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プロローグ


「ここは、どこだ……?」



 気が付いたら周囲には何もない白い空間にいた。

 記憶があやふやで、なぜここに自分がいるのかがわからない。



『気が付きましたか?』



 頭に響くような声が聞こえる。その声は凛としていて、先ほどまであやふやだった記憶がハッキリとし始める。



「俺は死んだのか……」

『はい、あなたは地球で亡くなりました。死因は伏せておきますね』


「なんで伏せるんだ?気になるんだが?」



 質問をすると、頭上から光が差してくる。見上げると、上から女性がゆっくりと目の前に降りてくる。

 腰まで届くほどの長さの夜空を思わせる髪色は黒。意志の強さを感じさせる金の瞳。

 染み一つない肌を包むのは、素人目にも美しいと感じさせる白い布だ。その布を身体に巻き付けている。

 見た目は神かと思わせるほど美しい女性が口を開く。



『あなたは突然のことで混乱しているでしょうから、今はこれからの話をしたいのです』

「これからの話?」


『はい、これからの話です』



 たしかに今は頭が混乱している。

 一旦落ち着こう。こんなときは深呼吸だな。

 ……よし、少し頭がスッキリした。今までのことは一度置いておく。

 神様。いや、この女神様らしき人の話を、今はちゃんと聞こう。



「……落ちつきました。続きをお願いします」

『わかりました。あなたにはこれから私が作った世界に転生してもらいます』


「あなたが作った世界ですか? それに、転生?」

『はい。私の世界トピアで生を受けてもらいます。先ほど小さな童が亡くなりました。その子にあなたの魂を定着させます』


「な、亡くなった子供に、俺が乗りうつるということですか!?」



 死んだという話を聞かされて、また生を受けるという話になった。

 だが、この人の話を聞く限り、俺は死んだ子供に憑依する形で生まれ変わるという。

 大丈夫なのだろうか?



『安心してください。その子は身に宿す魔力に耐え切れずに亡くなっただけです。ほかは健康体そのものです。少し体力は落ちていますが、それはこれから授ける聖印に補ってもらいましょう』


「まりょく?せいいん?」


『私の世界は、あなたの世界でいう剣と魔法の世界なのです。なので、魔力による魔法行使が可能です。そして聖印とは、創世の女神である私が与える加護です。聖印はあなたが願えば、隠すことも出来ます。普段は隠しておくといいですよ」



 右手の甲に紋章のようなものが浮かび上がる。

 自分の意思で消すことも出来るようだ。


「聖印はあなたに私の世界、トピアの知識と生きるための身体能力を段階的に与えてくれるでしょう。……けれど、力を授ける代わりに、あなたにはやってほしいことがあるのです』



 おいしい話には裏があるって、よく聞く話になってきたな。雲行きが怪しくなってきたぞ。

 この女神様とやらは俺に何をしてほしいんだ?



『あなたには私の世界の文明の発展をしてほしいのです』

「文明の発展?」


『魔法があるせいなのか、あなたが生きていた地球のように発展しないのです。ようやく戦争がなくなり平和になったのはいいのですが、私が想像していた理想郷にはほど遠いのです』

「平和な世界か、それはよかった。それで、俺はその世界に文化的な刺激を与えればいいってわけか?」


『そうしてくれると助かります。それ以外は、あなたの好きに生きてもらって大丈夫です』



 女神様の話はわかった。

 俺が今まで何をしてきたのかはまだ混乱しているが、地球のように女神様が作った世界を、文化的に発展させればいいんだろ?地球の娯楽とかを持ち込めば、意外と簡単なんじゃないか?

 魔法もあるって言ってたし、なんだか楽しそうだ。

 まだ俺に何がどこまでできるかはわからないが、依頼されたこと以外では好きに生きてもいいとも言われた。

 楽しい世界にできるといいな。

 地球、それも日本の娯楽はたくさんあったから、頑張って再現してみよう。



『それから、あなたの依り代となる身体の持ち主から伝言があるそうです』


「伝言?」



 女神様が軽くしゃがみ、小さな頭を撫でている。女神様の足にしがみつくようにして、顔をのぞかせる子供がいた。

 俺はこれからこの子になるのか。

 濃紺の髪色に、利発そうだが不安に揺れるアメジストのような紫の瞳。

 そんな子供が不安そうに俺を見つめる。



『お兄さんがボクの代わりになってくれるの?』



 しゃべっている口と言語がちぐはぐだが、意味はハッキリと理解できた。

 異世界の言葉を理解できているのは、たぶん先ほどもらった聖印のおかげだろう。

 俺は彼の目線に合わせてしゃがむ。



「ああ、俺がこれから君の代わりになるようだ」

『お父様やお母様、それと兄様たちにボクが謝っていたとお伝えください。ボクからはそれだけです』


「そうか、わかった。それだけでいいのか?」

『はい。家族には何もしてあげられなかったけど、それはお兄さんにお願いします。ボクの家族をよろしくお願いします』


「……わかった」



 俺は彼の目を見て頷き、彼の伝言と願いを聞き届けた。

 俺が彼の代わりに、家族に貢献しよう。優しいこの子のために、家族の面倒をしっかりと見るんだ。



『では、これからあなたの魂をトピアに送りますね』

「わかりました」


『創世の女神プレナスの名の下に、この者に祝福を』



 俺の意識がゆっくりと落ちていく。

 そのとき、小さな彼が叫ぶようにして、俺に質問する。



『ボクはロイ!お兄さんの名前は?!』


「俺は……!」



 俺の返事が聞こえたかはわからない。

 けれど、意識が落ちる前に見えた彼の顔は、柔らかな笑みで満ちていた。

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