スライムテイマーの異世界改革 ～スライムは意外となんでもできますよ？ ご存じでない！？～

辺境伯の息子

新たな仲間

　俺はピュムと一緒に浜辺に打ち上げられたスライムを観察する。

　うーん、ピュムと比べるとやはり小さいな。

　それに、色もかなり薄い青だ。

　一般的なスライムとの違いってなんだろう？

　うーん……

　無難に考えるなら与える食事の違いか。

　ピュムは俺が見ている限りになるけど、水と草に魔力、それにクレスの魔法の氷しか食べたことはないはずだ。

　一般的なスライムは雑食なのかな？

　わからんことは護衛に聞いてみよう。

「なあ、スライムって、一般的になにを食うんだ？」

「ハッ！私たちが知る限りですが、雑食であり、ゴミでもなんでも食べるはずです」

「そっかそっか、ありがとう」

　護衛の人も外での訓練もあるだろうし、やはり魔物には詳しいな。

　それにしても、やはりスライムは雑食か……

　だけど、ここにいるスライムたちは、まったく移動しようとしないな？

　空腹じゃないってことなのか。

　ピュムと出会ったときは水を与えたあとに、草を食べようとした。

　だから、なんらかの方法で、ここにいるスライムたちは栄養を摂取しているってことになるな。

　海に浮いてるスライムたちを見る。

　海水から栄養を摂取している？　主な食事はプランクトンか？

　浜にまたスライムが打ち上げられた。

　打ち上げられたスライムを捕まえてみる。

　いやいやと暴れてから水を顔にかけられるが、海水ではない。

　次に体表に塩らしきものを出して、逃げようとする。

　逃げられる前に、護衛に抱えてもらうことにした。

　そして、魔力の玉をスライムの前に出してみる。

　スライムが明らかに静かになった。

　逃げ出そうとしない。目の前の魔力に釘付けのようだ。

　いつまでも魔力を見せびらかせては不憫なので、魔力の玉を与える。

　久々の食事を喜ぶように、すごい勢いで魔力を吸っていくスライム。

　もしかしてだけど、ピュムと一般的なスライムの違いって、魔力を与えたかどうかなのか？

　実験してみよう。

　もう少しこのスライムに魔力を与え続けたらどうなるのかを確認だ。

　ピュムと似たような変化があるかもしれない。

　魔力を与え続けた結果、ピュムとは色違いのスライムになった。

　透明度が増した白いスライムで、体のサイズがピュムよりも大きくなった。

　俺の考えはあっていたようだな。

　たぶんだけど、もうテイムできてはいると思う。

　この白いスライムに何が出来るかが気になるな。

「お前はなにが出来るんだろうなあ？　名前をつけるにしても、特徴が欲しいよな」

　俺の言葉を理解したのかはわからないが、白いスライムが体の一部を分離させた。

　分離させた球状の物体が砂浜に落ちる。

　俺は不思議に思って拾う。

　手に持った透明な球体は柔らかいなと思ったら、徐々に固くなる。

　ビニールのような柔らかさから、プラスチックとも言えない不思議な硬さだ。

　その球体の中には白い粉が入ってるようだ。

　指でつまんで球体を破る。中に入っている白い粉のニオイを嗅いでみる。

　特にいやなニオイはしない。

　むしろ、海の香りとでもいうのだろうか？潮っぽい香りがする。

　ほとんど確信に近い気持ちはあるが、油断はしない。

　はあ、護衛に毒見させるしかないか。

　さっきから険しい目で俺の手元を見ているし。

「ごめん、毒見してくれる？　たぶん毒じゃないとは思うんだけど」

「お任せください。先ほどのように、毒見もせずに口に含みそうでヒヤヒヤしましたよ……」

　護衛が白いスライムを足元に置いた。大人しいスライムだ。逃げようとしない。

　というよりも、こちらの動向を見守ってる様子が見て取れる。

　護衛が俺の手から球体を受け取り、白い粉をつまみ、触感、風味を確認する。

　そして、白い粉を少量口に含む。

「……塩、ですね。けれど、とても美味です。砂も混じってない様子。安全だとは思いますが、まだ口には含まないでくださいね。遅効性の毒の可能性もありますから」

「わかったよ。でも、ありがとう。塩らしいものだとわかって、安心した」

「いえ、これも職務ですから。ロイ様はこのスライムもテイムする気ですか？」

「ああ、そのつもりだよ。優秀なスライムはいくら居てもいいと思ってるくらいだからね」

「差出口かもしれませんが、魔力は足りていますか？」

「魔力？　テイムに魔力が関係あるの？」

　護衛からの説明によると、テイムした魔物とは魔力による連絡経路が繋がり、常にテイムした魔物に魔力を送ることになるそうだ。

　魔力が足りないと、テイムした魔物は自由になってしまい、人に危害を与える可能性があるとのこと。

　つまり、俺という魔力の貯水タンクから、蛇口を増やして、ピュムたち一匹ずつに魔力という水を分け与え続けなければならないらしい。

