コルディヤ滞在の間
すいません、こちらの都合で話を差し替えました!
だいぶ時間がかかった分、だいたいいつもの3倍の文量です!
よろしくお願いします!!
いつもの悪夢だ。
お父様とお母様が最初にいなくなる。
そのあとにリリィが。
私が関わってきた人たちが遠くに行ってしまう。
熱い、苦しい、寂しい。
なんでこんな悪夢を見るの?
どうしてなの?
それに答える声が聞こえた。
『それは予知夢です。巫女殿には悪い未来を、夢という形で見る力があるようです』
「神狼、様?」
『我のことは、どうかシロとお呼びください。あの場で真名を告げらなかったことをお許しください』
「ううん、今ならわかるからそれはいいの。予知夢って?」
『巫女殿に我が加護を授けた結果、元々あった才能が開花したようです。今までもこのような夢を見てきたのでしょう。おいたわしい……』
「そうね、昔からこういう夢を見てきたわ。私は一人になってしまうの?」
『それは我にはわかりません。ですが、この闇を払うものがもうじき来るでしょう』
「どういうこと?」
私が聞き返したときには、シロはいなかった。
何度呼んでも姿が見えない。
やはり、私は一人になる運命なんだ。
そう結論付けて、しゃがみこんで泣いていると、ふわりと風が吹いた。
顔を上げると、そこにはロイ様がいた。
「シャルロッテ、助けに来たよ」
「ロイ、様?」
私は涙でぼやけて見える彼を凝視した。
次の瞬間には抱きしめられていた。
「もう大丈夫だ。君は一人じゃないよ」
私は彼の胸で泣いた。
一人が怖かった。
ずっとこのままなんじゃないかと不安だった。
胸の内を、彼に包み隠さず話した。
その都度、彼は笑って私の頭を撫でる。
今までどこにいたのか、クゥが姿を現す。
彼のスライムたちが、私の周りを飛び跳ねる。
リリィやお父様、お母様がそばで見守ってくれている。
「俺がいる。君は一人なんかじゃないよ」
そう言って、ロイ様が輝く右腕を振る。
あれが聖印。
なんて美しいのかしら。
彼が腕を振るうと、真っ暗だった世界が色を取り戻す。
小川が流れ、綺麗な花畑がある。
川のせせらぎが聞こえる。花の香りが優しく香る。
彼に手を引かれて、テーブルが用意されている場所へ向かう。
テーブルのそばには、リリィや彼の侍女アドラがいる。
「さあ、席について?」
彼に言われて、リリィが引いてくれた椅子に座る。
「お茶をしよう。君が起きるまでね?」
ああ、やはりこれは夢なんだ。彼の言葉で、私は確信した。
でも、こんな夢ならいつまでも見ていたい。
私たちは夢の中でのお茶会を楽しんだ。
美味しいお茶に、見たこともないお菓子。
これは異世界のお菓子なんだ、いつかこちらでも再現してみせると彼は言う。
私は異世界という言葉が引っかかったが、たしかにこの美味しさは異世界のものだと、すんなりと信じることができた。
ロイ様は不思議な人。
私はなんだか眠くなってきた。
楽しいお茶会はもう終わりらしい。
「そろそろ目が覚めるようだね? それじゃあ、今日はシャルロッテ嬢のスライムをテイムしに行こうか?」
「あ、あの、ロイ様!」
「ん? どうしたんだい?」
「私のことはどうか、どうかシャルとお呼びください。周囲の親しいものにはそう呼ばせております」
「そうか、わかった。シャル、朝食の席でまた会おう」
「はい、ロイ様!」
そこで私は目が覚めた。
目が覚めると、ベッドの脇で丸くなるクゥがいた。
どうやら昨日は、この館の人たちに丸洗いされたようだ。
朝の支度をしてるときに、リリィから聞いた。
鼻歌を歌っていると、リリィから不思議そうな顔をされる。
「お嬢様? そのような曲をいつから?」
「そうね。夢の中のお茶会で、かしら?」
「?」
リリィがさらに不思議な顔をする。
私はその顔がなんだかおかしくて、笑ってしまった。
朝食の席でロイ様と顔を会わせる。
「おはよう、シャル。体調はよくなったようだね?」
「はい、おかげさまで。お茶会、ありがとうございました」
「坊ちゃま? いつお茶会を?」
