スライムテイマーの異世界改革 ～スライムは意外となんでもできますよ？ ご存じでない！？～

辺境伯の息子

ピュムが加わった生活

　テイムしたスライムのピュムのおかげで日々がさらに楽しくなった。

　兄たちとの勉強に鍛錬。

　そこにスライムのピュムが加わったのだ。

　犬に計算を教える動画を見たことがあった。

　それをマネして遊びのつもりでピュムに計算を教えてみた。

　驚くことにピュムは説明したことを理解して、計算ができてしまった。

　正解した時には、ご褒美として魔力をあげた。

　ご褒美の魔力が目当てかもしれないけど、ピュムの計算は早い、その上で正確だ。

　俺でも少し考えてから答える問題を、サラッと答えるのだ。

　しかも、間違えない。

　ピュムが計算力で俺の上に来たので、俺も再度勉強を頑張った。

　それに引っ張られるようにして、兄のクレスとジェロも勉強していた。

　単純にスライムに負けるわけにはいかないと、兄たちはプライドを守るために必死だった。

　兄たちに勉強の意欲があるようなので、ひっ算を教えてあげた。

　こんなのがあるならもっと早く教えろ！　と二人に怒られて、俺はイラッとしたので九九も一緒に教えてあげた。

　どうせ家庭教師がかけ算とわり算も教えるのだ。

　先に覚えておいて損はない。

　ピュムも新しい計算方法だからか、九九に興味を示したので教えてやった。

　俺がピュムにも九九を教えているところを見て、兄たちが絶望に染まった顔をしていたが、無視をして二人を煽ってやった。

　俺は意地悪く笑い、「ピュムとどっちが先に覚えられるかな？」と、兄二人を小馬鹿にしてやったのだ。

　二人ともスライムに負けたくない一心で、九九をあっという間に覚えた。

　鍛錬中にもブツブツと九九を唱えているせいで、師匠たちを怖がらせてしまったほどだ。

　これは反省点だな。

　特に、アビーにはとても怒られたよ。

　アビーはホラーが苦手のようだ。弱みを握れたぜ、やったね！

　最終的に九九を先に覚えたのはピュムだったけど、ピュムがわざと問題を間違えて、二人に勝利の喜びを教えていた。

　できる大人のスライムだったよ、ピュムは。

　「やれやれ」といった呆れた感情がピュムから伝わってきた。

　ピュムとは言葉でのやり取りはできないけど、感情から何を考えているかはわかるようになった。

　ちゃんと説明すれば理解もするし、人の行動をよく観察しているように思える。

　これはピュムだからなのか、スライムだからなのかは要検証だ。

　鍛錬でもピュムは俺たちと一緒だ。

　やはりピュムは魔力が目当てなのかもしれない。

　俺が魔力の玉を投げると、飛び跳ねてパクッと食べるのだ。

　その様子を見て、クレスが「これも食べるか？」と、魔法の氷のつぶてを放り投げると、それも飛び跳ねて食べた。

　氷は初めて食べるのか、歓喜の感情がピュムから伝わってくる。

　もっともっと！　と言うように、ピュムがクレスの足元で飛び跳ねる。

　クレスも喜んでピュムに氷を与え続ける。

　普通に与えるのでは飽きたのか、クレスは「これはとれるか？」と挑戦的な軌道で氷を投げ始めた。

　氷がプロ野球選手もびっくりなカーブをしても、ピュムはしっかりと受け止めて食べた。

　それを面白がったクレスは、どんどんと摩訶不思議な軌道をえがく氷を投げ続けた。

　結果的に複雑で、かつ緻密な魔力操作を身につけたクレスだった。

　これはニーナも驚きの成長だったようで、ピュムを「偉い偉い！」と撫でていた。

　ジェロの方にもピュムは遊びに行った。

　アビーは邪魔そうにしていたが、ジェロは目を輝かせた。

　「俺とも遊んでくれるのか！」と言って、ジェロは魔法で地面からトンネルを作ってピュムを喜ばせていた。

　喜ぶピュムを見て、ジェロは少し考えてから、「ちょっと待ってろよ！」と言いながら、目を閉じて魔法に集中する。

　「それっ！」と気合を入れて足を鳴らしたかと思うと、地面が隆起した。

　そこにはピュムが通れる大きさのトンネル要塞が現れた。

　これにはアビーも呆けた顔をして、「育成方針を変えたほうがいいか？」と真剣に悩んでいた。

　ピュムは楽しそうにトンネル要塞のトンネルをあちこち通って遊んでいた。

　兄二人がピュムの存在によって、どんどんと成長していく。

　これに俺はショックを受けた。

　このままではピュムが兄たちにとられた上に、鍛錬に置いていかれてしまうと思ったのだ。

　夕食後の団らん室で、両親に攻撃として使わないから魔法を使わせてください！　と必死に懇願した。

　あまりの必死さとピュムと遊んだという兄たちの報告を聞いて、両親も仕方なく許可してくれた。

　ここであまりに今更な紹介だが、父カーチスは辺境伯という貴族の身分をこのシャンティ王国で持っている。

　オネットは辺境伯夫人で、次期当主はクレスとなる。

　言い方は悪いが、ジェロはクレスの予備となる存在だ。

　クレスの身に何かあった場合は、ジェロが次期当主になる。

　だが、ジェロは当主などいやだ！　と常々両親に言っている。

　クレスの身辺を守るから、当主はクレスにやってほしいそうだ。

　そのために身体を鍛えて、勉強しているようだ。

　たまに護衛騎士や執事のセバスから、当主を守るためにはと質問しているのを見かける。

