーにも才があるようだ」
「あ、ありがとうございます……では」
そう言い彼女は去って行くと、そこでジェブロールはタバレにある資料を渡した。
「今回の事件だ。場所はルテティア十八区の古いアパート。被害者の名前はマイント・カーディッシュ、二〇歳。職業は郵便職員だ」
「死因は?」
「毒物の接種。吐瀉物の中にカエンタケの欠片が混ざっていた」
「カエンタケですか……」
猛毒のキノコだ。触るだけでも手が炎症を起こすほどの毒性のあるキノコだ。
「自殺ですか?」
「まあ…そんな所だな」
少々歯切れ悪そうに彼は答えると、タバレは軽く首を傾げた。
「どうかしたのか?」
「……いや、直接みたほうが早い。車を回そう」
そう言うと彼はジュリーを呼びつけて車を走らせた。
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「まだ死体を置いているのかよ」
「いや、死体は無い。既に検死官が持って行った」
ジュリーが運転し、後部座席で二人はそう話すと、そこでジェブロールが叫んだ。
「そこを右だぞ!」
「す、すみません!」
しかし彼女が道を間違えるのもわかるような気がするほど、入り組んだ道の先に事件現場はあった。
「こんな辺鄙な場所で時間か……」
「ああ、おかげで警察も到着に時間が遅れてしまった」
ルテティアは二〇区の行政区に分けられており、その中でも十八区は貧困街として知られており。道も入り組んでいる場所であった。
「ここが事件現場だ。通報者は同業の郵便職員。無断欠勤で職場に来ないからと見に来たそうだ」
そう言われて、案内された事件現場は酸っぱい臭いが残ったままだった。おまけに地面はやや腐っており、そこに死体があったのは明白だった。
「特段争った後はなさそうだな」
「ああ、被害者は自殺した可能性が高いからな」
そう答えると、タバレは足元に座り込むとそこに転がっていたグラスと、地面に染みついたブランデーを見た。
「そのブランデーからもカエンタケと同じ成分の毒が検出された」
「普通悲鳴とかが聞こえないのか?」
「生憎と死亡推定時刻の時、豪雨が降っていた」
豪雨の雨の音で悲鳴も掻き消されたというのが警察の結論だった。
「時間の少し前に彼は風俗に連絡を入れていた」
「連絡?」
「嬢を一人お持ち帰りだとよ。店じゃあ結構金払の良い上客だったそうだ。ただ、予定時間を越して嬢を家に囲う迷惑客でもあったらしい」
「……」
話を聞き、タバレはわざわざ自分が呼ばれることでも無いなと言い、一言言って帰ろうとした矢先。
「だが当時、どの天気局も豪雨の予報なんて出ていなかった上に。市内の魔導レーダーがこの地区で魔法発動の兆候を確認している」
「……」
「頼めるか?」
ジェブロールは軽くため息をついた後にそこで目を閉じると、そのまま事件現場に手をやると、そこで手が少し淡く光った。
「えっ!?魔法!?」
それを見たジュリーは驚いた目で慌ててやめさせようとした所をジェブロールが制止させた。
「良いんだ」
「しかし、民間人が市内での魔法利用は……」
「良いんだ。俺達が許可している」
新人のお前は知らないだろうが。と言うと他の警官らも慣れた様子でタバレを見ていた。
そしてタバレは少し経った後に目を開けると口にした。
「少し前に降雨魔法が使われた形跡がある」
「そうか……」
「え?降雨魔法?それって……」
ジュリーが驚くと、ジェブロールは頷いた。
「ああ、降雨魔法は許可なく使用すれば法律違反だ」
「!!」
思わず驚いた目で死体のあった場所を見るジュリー。
「タバレは一週間以内に発動された魔法を遡れる異能があるのさ」
するとそこでタバレ自身が付け加えた。
「正確には使われた魔法の詳細は三日、それ以前は使われたかどうかしか分からないさ」
「……」
ジュリーは驚いた様子でタバレを見ていた。
するとタバレは仕事を終えたように部屋を出て行こうとする。
「帰るのか?」
「このために私を呼んだのなら、これで仕事は終わりだろう?」
「待て待て、まだ見てもらいたいのがあるんだよ」
ジェブロールがそう言うと、タバレは今すぐにでも帰りたい雰囲気を垂らしながら足を止めた。
「その被害者の遺体を見て欲しいんだ」
そう言うと、三人は今度は死体保管所に移動して行った。
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「被害者は自殺じゃ無いのか?」
「ああ、今の所は自殺だ」
ジェバロールはこう答えると、タバレは簡単な時間の経過を口にした。
「被害者は自殺前に風俗に連絡し、ひとしきり楽しんだ後に毒キノコを使って自殺したんじゃ無いのか?」
「降雨魔法は?」
「その嬢にはまって延滞理由でも作るためじゃ無いか?バレても罰金刑で済むわけだしな」
そう答えると、そこでジェブロールは彼に言った。
「じゃあ、呼び出した風俗嬢が向かう途中で襲われたら?」
「……どういう事だ?」
詰め寄るようにタバレはジェブロールを見ると、彼は教えた。
「事件直前、被害者の呼び出した風俗嬢は何者かに襲われ、公園で気絶していた。その間に被害者は毒キノコを煽っている」
「心中……では無いな」
心中目的ならそのまま部屋に連れ込む筈だ。
「だが、人が来ているのはアパートの大家が見ている」
「とすると、入れ替わりが目的の襲いか……」
「事実、盗まれたものは何も無いしな」
そう言うと、タバレは思わずジェブロールに詰め寄る。
「どうして黙っていた?」
「まだ公表されていないんだ。迂闊に話せば、周りの警官が何しでかすかわからん。それに……」
「警部、まもなく安置所に到着します」
ジュリーがそういうと車は郊外にある死体安置所に到着すると、そこで彼は言った。
「その被害者の死体に変な痕が残っているのさ」
「変な痕?」
ジェブロールの意味ありげな言葉にタバレは首を傾げていた。
ハーメルンにも同じ作品名で投稿しています。
そちらも是非ご覧ください。(注意:作風が全く違うので気をつけてください)