「ふふっ、夢の中で、かな」
アドラも不思議そうな顔をしている。
私たちは二人で顔を見合わせて笑う。
「さあ、朝食にしようか。シャル、こちらにおいで」
私はロイ様にエスコートされて席につく。
小さな淑女と小さな紳士だ。
微笑ましい光景だと周囲から温かい目で見られているのを感じて、いまさら私は恥ずかしくなった。
今日はほかの生徒とは別行動です。
彼らはテイムしたスライムに魔力を与えることと、仲良くなることをロイ様から指示されていました。
私たちは先日の草原へと来ています。
今日は私とロイ様だけなので、私たちの侍女も同行している。
前回のように、騎士たちが周囲を警戒しています。
「うーん、やはりスライムが見当たらないな?」
「そうですね? なんででしょうか?」
そのとき、近くで「ぴきぃ!?」というスライムの鳴き声が聞こえました。
でも、鳴き声というよりは、悲鳴のように聞こえた気もする。
私たちは顔を見合わせて、鳴き声が聞こえた方に近づきます。
そこにはクゥがスライムを追い払っている姿を見つけた。
「なるほど。これは見つからないわけだ」
「こらっ、クゥ! 私たちはスライムをテイムしに、ここに来ているのですよ? どうしてスライムを遠ざけるのですかっ?」
「クゥ~ン」
「ハハッ、わかったぞ。クゥはスライムに嫉妬しているわけだな?」
「嫉妬、ですか?」
「クゥ……」
「スライムに君を取られるとでも思っているのだろう。そこの誤解を解いてあげればいいんじゃないか?」
「クゥ? 私はお母様から言われて、美の秘訣を教えてもらうようにと言われて、ここに来ているのです。だから、邪魔をしないでくださいまし」
「クゥンクゥン」
首を振るクゥ。
こちらの言葉はわかっている様子。さすがは神狼の子。
では、言葉でわかってもらわなければ。
「お願い、クゥ。わかって?」
「クゥンクゥン」
「困ったわ? どうしたらいいのかしら……」
「じゃあ、こうしよう。クゥ、俺のスライムをシャルの護衛につける。それならいいかい?」
「ロイ様? いいのですか?」
「ああ、それくらい大丈夫。セラピーもだいぶ成長しちゃって、ちょっと困ってたくらいなんだ」
ロイ様のセラピーちゃんが今後、私の護衛についてくれるそうです。
けれど、これに不満の声をあげたのはリリィです。
「ロイ様、お嬢様の護衛は私が任されています。スライムの護衛など不要です」
「まあまあ、物は試しに受け入れてくれよ? 俺も安心できるし、シャルの母上の課題も綺麗に片付くんだ」
「リリィ、私からもお願いします」
「お嬢様……、わかりました。スライムの手を借りなくても、私が守れるでしょうけど、奥様のこともあります。今回は引いておきます」
リリィは私が生まれたときから面倒を見てくれた侍女です。
私に対する忠誠心のようなものがとても強い。
でも、なにかがあって衝突しても、こうして話せばわかってくれる。
さて、そうなると、今度はこれからどうしようかという話になりますね。
私がどうしようかしらと考えていると、ロイ様の侍女アドラが草原に敷物を準備していました。
「話は済みましたか? では、簡易ではありますが、ピクニックといたしましょう」
「アドラ、いつの間に……」
「坊ちゃま? こうなることは予想していたから、私に指示していたのでしょう?」
「それはそうなんだがな。ハア、シャル。こっちにおいで。もう昼食に近い時間だ。サンドイッチを一緒に食べよう」
「はい、ロイ様」
「アドラ、お茶を頼む。リリィも警戒は周囲の騎士に任せればいい。お前も座れ」
「そうよ、リリィ。たまには一緒にお茶しましょう?」
「ですが、お嬢様」
「ねっ、お願い」
リリィは仕方がないとため息をついて、座ってくれた。
昼食のサンドイッチは美味しかった。
ベーコンとシャキシャキとした野菜が挟まっており、飽きないようにとジャムのサンドイッチもありました。
私はなんだかリリィに甘えたくなり、膝枕をしてもらいました。
ロイ様もアドラに言われて、膝枕されているようです。
