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20/25

新年祭、将来に向けての人材育成

遅くなってすいません。

今までメモ帳で書いていたのですが、新しくテキストエディタを入れました。

設定と操作に戸惑っていました。

 エステルのマイ箸を探し終えて、俺たちが帰るときだった。

 店の奥から一人のおじさんが現れた。

 ハンナが驚いて声をあげる。



「お父さん!? 起きて大丈夫なの?」


「アレンじゃない。具合はどう?」

「ええ、もうだいぶよくなりました。店の方も娘に任せっきりでしたから……」



 なんだ、ハンナの父親か。

 顔色はもうよさそうだな。


 病み上がりのハンナの父アレンに、エステルは先ほどの話をする。



「その娘は、これから巣立つわよ。新しい商会を立ち上げるの」

「なんと! それは喜ばしいですな。エステル様が出資を?」


「商会ではなく、娘の方に、だけどね。それと、後援者はロイよ」

「ほお? お孫さんですかな? ふむ、なかなか理知的な目をしている」



 アレンに品定めされる。

 こんな子供になにができるのかと疑う気持ちはわかるけどな。


 エステルはアレンに、自身の娘と商会の後継者を育てるように指示を出す。



「アレン、病み上がりのあなたに頼むのは気が引けるけれど、あなたの娘と商会の後継者の育成を頼めるかしら?」

「はい。娘のため、商会のためにも骨を折る所存です。どの程度まで彼らを仕上げましょう?」


「娘の方は、王族の無茶ぶりにも笑顔で対応できる程度にはなってもらいたいわね。最低でも、わがままな貴族を軽くあしらえる程度にはしてちょうだい。後継者の方は、あなたに任せるわ」

「承りました」



 ハンナの顔が青い。

 これからのことを考えて、絶望でもしているんだろう。

 えらくハードルが高いもんな。

 俺もこれから忙しくなるんだ。

 一緒に頑張ろうな。


 大事なことを忘れていた。

 店を出る前に、「植物性の油を探しておいてくれ」と散歩に行くような気軽さで頼んだら、ハンナに嫌そうにされた。

 そんな彼女の頭を叩き、「どのようなものでしょう?」と物の詳細を尋ねてきたアレンは、アグネス商会にとても騙されたとは思えない敏腕商人を感じさせる。


 体調も悪くなっていたようだし、薬でも盛られたんじゃないだろうか?