　魔力を与え続けないと、ピュムたちが暴走するという話のようだ。

　ここで俺の魔力量について話をしよう。

　俺は意識していなかったけれど、俺の魔力量はとんでもなく多いとニーナが言っていた。

　女神様もたしか、ロイの死因は身体に宿る魔力のせいだと説明していた。

　元々のこの身体の持ち主、ロイの魔力を俺が受けとめることができたからこその魔力量なのだ。

「そういうことだったのか。魔力は大丈夫だよ。心配してくれてありがとう」

「無理していないのであればよかったです。体調が悪くなったら教えてください」

　護衛は俺の心配をしてから、塩の入った球体を返してくれた。

　白いスライムはまだジッとしている。ピュムもそばで様子を見ている。

　俺は白いスライムに質問する。

「この塩の入った球体はいくらでも作れるのか？」

　白いスライムが質問に答えるように、塩の入った球体を体から分離させる。

　分離させるたびに体が小さくなる。

　俺は白いスライムが心配になって声をかけようとすると、白いスライムが波打ち際に入る。

　白いスライムの行動を見守ってしばらく経つと、飛び跳ねてこちらに戻ってくる。

　体のサイズが元通りになったようだ。

　そして、また塩の入った球体を生み出す。

　なるほど。つまり、こういうことか。

「お前は海水から塩だけを取り出すんだな？　水分は放出できて、また海水を摂取することで、塩の入った球体を生み出す」

「ぷぃ！」

「おっ、初めてしゃべってくれたな？　魔力いるか？」

「ぷぷーぃ！」

　魔力を喜んで摂取する白いスライム。

　横でジッとしていたピュムが、魔力を与えているのを見てプルプルと震えた。

　ペットは甘やかしてはいけないと一般的には言われているけど、ご褒美ならいいだろう。

「ピュムも見守ってくれてありがとうな？　ほら、魔力だよ」

「……ぴゅぃ！」

　少し悩んだ素振りをみせたが、ピュムは嬉しそうに魔力を食べた。

　さて、特徴も分かったし、この白いスライムにもちゃんと名前をつけないとな。

　その前に、このスライムからの意思も確認するか。

　しゃがんで、スライムとの目線を合わせる。

「お前は俺についてくる気はあるか？」

「ぷぃ？」

「あーっと、言葉を変えよう。俺と一緒に遊んでくれるか？」

「ぷっぷぃ！」

「わわっ！」

　白いスライムは俺の胸元に飛び込んできた。

　テイムを受け入れたと思っていいんだろう。

　俺は白いスライムを抱えながら、名づけをする。

「今日からお前はソルトだ！」

「ぷーぃ！」

「ぴゅぃぴゅぃ！」

「そうだな、ピュムは先輩スライムだな。仲良くしてやってくれ」

「ぴゅぃ！」

「ぷぃ！」

　また安直な名前ではあるけど、この世界に英語はない。

　誰も塩と名付けたことには気づかないだろう。

　それよりもピュムに後輩ができたことで、ピュムが先輩風を吹かしている。

　仲良くしてくれるといいんだが……

　さて、実験も終わったし、気になったことをまとめよう。

　海辺のスライムたちに魔力を与えることで、テイムすることが可能ということ。

　起こってほしくはないが、スライムが人間に危害を加えようとしても討伐は簡単だ。

　まだ安全性は確認していないが、良質な塩の量産が可能ということ。

　一人に対して、スライム一匹としても、それなりの量が確保できる。

　今まで塩を作っていた職人たちを新たに雇い直して、スライムをテイムさせる。

　これは段階的にテストして、合う合わないを判断した方が、スライムにとってもいいだろう。

　適正は見ておかないと、塩職人たちとスライムが衝突しそうだ。

　塩にも工夫をこらしたい。

　ハーブソルトをスライムが作れるかの実験もしたい。

　これが出来るかで、塩に多様性を持たせられて、商品に幅が出る。

　あとはスライムたちが作る塩を取り扱う商会を見極めないとな。

　こればかりは俺が足を運んで決めないといけない。

　職人たちからも商会の印象を聞き取りをしよう。

　ついでに、醤油と味噌を扱っている商会を探してみよう。

　外国と貿易をしているんだ。

　もしかしたら扱っている商会もあるかもしれない。

　お米もあるといいけど、お米も種類があるからなあ。

　あ、お米のこと考えたら、チャーハンとカレーも食べたくなった。

　カレーとなると料理人も探した方がいいかもしれない。

　あの複雑なスパイスの調合を出来る人が必要だ。

　チャーハンは油にもこだわりたい。

　ごま油なんて、この世界にあるのかな？

　あの香ばしい香りの油はぜひ欲しい。

　うーん、この辺は厨房の料理人に聞いてみよう。

　食事関係となると、本当にやることが多いな。

　一つ一つ解決していかないと、パンクするぞ。

　まずは、スライムが作る塩を扱ってくれる商会探しからだ。

　父上にもちゃんとやりたいことを相談しよう。

　女神様案件っていえば、手伝ってくれるだろうからね。

　さあて、忙しくなるぞ！