私はこの瞬間世界一と言っていい程に、幸せな時間を過ごしている。
「なあ、俺らって空気のようにしか思われてないよな?」
「うるせえ、主を守るのが俺たちの仕事だ。黙って警戒してろ」
「そうは言っても、こんなに天気のいい日に膝枕で寝れる主人が羨ましいよ」
「お前、アドラのこと気になってるって言ってたもんな?」
「う、うるせえ。お前こそ黙って警戒しろ」
私の知らないところで騎士たちが騒いでいたそうですが、私はすでに夢の中。
日差しがきつく思えても、草原に吹く風はとても心地いい。
私たちは夕方近くまで眠ってしまいました。
ここにいられるのも、あと三日。
私はクゥに魔力を与えながら、ほかの生徒がマッサージを習っているのを見る。
ロイ様のセラピーちゃんの分体、兄弟? となる存在のエスティを借りました。
セラピーちゃんができることは、エスティにはすべてできるようです。
なので、マッサージの講習に私たちは参加しません。
その代わり、私はスライムたちに囲まれて、ロイ様と別室でお勉強です。
「シャルはどこまで勉強が進んでいるか聞いてもいいか?」
「お恥ずかしながら、まだ基本文字と数字を覚えて、ここへ来る道中でいくつかの単語を覚えた程度です」
「そうか。単語の方は今後も勉強ということになるな。俺もそういう状況だ」
「そうなのですか? なんだか意外です」
「基本文字の組み合わせが不思議でな。どうしてその組み合わせで、その単語に!? ってのが多くてなあ」
「加護をもらった今なら、ロイ様のその気持ちがわかるかもしれません。文字としては『バ』と『ス』なのですが、意味はお風呂なんですもの。単語は難解です」
「そうそう。俺は気になったから、文字の方を詳しく調べてみたら、文字に属性があるようだ。『バ』には水という属性があって、『ス』には火の属性がある。だから、お風呂になるらしい。不思議だよな」
「そんな意味があったのですか!? 知りませんでした。いえ、加護の知識の中にはありますね。なるほど、それで詠唱魔法というものがあるのですね」
「へえ、詠唱魔法か。興味をそそる言葉だ」
「お二人とも、話がお勉強から脱線しています」
「坊ちゃま? 興味を持つのはいいのですが、今はお勉強を優先してください」
「ごめんなさい、リリィ」
「すまん、アドラ。魔法という言葉に、つい夢中になってしまった。じゃあ、計算から教えるとしようか」
侍女二人に注意をされて始まった、おかしなお勉強会。
けれど、ロイ様はすごいです。
神狼様の加護にない計算方法を教えてくださいます。
私は加護のおかげで地頭がよくなっているのですが、実際にはまだ真っ白な画布のような状態です。
ここから私自身が情報を得て、画布に知識という絵を描いていくのです。
出来上がった知識の塊である絵を活かして、扱う私が知恵となるのです。
ロイ様が私の吸収力、学習能力に驚いているようですが、子供ということと加護の力に頼っている私。
私は勉強法面ではズルをしていますね。
ですが、私が得意になっている様子を見て、ロイ様がピュムちゃんを呼びます。
「ピュムさんや。ちょっと、シャルロッテ嬢に現実を突きつけてあげなさい」
「? どうしたのですか、ロイ様?」
「これから二人に計算問題を出す。早く答えられた方に頭をなでなでします」
「!? 負けられませんっ!」
「ぴゅぴゅぃ!」
「じゃあ、始めるぞー」
そこから始まった絶対に負けられない戦いに、私は何度も何度も敗北しました。
ピュムちゃん、計算早すぎだよぉ……。
私が机に突っ伏していると、ロイ様が頭をポンポンと撫でてくれました。
「シャル? なんにでもそうだが、上には上がいるってことを覚えておくといい。戦いの場では、それが命を左右することもあるからな」
「……はい、よくわかりました」
「ぴゅぃぴゅーい!」
「おっ? 敗者の頭を撫でたら意味がないって? 固いこと言うなよ、ピュム」
ピュムちゃんとロイ様がじゃれ合っています。
とても眩しくて、羨ましい光景です。
私もクゥといつかはあんな風になれるでしょうか?
