3.冒険者ギルド
あっ、『聖女の功罪』のネタが出てきた。
薬草採取を終え、わたしはウェルディという帝都より南に位置する港湾都市の冒険者ギルドへと戻ってきた。
扉を開け一歩足を踏み入れる。肌がピリつくよな、独特の緊張感がある。どこか懐かしい感じがするな。いくつかの好奇の視線を受けながら、ギルドの受付嬢たしか名はセレス嬢だったと思うが、彼女に先ほど集めてきた薬草を渡した。
「レインさん、初めての薬草採取、ご苦労様です」
ニッコリとほほ笑むセレス嬢はどこか好感を持てる。
歳は20ほどで、淡い金色の髪を後ろに奇麗にまとめている。
ヘーゼルの大きな瞳が印象的だ。美人というよりは可愛らしいといったほうがシックリくるか。
「こんなものでよかったのだろうか?」
「はい、量も種類も十分です。あの冊子で良くこれだけの種類を集めることができましたね。正直、ちょっと不安だったんですよ」
「採取すべき薬草のことを丁寧に纏めてありました。おかげで効率よく採取することができました。この冊子を作られた方は、本当に丁寧な仕事をされていますね」
「そ、それほどでもないですよぉ」
照れる彼女は年相応に可愛らしい。
なるほど、この冊子を作ったのはセレス嬢だったか。
地道に自分なりに、冒険者のために仕事をしたのだろう。こういった存在は冒険者でも、騎士団や軍隊でも希少だ。
「おいおい、30過ぎたおっさんが、いまさら冒険者を始めて、しかも子供でもできる薬草採取だとよ」
「へっへっへ、どうせどこに行っても役に立たねぇロクデナシなんだろうぜ」
「腰にぶら下げてる剣は、おおかた見栄を張るためのものなんだろうなぁ」
背後からわざと聞こえるように飛ばしてくる野次。いちいち付き合うのも面倒くさい。関わらないのが一番だ。
「き、気にしないでくださいね。薬草採取って地味ではありますが、とぉっても大切なお仕事なんです」
「こういう洗礼はどこでもあるものです、気にしたって仕方がない。それにこれがなければ、薬剤やポーションの作成に支障をきたすことは、十分知っているつもりです。馬鹿にできる仕事じゃない」
騎士団にいたころよく使われた青色ポーション。ポーションの中では最下級だが、それでも何度も命を救われたことがあった。切り傷やちょっとした怪我、体力の回復といった効果がある。それに軟膏や病気の薬にも薬草は使われる。
視野を少し広げてみれば、大勢の人の命を繋ぐ、命の薬草なのだ。
「それにしても、綺麗に採取されてますね。あと葉や茎も綺麗に洗ってありますね」
「そのようにしたほうが良いと、渡された冊子にも書いてあったのだが、余計だったりしますか?」
「い、いえ、とんでもありません! 依頼された方も大変喜ばれると思います」
「それは良かった」
お互いにニコリと微笑む。
「それでは今回の報酬です。銀貨15枚になります」
「たしかに、ありがたく」
わたしは銀貨を皮袋に収める。
「明日も薬草採取はありますか?」
「はい、できればしばらく続けていただけると大変助かります。ギルドにもあまり在庫がありませんし、なぜか最近は、市場にも出回りませんので……」
「分かりました。それでは明日も薬草を採取してきます。それでこの冊子ですが――」
「ああ、それはお持ちになってください」
「助かります。ですが他の方が困るのでは?」
「それは、まぁ、大丈夫です」
彼女の困惑する表情と、先ほどの野次から大方の察しはついている。
おそらく薬草の採取の仕事を生業とする冒険者がいないのだろう。
しばらくわたしの仕事は、薬草を採取になりそうだ。
わたしは銀貨を2枚皮袋から取り出すと、それをセレス嬢に渡す。驚いた彼女はその銀貨の受け取りを拒否しようとするが。
「この冊子の代金分です。これにはそれだけの価値があるということです。それにまた新しく薬草の情報が入れば、あなたはお金を受け取った後ろ暗さから、わたしに情報を伝えないといけません」
おどけた表情でそう冗談めかして言ってみる。
セレス嬢は苦笑して「賄賂はいけませんよ」などと言い銀貨2枚を受け取った。
わたしは、明日はそのまま現地に赴くことを伝え、冒険者ギルドを後にした。
こうしてわたしの新人冒険者としての初仕事は、銀貨13枚という結果をもって終了した。
チョコモナカジャンボ大好きです。
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