 今となっては、もうわからないけどな。





 数日後には、両親が王都に向かって出発した。

 オネットは前日に、セラピーに念入りに綺麗にしてもらって、しっかり宣伝してくるわね! と意気込んでいた。

 俺はお手柔らかにとしか言えなかったよ。




 平民の新年祭は三日行う。

 俺は初日と最終日に顔を出した。

 ポーヴァ商会で出した味噌汁と焼きおにぎりは、大量に用意してあったにもかかわらず、昼過ぎには完売してしまった。


 売れた原因は、焼けた醤油の香ばしい香りが辺りに広がったせいだろう。

 その上、器を持っていけば、味噌汁は割引してくれる。

 おかわりする者が続出だ。


 商会の前に並べたテーブルは満席。

 立ち食いする者までいた。

 長蛇の列も出来てしまい、待ち時間に耐え切れない人たちのケンカも発生。

 その都度、マルスが出ていき、対応が大変だったそうだ。


 それを見て、ハンナが従業員に指示を出す。

 商会の男衆が行列の整理に動き、女性はテーブルの管理と販売だ。

 ハンナは常にどちらかに回って、休憩もまともに取れなかった。


 俺たちの予想では翌日分もいくらかは残るだろうという計算だったのだが、完売したために急遽追加で作ることになった。




 ハンナたちが心配だったが、夕方前になると迎えが来て、俺は帰ることになった。


 夜になると酔っ払いたちが、味噌汁だけを購入していったそうだ。

 そのため、せっかく作ったおにぎりが余ってしまい、ハンナがこれにキレた。

 暴れるハンナをマルスがつれていき、静かになったと従業員から聞いた。

 あとから現れたハンナは顔が真っ赤だったと、追加で教えてくれた。


 なにをしたんですかねえ、マルスさんや。


 余ったおにぎりは、徹夜で翌日の味噌汁の出汁づくりした際の夜食となり、廃棄は一切していないとのこと。


 二日目からは味噌汁とおにぎりをセット販売にして対応した。

 最初からこうしていればよかったと、あとから愚痴を聞かされた。


 こうして、無事に三日間売り切ったポーヴァ商会は、ずいぶんと稼いだようだ。

 翌日からは街で食堂を開いている料理人たちが、味噌汁と焼きおにぎりのレシピを教えろと問い合わせが殺到したそうだ。

 だが、商人ギルドにレシピはすでに登録してあるので、使いたければ金を払えということになっている。


 材料なら取り扱っているぞ! と商品を見せたハンナ。

 醤油や味噌に米。出汁となる昆布に、削り節。

 それらを見ても、これがどうなって、あの料理になるのか誰にもわからず、食堂の料理人たちはすごすごと帰っていった。


 これでしばらくの間、俺が考えた日本食はポーヴァ商会の独占だ。

 いずれは料理教室を開いて、調理工程は解禁する予定ではある。

 ポーヴァ商会にも許可は取ってある。


 王都に行くまでには料理教室を開かないとな。





 春になって、王都から帰ってきた両親。

 カーチスはいつも通りだけど、やや疲れた様子。

 オネットからは、俺が王都に来るのを、コレットがとても楽しみにしているわと言われた。


 最初はコレットって誰? となったが、すぐに思い出す。

 この国の王妃様じゃん!

 なんでそんな人が俺を待っているんだ!?