ううん、それよりもロイ様と……。
午後からは魔法の鍛錬です。
ロイ様から護身用の魔法を教えてもらいます。
加護のおかげでこちらもすぐに習得できそうでした。
ただ、威力と照準の調整が難しいです。
ロイ様にそう伝えると、解決方法を教わりました。
なるほどと思って練習したのですが、中々うまくいきません。
これは帰ってからも練習が必要そうです。
リリィがロイ様の実力を疑うものだから、模擬戦を行うことになりました。
私に教えた魔法が使えるものなのかと。
挑発するようにロイ様が「自身で試してみるか?」と言うので、ケンカ腰の二人を見て、とてもハラハラしました。
模擬戦の結果はロイ様の圧勝。
勝負は本当に一瞬でした。
瞬きした瞬間に、ロイ様の後ろをとったリリィの勝ちかと思ったのですが、ロイ様は足踏み一つでリリィを無力化してしまいました。
審判をしていたアドラが、少しは手を抜いたらどうですか? と言って、ロイ様に呆れながら、リリィlに近づきます。
ロイ様はそれには返事を返さず、リリィを見ます。
口を開こうとしてやめたロイ様が気になりますが、今はリリィです。
私はエスティを連れて、急いでリリィの治療をしました。
幸い、リリィは少し痺れただけということで、ホッとしました。
リリィになにかあったら、ロイ様を許せなくなりそうでした。
でも、ロイ様が何かを考えるようにして、リリィを見ているのはどういうことでしょうか?
けれど、あれが私が学ぶ魔法なのですね。
たしかにあれなら、周囲の人間を一度に無力化できそうです。
もう一つの方法は一人一人に対して使えそうですし、私にとっては強力な魔法になりそうです。
使いこなせるように、練習あるのみですね。
今日はコルディヤに滞在する最後の日なので、私たちは観光をさせてもらえることになった。
生徒一人一人に騎士たちがついて、案内もしてくれるとのこと。
私はロイ様が案内してくれるとのこと。
リリィとロイ様の護衛ももちろん一緒だ。
私たちは貴族なので、二人っきりになるのは、夫婦という関係に至るまではありえません。
ですが、それでもこのように二人でお出かけができるのは嬉しいです。
ロイ様は私をどこに連れて行ってくれるのでしょうか?
ロイ様は色々なところに連れて行ってくださいました。
スライムが浮いている海やスライムが塩を作っている作業小屋などです。
どうして、雰囲気のある場所に連れて行ってくださいませんの!?
昼食ということになり、ロイ様はある商会に連れて行ってくださいました。
そこには赤髪が綺麗な女性がいました。
私たちが来ると嬉しそうな顔をします。
まさか、ロイ様を慕う方ですか!?
ですが、すぐに勘違いだと分かりました。
この方の目的は護衛の方のようです。
ロイ様は二人を会わせるために、ここに来たようです。
二人の視線にはお互いを想い合う気持ちが、ハッキリと見てとれました。
ですが、ロイ様はしばらくは二人の好きにさせていましたが、すぐに仕事に戻らせました。
「あー、ハンナ? 少し醤油をもらえるか? 前に話していた瓶はできたか?」
「ロイ様、もう少し甘い時間を味わせておくれよ? 久しぶりに会えたんだよ?」
「ハイハイ、アレンに怒られたくなかったら、さっさと仕事モードに戻ってくれ」
「ハンナ? もう少し厳しく修行するかい?」
「いえ、お父様。しっかり仕事をしたいと思います!」
「よろしい」
この方のお父様でしょうか?
厳しく教育中ということなのでしょうか?
よくわかりませんが、護衛の方がガックリと肩を落としています。
ですが、私は見ました。
二人がすれ違う瞬間に、ハンナという方が護衛の方の頬に口づけをしていたのを。
私は見てはいけないものを見てしまった気がします。
ロイ様はこちらで食事を頂くようです。
先ほどのハンナが「うちは食堂じゃないんだがねえ」とボヤいています。
ロイ様がそれに対して「マルスの胃袋を掴むレシピはいらないか?」と返して、厨房を使う許可を頂いています。
どうやら、彼女は護衛の方の胃袋をロイ様から奪い返そうとしているようです。
たしかに、ロイ様の料理は美味しいです。
私が胃袋を掴まなければならないはずなのに、気づいたら私が掴まれています。
これは大問題なのでは!?