　勉強は一応、当主になる可能性があるため、渋々やっている様子だ。

　そんなジェロはクレスの食べるものを毒見している。

　普段の食事、おやつの時間と常にだ。

　必ず、一口食べて飲んで、「問題なし！」と言って、クレスに食事を渡している。

　この話をなぜしているのかというのは、ピュムが毒見をマネしたがったからだ。

　最初はよくわからずに一口ではなく、全部食べてしまっていた。

　ジェロがピュムに毒見の意味を説明すると、ピュムはちゃんと理解したようだ。

　ピュムはそれから色々な物を食べるようになった。

　庭を散歩をして植物を見ると、必ず食べるのだ。

　まれではあるのだが、ピュムの体が赤くなって飛び跳ねることがある。

　そのときは庭師を呼んで、その植物を調べさせる。

　すると、人体に有害な植物だと判明した。

　庭師はお手柄だ！　とピュムを褒めてから、父カーチスに報告して庭全体の調査になった。

　庭師たちが庭全体を確認して、有害な植物の一斉除去となる。

　カーチスもピュムを認めたようで、「お手柄だったぞ」と撫でて褒める。

　そのときのピュムからは、ふんぞり返るような尊大な態度のような感情が俺には伝わった。

　ピュムのドヤ顔ってことで、俺は笑って許した。

　父に認められたピュムだが、まだ母オネットにはあまりいい顔をされていない。

　魔物という固定概念がきっとあるのだろう。

　ペットとして見れば、スライムにだって愛嬌があると俺は思うんだけどなあ？

　そんなピュムがオネットに認められたのは、オネットが管理する花壇での出来事だ。

　オネットが管理する花壇は小さい。

　だが、それゆえに季節ごとに綺麗な花が咲くようにと、計算された配置をしている。

　この世界にも四季はあるようで、今の季節は夏に入ったばかりだ。

　オネットの花壇には、色とりどりの夏の花で満ちていた。

　それはオネットが花壇に水やりをしようとしたときだった。

　毎日水やりをしているオネットを見ていたピュムが、水やりを学習したのか、オネットのために水の入ったジョウロをピュムが用意していた。

　驚くことにピュムは魔法が使えるようになっていた。

　通常のスライムではありえない進化だった。

　そんなことは知らないオネットが、水やりのためにジョウロを取りに向かうと必ずピュムも付き添うようになった。

　そして、魔法の水でジョウロを満たすのだ。

　オネットは柔らかく微笑み、ありがとうとお礼を言って、ピュムを撫でる。

　こうして、ピュムはようやく家族全員に認められた。

　ピュムはスライムだけど、説明すればちゃんと理解するし、日々の行動をよく観察して学習する。

　そして、魔法を使う。

　ピュムが魔法を使えるようになったことを知った父カーチスは、ピュムと俺に注意をした。

「いいかい、ピュム。それにロイ。魔法は便利だ。だが、同時に危険な側面も持つ。お前たちが良かれと思って行動したことが、他人の目には恐怖や危険と捉えられることがある」

「ぴゅぃ？」

「ピュム、父上は君が知らない人に危険な魔物と思われることを心配しているんだよ」

「そうだ。ピュム、君への評価が主人であるロイの評価にもつながることに注意するんだ」

「ぴゅぃ……」

「ピュム、誰にだって間違うことはある。けれど、一度の失敗が評価としてずっと残るのが、俺たち貴族なんだ」

　俺とカーチスは、貴族の常識なんてピュムには難しいことだとはわかっている。

　それでも説明しておかなければならないことなのだ。

　だから、根気よく説明する。

「我々には基本、失敗は許されていない。だから、君が迷うときは主人の指示をよく聞くんだ。そして、何が正しいかを考えるんだ。これは、ロイにも言えることだ」

「はい、父上。指示を迷う場面は必ずあります。そのときには、何が正しいかをちゃんと考えます」

「ぴゅぃ！」

「ピュムからも肯定の意思が伝わりました。ピュムも考えて行動するようです」

「そうか。よかったよ、理解あるスライムで。だが、随分と知能のあるスライムに育ったな？」

　それは俺も思った。

　犬や猫といったペットでも、ここまで人語を理解することはない。

　スライムだからなのか、ピュムだからなのか。もっとデータを集めたい。

　普通のスライムとは何が違うのかが、まだわからないのだ。

　スライムにはまだまだ可能性がつまっている気がする。

　それを調べて活かせるかは、今のところ俺次第だ。

　ほかのスライムも調べてみたい。

　ついでに、街の食事事情も調べたい。

　海が近いのだ。新鮮な魚が食べられるかもしれない。

　女神様の依頼でもあるし、食文化も発展させたい。

　俺は街に出る許可を父上にお願いしてみた。

「女神様の依頼も含めているなら、止めるわけにはいかないな。護衛を必ず連れて行くこと。それと、護衛から離れないことを守れるなら許可しよう」

「はい、護衛からは離れません。ありがとうございます！」

「ついでに、冒険者ギルドにも行きなさい。ピュムの話はまだ仮の状態だ。ピュムを正式にテイムしたと報告してくるんだ」

「わかりました」

　よし、街に出かけて、スライムの調査と食事事情を調べるぞ！

　スライムの一般的な印象を聞きたいし、美味しいご飯が食べられるといいな。