 詳しく聞くと、待っているのは俺ではなく、俺についてくるセラピーの模様。

 母の美に磨きがかかっているのが、王妃様はよほど悔しかったらしい。

 しかも、その原因がスライムと聞いて、居ても立っても居られなかったとのこと。

 王妃様が「私もスライムをテイムするわ!」と言って、周囲を困らせたそうだ。


 普段の王妃様は、わがままなんて言わないらしい。

 しっかりとした教養を持っているからこそ、その座に就いているのだから。

 だが、美容に関しては、やはり女性らしくうるさかった。


 オネットはコレットに自慢できて楽しかったと陽気に話す。

 エステルはそんなオネットに呆れていた。



「オネット、ちゃんと例のことは伝えたのでしょうね?」


「あ、優越感で頭がいっぱいで、忘れてました」

「あなたねえ……」


「すみません、あとのことはお願いします」



 なんの話だろうかと思ったが、すぐに思い出す。

 以前話したマッサージ店などのことだろう。


 忘れていたかったぜ……


 春になったらオネットが結果を持ち帰る、そう言われて待っていたのだ。

 季節一つ分も待っていたら、忘れてしまったけどな。


 エステルが今後の予定を伝える。



「ロイ、夏までには人員を選抜して、こちらに寄こすわ」


「夏頃ですね、わかりました。こちらでも準備しておきます」

「カーチス、受け入れ準備はあなたに任せるわ」


「わかったよ、母上」



 サラッと、カーチスが巻き込まれた。

 俺たちは視線を合わせて苦笑いだ。





 季節は飛んで、夏になった。


 エステルから事前に手紙が届いているので、落ち着いて準備が出来た。


 今回やってくるのは、夏休暇中の王都の学校の生徒さんたちだ。

 就職のために来るとのこと。

 だから、厳しく接してほしいと書かれていた。

 この点においては、家族と使用人に徹底周知された。


 生徒たちは男の子も来るみたいだが、そのほとんどが女の子だ。

 兄たち、それと俺に色目を使った瞬間に、王都に送り返すことになっている。

 カーチスにすり寄ろうものなら、オネットがなにするかわからない。

 使用人たちにも目を光らせておいてほしいと、カーチスが指示を出していた。


 エステル様と王妃様が言い含めているはずだから、たぶん大丈夫だとは思うけど、念には念を入れておかないとね。





 馬車が何台も連なって、館に生徒さんたちがやってきた。


 出迎えはオネットと俺とピュムたちだ。

 彼らは普段間近で見ることのないスライムに興味津々……とはならず、オネットの美しさに見惚れていた。


 それもそのはず、今日のためにと、また念入りにセラピーに磨いてもらったのだ。

 辺境伯夫人として、生徒たちに舐められないようにするためだ。


 小声で誰かが「女神様?」と言ったのが聞こえた。

 チラリとオネットを見上げると、いつもより口角が上がっていた。

 こういうとき貴族という身分は不便だなと思う。

 素直に喜べないのだから。


 あとでカーチスに報告するだろうね、俺にはわかるよ。




 オネットが一度咳払いをして注意を引き、生徒たちに説明を始める。



「ようこそ、海の街コルディヤへ。あなたたちを歓迎します。私はオネット、この子があなたたちにテイムを教えるロイよ」


「よろしくお願いします!」

「あの子が教えてくれるの?」

「まだ小さいのに、大丈夫かしら?」



 仕方ないだろ、小さいのは年齢のせいだ。

 ハア、わかっていたことだが、舐められているな。

 ここにいるほとんどの子が、俺より爵位が下なのに。


 礼儀正しい子も中にはいたが、目が完全に侮っているのがわかる。

 エステルの手紙に厳しく接していいって書いてあったし、ここは厳しくいくか。



「あとから文句を言われても困るから、先に言っておく。ついてこれない者は王都に送り返す。態度の悪い者も問答無用だ」


「小さいのがなんか言ってるぜ?」

「可愛い」

「ずいぶんと偉そうな奴だな」


「ハア。今言ったばかりだろ。お前とお前、帰れ。マルス、馬車に突っ込んで来い」


「え?」

「は?」



 まったく、言ったばかりでこれか。

 先が思いやられるな。


 態度が悪いと判断した二人を馬車に押し込めた。

 なんだか騒いでいるが無視だ。


 残っている生徒たちを見回す。



「ほかに王都に帰りたい者はいるか? 今なら手間が省けるから、こちらはとても助かるぞ」


「……」


「よし、いないな。御者には悪いが、出発してくれ。恨むなら、その二人を恨め」



 選抜したと言っていたが、使えない奴も混ざっていたな。

 もしかして、見せしめのためか?

 あの二人に関しては、わざとな気がする。

 パッと見だが、この中では年齢も上に思えたしな。


 ほかの生徒もあの二人は追い出されて当然だという目で見ていた。

 行きの馬車の中でもなにかあったんだろうか?




 ここからはオネットに説明を任せる。


 生徒たちには明日からの予定を伝えて、今日は歓迎会だ。

 夕食までの間はスライムたちと触れ合ってもらい、デモンストレーションとして、何人かの女生徒にセラピーの美容マッサージを簡単にだが体験してもらう。


 マッサージの効果を実感してもらい、女生徒たちにやる気を出してもらう。

 残った生徒は俺を侮らず、ちゃんと説明を聞いてくれるから助かる。

 綺麗になった女生徒が目の前にいるんだ。

 自分も綺麗になりたいと、熱心にテイムについて質問してくる。




 街の宿に生徒を送る為、彼らの夕食は早めだ。


 彼らのメニューは、俺にとっては不満な料理だ。

 香味野菜を漬け込んだ醤油を使った牛肉のステーキに、パンとスープだ。

 俺ならパンとスープの代わりに、米と味噌汁だな。


 一言美味しいと呟いたあとは、みんな無言で食べている。




 みんなが食べ終わったあとに、俺の食事が運ばれてくる。

 今日は牛丼定食の小盛りだ。


 生卵は使えず、七味唐辛子はまだ唐辛子が見つかっていないので、調合が出来ていない。

 紅ショウガは着色料がないだけで、刻みショウガのような野菜で代用している。

 味噌汁はシンプルに、ワカメとネギのような野菜を入れている。

 使っている味噌は、甘みのある白味噌だ。


 サラダもあるが、紹介するほどでもないので省略する。




 みんな俺が食べている料理を不思議そうに見ている。

 中にはマナーについて言いたそうにしている子もいた。


 だが、牛丼はがっついて食べるものだ。

 よく噛んでから飲み込みはするけどね。


 柔らかく煮込まれた牛肉の薄切り肉とスライスされた玉ねぎのような野菜。

 味付けもバッチリ決まっている。

 刻みショウガも辛みが、いいアクセントになっている。


 この料理を担当するのは、副料理長だ。

 副料理長は出汁に目覚めてからは、味にうるさい。

 煮込み料理を元々得意としていた副料理長。

 煮込み料理を作る際の薪を節約するために、自分でスライムをテイムしたほどだ。


 あのときは副料理長がテイムを教えてくれと、とてもしつこかったな……




 女生徒は俺の食べ方に顔をしかめているが、男子生徒はそうでもない。

 きっと魂でわかるのだろう。

 これはこういう食べ方をするものなのだと。


 牛丼が気になる男子生徒が俺に質問する。



「ロイ様、その料理はなんですか?」


「んぐっ、これは牛丼だよ。柔らかく煮込んだ牛肉をライスに乗せているんだ」

「らいす、ですか? 初めて聞く食材です」


「パンに代わる、主食の穀物だよ。明日の宿の朝食に、ライスを使ったおにぎりが出るから楽しみにしていてよ」

「わかりました。朝食を楽しみにしています」



 ふふっ、食いついた食いついた。

 この子たちには、違和感を与えないようにお米を普及しようと思っているのだ。

 王都に帰りたくないくらいには、日本食の虜にしてやろう。

 彼らには食文化の発展に貢献してもらおうかな。



 その後も俺が味噌汁を飲んでいる姿を見て、女生徒は顔をしかめていた。

 明日の朝食で君たちも同じことをするんだよ、とは言わなかった。

 宿の料理人にこれが作法だと、彼らにしっかり説明するように言い含めている。


 周りの宿泊客も同じことをしていれば、いやでも流されてくれるだろう。

 彼らの戸惑っている姿を直接見れないのがとても残念だ。




 明日からはさっそく森に移動して、スライムを探す。

 テイムの練習をするのだ。

 事前調査と狩りもしているから、危険な生物はいないはずだ。


 果たして、何人が初日にテイムを成功させるだろうかねえ?

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