私が一人ショックを受けている間にも、料理が出来上がって運ばれてきます。
今日は暑いということで、冷たいダシチャヅケというものを頂きました。
焼いてほぐした魚や香りの強い野菜をライスに乗せたものに、ロイ様が出汁というものを魔法で冷やして、上から注いで食べるようです。
ここでも当たり前のように、あの二本の棒が用意されます。
私はまだうまく扱えません。
ですが、使えないとは言えません。
私の葛藤に気付いたロイ様が「まだ箸が難しいならスプーンを使うといいよ」と言ってくれました。
ロイ様の言葉に甘えて、今回はスプーンを使わせてもらうことにしました。
食事をしながら、二本の棒、箸の練習の仕方を教えてもらいます。
「それなら、シャルにあった長さの箸を探そう。子供向けの箸もあるよな、ハンナ」
「ええ、もちろんありますよ。箸の練習には、やはり小皿に入れた豆を、別の皿に移すのがいいと思います」
「なるほど。私が使いやすい長さの箸があるでしょうか? 帰ったら練習しようと思います」
その後も、箸を扱うのに苦労した話や使うためのコツを教わりました。
店内で私に合った箸を探している間、ロイ様は商会に来ていた商人と、なにやら商談をしているようです。
私はロイ様が構ってくれないことに、ふくれっ面になりながら箸を探します。
私が探すのに夢中になっていると、後ろから髪に何かが差し込まれます。
「えっ?」
「うん、やはり似合うね。これにするよ、いくらになる?」
「アリガトゴザイマス、これくらいでドウデス?」
「うーん、ややするが……、まあ、いいだろう」
「マイド! ソチラの方にはコチラも似合うとオモイマスですよ?」
「商売上手だな、さっきのと合わせて、少し安くしてくれ」
「ボッチャン、太っ腹ネ! イイヨイイヨ! コイビトにはいい買い物ネ!」
「まだそういう関係じゃないがな」
ロイ様が私に髪飾りを買ってくれたようです。
ですが、それよりも……
まだそういう関係じゃないがな。
まだってどういうことですの!?
気になりますわ!
ロイ様も私のことを……、好ましいと、思ってくれているのでしょうか?
今、私は顔が真っ赤になっている自覚があります!
ロイ様を直視できません。
ドキドキと胸の鼓動が止まりません!
どうしましょう!?
私が赤面している間に、いつの間にか私は座らされて、リリィが商人に髪飾りの使い方を教えてもらっていたようです。
まったく気づきませんでした。
気が付いたら帰りの馬車の中にいて、ロイ様に「今日は楽しめたかい?」と聞かれたのですが、静かに頷くしか出来なかった私。
この気持ちを直接あなたに伝えられたら、どれだけ楽かと悩んでしまいます。
今日はロイ様と別れの日。
生徒の方々は今日帰らなければ、夏休暇が明ける学校の授業に間に合いません。
そのため、各々自分のスライムを抱えて、荷物を馬車に運んでいます。
私もその内の一人です。
ロイ様がこちらの食事を忘れないためにと、調味料や茶葉を持たせてくれます。
リリィが荷物を馬車に預けている間に、私はロイ様に別れの挨拶をします。
「ロイ様、短い間でしたが、お世話になりました」
「いや、いいんだ。それよりもこれを君の父上に届けてくれないか?」
「手紙、ですか?」
「ああ、俺の父上から君の父上宛だ」
「……」
「シャル?」
「ロイ様は私に手紙はありませんの?」
「用意はしていないが、きっと君が家に帰ったら俺に送りたくなるよ」
「? 私が寂しくなって、とは違うように聞こえますが」
「ああ、驚きと喜びで手紙を俺に送ることになるよ」
「ますますわかりませんわ?」
「家に帰って、君の父上からの話を聞くといいよ」
ロイ様は楽しそうに話します。
私にはよくわかりませんが、手紙のやりとりはしてくれるようです。
なんだか、ロイ様に余裕があって、ちょっとだけ悔しいです。
なので、私は少しだけ冒険しようと思います。
リリィは見ていませんね?
私は周囲を確認して、ロイ様の頬に口づけをします。
「手紙、返事をちゃんとくださいね! ロイ様!」
ロイ様が呆けた顔をして、こちらを見ています。
私は笑顔でロイ様に手を振り、リリィの手を借りて馬車に乗ります。
馬車に入ってから、顔が熱い。
赤面している自覚がある。
リリィに心配されましたが、「なんでもないわ」と言って、コルディヤを離れる馬車からの風景を眺めました。
お父様からの話ってなんでしょうか?
ロイ様が渡してくれたお父様宛の手紙に、私が驚いて喜ぶことが書かれているみたいですが……
いったい何なのでしょうか?
あと一話くらいシャルロッテ視点が続くと思います。




